表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/40

発足編28 天高く飛べっ!

 足軽教諭は無言で鋭い視線を四季彩に送ると、四季彩はかねてからの段取り通りにムチ昇龍に(げき)を飛ばした


「今ですわっムチ昇龍!」

「おぉう!! どりゃあーーーー」


 ムチ昇龍は金色に輝くと両差(もろざ)し(相手の両腕の内側からマワシを引いた状態)にグッと力を入れ、のしかかる千秋楽を己の腹に乗せ左にひねるように投げ飛ばそうとした。


「いきますわよっ必殺・形勢逆転(けいせいぎゃくてん)()(ちゃ)りーーー!!」

「ぬぉぉぉぉぉ!!!!」



 四季彩とムチ昇龍が繰り出したその技は土俵際に寄り詰められた時に一気に劣勢を(くつがえ)す特殊技であり、千秋楽はムチ昇龍のタルのような腹に一瞬乗せられると大きく左に揺さぶられた。



「おおっ! 打っ棄りとはなかなか技術がいる技を使うではないか」

「これで一気に形勢逆転じゃー!!」


 観覧席にいる長老衆は打っ棄りが成功したものと信じ切っていたようであったが、土俵近くにいる鍛冶ガールらは技が決まらないことに驚愕(きょうがく)していた。


「さぁはっきよぉぉい! のこったのこったぁぁ」


 行司の天狗の掛け声に千秋楽は顔を真っ赤にしながら堪えていたし、ムチ昇龍も血管がブチギレそうに顔を歪めて投げようとしたが、すんでのところで千秋楽は投げを回避し、両者は数秒距離を取って互いを睨みつけたか。



「や、やるのぉムチ昇龍ぅ……」

「けっ! 今ので決めるつもりだったってぇのに。しつこい奴め……」


 両者呼吸を荒らげて呟くように互いの技量に賛辞を送り合ったが、勝負はまだまだこれからと足軽教諭は千秋楽の大銀杏(おおいちょう)(力士が束ねるイチョウの葉のような立派なマゲ)が大きく崩れ、大分千秋楽のスタミナを削ったことを確認すると、さらなる体力の消耗をはかる。



「次! 大町(おおまち)さん! もっとやつを疲れさせちゃって下さい」

「オッケー!! いくわよっムチ昇龍!」


 金色のマワシは今度はメタリックのようなその色を落ち着け、雷のような薄い黄色へと変わり、茜は陸上で鍛えた足腰を駆使するように力を伝達。


 ムチ昇龍もかなり体力を消耗していたが、その力を得て、千秋楽を迎え撃つように腰を落とした。



「そろそろおいどんも()()を出す頃合い! ムチ昇龍、覚悟!」


 疲労困憊(ひろうこんぱい)のはずの千秋楽は少し呼吸を整えただけで体力の回復をはかり、さすがはこれまで厳しい稽古に明け暮れていたとそれぞれに思わせ、またしても突進を開始しゆく。

 だがこれまでの突進とは明らかに違い、黒い炎をまとって烈火の如く攻め寄せる。



「ぐわぁ! あんな()()()()ムッチには抑えきれないってば! どうするんだすーさん!! このままじゃムッチが炙りチャーシューになっちまわぁ!!」


 萬屋のアルコール担当ヒーさんは嘆くようにすーさんにクレームをつけたが、残念ながらすーさんにもこの先の顛末(てんまつ)など知る由もない。



 だが茜は真っ黒な炎となって迫り来る千秋楽の軌道を見極めると、ムチ昇龍とシンクロし始める。


「今よっムチ昇龍! ()()()

「くらえっ炎熱猛進撃(えんねつもうしんげき)ぃぃぃ!!」


 茜の言葉と千秋楽がムチ昇龍にインパクトする瞬間がほぼ同時であったが、ムチ昇龍は千秋楽の必殺技、炎熱猛進撃を優雅にも避けていた。

 それはさながら天馬(ペガサス)のように大きな跳躍であり、見るもの全ての思考をぐらつかせるものであった。


雷蹄(らいてい)八艘飛(はっそうと)び!!」


 いつの間にかムチ昇龍の足は馬のような硬い(ひづめ)へと変化しており天高く跳躍。それは猛進撃は空振りに終わったことを意味する。


「よーしいいぞー茜! ムチ昇龍ぅぅ」

「茜の才能をふんだんに練り込んだ八艘飛び! まるで()()()()(※)を想起させる大技だわね」


 咲良はそんな茜とムチ昇龍の見事な連携に声援を送り、講釈を織り交ぜながら喝采(かっさい)を送ったは栞菜であったが、たらりと脂汗を流した千秋楽は何故か固まって動かなくなってしまった。



「な、なんだぁ? 千秋楽の奴め避けられたショックで動かなくなってんぞ!?」

「今ですよぉ! そのまま押し出しちゃえーー」


 しかしムチ昇龍も茜も反撃をしない。

 無闇に懐に飛び込めばあの破壊力抜群の剛力でこちらが劣勢に立たされるのは明々白々(めいめいはくはく)と分かっていたからだ。

 だが千秋楽はいったいどうしたのであろうか。


 千秋楽は茜の力を得てムチ昇龍がやってのけた八艘飛びに並々ならぬ思い入れがあったからに他ならない。



(あ、あの技は嘉坪山の得意技! ヤツも空を雄大に舞うかの如く美しい八艘飛びであったが、この現代にも同等の技を繰り出す力士がいたとは…………)


 驚愕と歓喜とが目まぐるしく千秋楽の脳内を掻き乱し、最後にはそれは新たなる挑戦する心を生み出した。

 どすりとムチ昇龍に向き直った千秋楽は、さる昔、一度も自身が最も得意とする突進を嘉坪山に食らわすことが出来なかったことを思い出すと、リベンジとばかりに遮二無二(しゃまにむに)己の必殺技として名付けた炎熱猛進撃でインパクトすることにこだわり、何度も何度も体力の(いちじる)しい低下など何するものぞと繰り出し続けた。



 だがそのすべてを華麗にして優雅に回避するムチ昇龍。

 足軽教諭の目論(もくろ)み通りに事は運び、無限に思えた千秋楽の体力を大きく削ることに成功した。


(や、やはり俺では()()()には勝てぬのか……ぜぇぜぇ…………)


 違う人物と頭で理解はしていても嘉坪山そっくりな見た目と同じ技を目の当たりにした千秋楽にとって、今のムチ昇龍はまごうことなく嘉坪山に見えていたに違いない。



(よぉし思ったよりもすんなりと作戦は進んでる! 今度こそは攻勢に打って出る!)


 拳を握り次なる作戦に移行しゆく名軍師・足軽は声高らかに次なる乙女、まことを呼ばわるのであった。



鍛冶町(かじまち)さん! 攻撃に転じます! 頼みましたよっ」

「はいっ先生! 茜、交代よ、ムチ昇龍受け取って!!」


 薄黄色のマワシは穏やかにして荒々しい風の如く緑色へと変わり、旋風(つむじかぜ)がムチ昇龍を包み込んでいく。

 もはや嘉坪山と錯覚する千秋楽は目の前に立つ力士に思いの丈をぶつけるかのように突進していくのであった。




 ※前作鍛冶ガールを参照



 つづく


よかったらブックマーク登録などよろしくお願い致します(`・ω・´)ゞ

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ