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発足編29 覚醒しゆく千秋楽!?

()()()ぁぁぁぁ!!」


 ムチ昇龍を嘉坪山と叫びながら荒れ狂った猪のように突進してくる千秋楽。

 鍛冶ガールらはもとより会場内はどよめきと聞き慣れぬその四股名(しこな)にざわついた。


「何故!? 嘉坪山じゃないと話したばかりですのに……」

「八艘飛びを繰り返した当たりから急に目つきが変わったような……」


 四季彩と茜の会話を聞きながらもまだ出番が回ってこない栞菜と咲良は無言で土俵を見詰める。


「咲良、あんた何か隠してることあるでしょ? あんたの性格からして千秋楽の挙動に驚かないなんてありえないわよ」


 勘が鋭い栞菜はもしかしたら秘密の作戦でも用意しているのではないかと、顔は土俵に向けたまま最後の要と位置づけられている咲良に問いただした。

 しかし咲良は両目を大きく見開いたまま、その問いに対して何の返答もせず、頭に叩き込むかのように千秋楽の動きに注視していた。


 千秋楽の突進を受け止めたムチ昇龍は上手下手に互いのマワシを引くと、押し合い()し合いの両者一歩も引かぬ死闘を演じた。



「ヒヤッとしたぜ。炎熱猛進撃(えんねつもうしんげき)じゃなくてただの突進で助かったぜ!」

「えぇ。もしあの技で来れたら一貫の終わりとなるところでしたよ。やはりあの技を連発したことによる疲弊は大きいですよ!」


 足軽教諭は軍司にそれだけ言うと、またもやまことと目で合図しあって攻勢に出た。



「いくわよっ千秋楽!!」


 まことのその凛とした声に呼応し、ムチ昇龍に風が集まる。

 その風の助けを借りて、ムチ昇龍は千秋楽をも巻き込んでくるくると回り始めた。


「秘技・くるくるムチ昇龍!!」

「いっくぜぇ千秋楽!」

「ぬぉぉぉぉぉ!?」


 始めは実にゆっくりと回り始めた2つの巨体は、次第にその回転を早めて土俵内を所狭しと踊り、遂には会場全体をも巻き込んだ巨大な竜巻となった。


 始めからそうなることを知っていたかのように観客に被害が及ばぬよう絶大なる力を発揮したのはいつの間にか教師姿から本来の龍神に姿を変えていた伴峰と海鏡であったか。

 二人はちょうど土俵の両脇に控えて目に見えない壁のようなものを作り上げ防壁とした。


 巻き込まれぬよう滞空にて戦いの行方を見守っていた天狗は久しぶりに垣間見た龍神の圧倒的な霊力に感嘆しつつもジャッジを怠ることはなかった。



「むむ!? どうじゃ、そろそろ勝敗がつくか(いな)か……」


 ムチ昇龍の超高速回転に巻き込まれる形となった千秋楽は次第に視界すらもゼロになり、このまま敗北してもいいかと諦めかけていた。

 炎熱猛進撃の連発で(いちじる)しく体力と妖力を低下させていたムチ昇龍は目をつぶり、ムチ昇龍に掛けた上手を放そうとしたその時だ。



(その程度かっ千秋楽!)

(ふぬっ!? お、お前は嘉坪山!?)


 光の中にその勇姿が見えた。

 なんと千秋楽の心に今の時代を生きてはいないはずの嘉坪山の幻影が現れ、諦めかけている千秋楽を力強く鼓舞(こぶ)する。


(なにおう! おいどんはまだまだこれからだ。負けてなるものかっ)

(フッ。まだそれだけの口がきけるのならば安心だな。さぁ堪えて反撃に出てみせろ。()()を果たす時が目前に迫っているのだから)


(さ、再戦だと!? ぬぬ……ぬおぉぉぉぉ!!)


 くるくるムチ昇龍は千秋楽に対して絶大なる威力を発揮し、見詰める誰もがこのままムチ昇龍の勝利を確信し始めたその時だ。

 再び気力を取り戻した千秋楽は善根込めて身体全体に真っ黒な炎を灯し、高速回転を封じ始めた。



「ウソ!? あれだけ回されてまだ反撃の力がのこってるって言うの?!」


 どうやら自分の出番はないままに勝負がつきそうだと安心しきっていた栞菜は、再び出番が回ってきそうだと一度は緩めた集中力を再び呼び覚ましつつまことを応援した。


「くっ……どうなってるの? さっきまではこのまま土俵の外へ押し出せそうだったのに!」


 一番驚いたのはまこととムチ昇龍であった。2人のシンクロ率は鍛冶ガール内で付き人のようにお世話をしていた姫子とまことが一番高かった。つまりそれは自身の能力を最も効率的にムチ昇龍に伝達できるということに他ならない。



「ウソ!?」

「か、回転が止まってしまいました……」


 暴風のように猛り狂う秘技・くるくるムチ昇龍は爆音も奏でていたのだが、復活を果たした千秋楽に止められ、茜の驚く声と姫子の悲痛な叫びはその場に居合わせた全ての人々に鮮明に聞こえた。


「な、なにぃ〜!?」

「ぐはは、くるくるムチ昇龍破れたりぃ!!」


 まことは即座に距離を取るようムチ昇龍に指示し、またまた睨み合いが続いた。

 まこととムチ昇龍の高いシンクロ率で放った秘技・くるくるムチ昇龍はその言葉の通り破られ、これ以上戦いを有利に運ぶことは出来ず、想定外の千秋楽の覚醒に番狂わせよろしく、戦略を瓦解(がかい)させられた軍師・足軽は慌てて栞菜と交代するようまことに言う他なかった。



 今や流れは完全に千秋楽へと変わりつつある中、栞菜は静かに自分の霊気をムチ昇龍に送り込むような動作をしながらも、大将として控える咲良にこう言った。


「あんた何か考えがあるんでしょ? はっきり言ってあたしじゃどうにもならないからね。程よいところでタッチ交代するからよろしくね」


 栞菜の力を得たムチ昇龍はマワシの色をシルバーメタリックに変え、体力妖力の低下していたはずの千秋楽と激しくぶつかり合い、両者はマワシを引いて右に後ろに、左に前にと息もつかせぬ怒涛(どとう)のせめぎ合いを演じていくのであった。



(おい、咲良。わかってんだろうな?)

(わかってる!)

(後戻りは出来ないぞ……それでも()()をやるのか?)


 龍神・伴峰と海鏡はテレパシーで大将咲良に何事か確認を取り、咲良は相変わらず千秋楽の一挙手一投足をくっきり開いたその目に焼き付けていくのであった。


 

 つづく




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