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発足編27 発火よい!!

 妖怪・千秋楽が弾丸のように飛び出して行き、鍛冶ガール6人は三条城に取り残される形となっていた。

 急ぎ追い掛けないと勝負が始まってしまうと狼狽(うろた)える四季彩と姫子を尻目に、咲良はそれでもまだ動かず、じっと城を見上げていた。



「スッキリしたかしら?」

「わざわざ対戦前に話すことでもなかったんじゃないの」


 まことと栞菜はそう言って咲良に近付いたが、茜は真っ正直な咲良の性格からして黙ったまま勝負するなど有り得ないと一人納得していた。

 そしてそんな茜はただ一人、咲良が密かに龍神・伴峰と海鏡に何事か相談していることも承知していた。



「だって本当のことを知って闘うのとそうでないのとでは全然意味が違うっしょ!? それに……」


 何故か話を途中で止めた咲良は振り返ると気合い(みなぎ)る5人を見てクスクスと笑った。


「んじゃまぁ行きますか! 鍛冶ッガァール、出動!!」

『おう!!!!!』



 それぞれは火花のイヤリングを爪弾(つまび)くと、例の作務衣(さむえ)姿になり、腰袋を腰に巻き、それぞれが神器・黒鋼(くろがね)を差し、四季彩は豪壮(ごうそう)(ほこ)を背中に背負った姿へと変身。


 姫子の作り出した水の絨毯(じゅうたん)とまことの操る風にそれぞれが乗り込む形で今、鍛冶ガールは決戦の地へと急行していくのであった。


 今をときめく美少女集団、鍛冶ガールの到着と共に観客のボルテージは一気に急上昇。

 カメラ小僧はこぞってそんな麗しき鍛冶ガールらを激写し、手短に打ち合わせを済ませた超常現象解決部らは今、土俵で待つ妖怪・千秋楽と再び対峙した。



「さぁ時間一杯! 早く土俵に来いムチ昇龍!!」


 一週間みっちり稽古に励んだムッチは気力体力ともに充実しており、最初に出会った時には巨大な千秋楽に及び腰であったが、今は何故か落ち着いていて、曇りなき(まなこ)威嚇(いかく)してくる千秋楽に睨み返していた。



 とっくに土俵中央に上がっていた千秋楽は、土俵際に一旦下がるとメラメラと真っ黒な炎を上げ、行司の天狗は待ったなしの状況下でムチ昇龍の名を呼び、立ち上がったムチ昇龍は三条城と稲穂が輝く化粧マワシを見せつけるように仁王立ちしてから土俵入りを果たした。


 事前に伴峰と海鏡に言い含められている天狗は、この勝負の先にどんな結末が待っていようとも公平なジャッジをすべく、大音声(だいおんじょう)で両者を中央に呼び込んだ。



「ひがーしぃー、せんしゅうらぁくぅ! にぃーしー、むちしょおりゅうぅう〜!!」


 高らかと塩を巻き、ズシリと重く中央へと進む千秋楽。

 対するムチ昇龍も化粧マワシを取ると目一杯塩を巻いて中央へ。

 両者睨み合ったところで裂帛(れっぱく)の気合いと共に天狗が大きく発声。



発火(はっけ)よいっ」

「うぉぉぉぉーー!!」


 開始と同時に得意の体当たりでムチ昇龍の出鼻をくじこうとする千秋楽。

 しかし足軽戦法はそれすら計算済みであったか。


「よし、まずは中浦(なかうら)さん!」

「はぁ〜い! くぅぅぅぅっ……秘技・猫だましぃぃ」


 姫子が力を放出するとムチ昇龍の漆黒(しつこく)のマワシはその色を変え、鮮やかでたゆたう水色へと変色。

 さらに姫子の掛け声に呼応して、千秋楽が猛然と攻め寄せるその刹那(せつな)、両手を大きく打ち鳴らし逆に出鼻をくじいた。



「ぬぉ!? ちょこざいなっ……ど、どこだ!?」


 ムチ昇龍の猫だましに気勢(きせい)を削がれた千秋楽は狭い土俵の中でムチ昇龍を見失っていた。


「そこだ! 後ろマワシを取って、ムチ昇龍ぅぅ!!」

「ぬぉぉぉどすこーいっ」


 背後に回っていたムチ昇龍は姫子の指示通りに千秋楽の背後からマワシを取り、一気に攻勢に出た。

 体格差はあろうが後ろから押されてはさすがの千秋楽も慌てたか、激しく回り込もうと左右にその巨体を揺らしたが、一気に土俵際まで押されたか。


「猫だましとは奇策に出たか! しかしそんな押し込みではおいどんは押し出されはせん! ぐぬおぉぉぉ」


 なんと土俵際で爪先立ちして堪えていた千秋楽は、左腕を器用に背後に回すとムチ昇龍のマワシに手を掛け左に右にと体格差をいいことに揺さぶりをかけ、ムチ昇龍がバランスを崩したところで素早く横にスライドし難を逃れた。



「おぉ! ムチ昇龍の猫だましにも驚いたが、やはり妖怪! なかなか手強いかな」


 興奮気味に身を乗り出した長老衆は童心に返ったかのように手に汗握って好勝負を見詰め、萬屋からは激しい野次がとんだが、土俵内の力士2人は冷静に互いを見合っていた。


「猫だましはもう効かないでごわすぞ! 一気に押し出してくれるわ!」

「持ち堪えてムチ昇龍ぅぅぅ」

「ぬぬぬぬぬぬぬ……くっ」


 赤子の手をひねるかのようにムチ昇龍にもたれ掛かる千秋楽。だが姫子の必死の祈りはさらなる力を引き出した。

 千秋楽が体重にものを言わせて押し出そうと躍起(やっき)になればなるほど、その度にムチ昇龍はぬめぬめと隙間を()い潜るように横に逃れ、それが数回も続いた。



「なんとも水の流れのように粘るではないか! しかしいつまで持ち堪えられるだごあすかなぁ??」


 土俵内を二周三周と周りながら千秋楽の執拗(しつよう)な圧力を避け続けるムチ昇龍。

 劣勢に立たされたことにより足軽教諭は次なる作戦に打って出る。



「よし、このまま逃げ続けているだけでは勝てない。次! 四季彩(しきさい)さん!」

「承知しました! 行きますわよ、ムチ昇龍ぅ」


 姫子からバトンタッチされた四季彩は一気にパワーをムチ昇龍へと放出。

 ぬめゆめと逃げ惑うしかなかったムチ昇龍はその力を得たことによりマワシの色がゴールドに輝きを変え、腰を落として両足を大きく開き、千秋楽の激しい押し出しを堪えて見せた。



「おぉいきなり持ち堪えられるようになったぞ! スゲーぜムッチ!」

「まるで大地に根をはっているみたいだぜ」


 四季彩の力。

 それは大地の力であり、ムチ昇龍は地中深くに根をはる巨木となり、凄まじい千秋楽の突進を防ぎ続けた。

 だがそれも防御一辺倒であり、このままでは勝機すら見えぬ一方的な戦いであった。


「くっそぉ……強過ぎるぜ千秋楽!」


 熱心に戦いの行方を見守る大人らは悲鳴を上げ、ちびっ子達はムチ昇龍頑張れと声を枯らして応援する。

 このまま敗北してしまうのか。

 しかしここから怒涛の反撃が開始されようとはその場に居合わす者誰一人として知る由もない。


 もはや名軍師といった風情を漂わせて、足軽は四季彩に手はず通りの行動を起こすよう指示していくのであった。



 つづく

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