表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/40

発足編26 温まった会場で

 咲良達は妖怪・千秋楽と嘉坪山にそんな深い交わりがあったのかと内心驚いていた。

 それは固い友情で結ばれた絆ともとれたが、今現在は状況が違っていた。

 現に千秋楽は嘉坪山によく似たムッチことムチ昇龍に勝利し、この三条の地を永遠と食い物にすると豪語しているのだから。



 てっきり勘違いしたまま宿敵との一戦を間近に控えていると思っていた咲良はなお一層笑顔を振りまくと元気に言ってのけた。


「んじゃあお互いに全力を出し切るだけだね! 今のムチ昇龍は強いんだかんね!」

「それは楽しみでごわす。だが嘉坪山ほどではあるまい。おいどんが勝った暁には分かってるでごわすなぁ??」


 咲良はメンバー一人ひとりを見ると頷き合い、言葉を返す。


「わかってる! けどこっちが勝った時のこともちゃんとわかってるよね?」


 千秋楽は静かに立ち上がると今にも辺り一面を焼き尽くすかのような黒い炎を(たぎ)らせて大きく頷いた。


「おいどんは先に行ってるでごわす。互いに全力を出し尽くそう!!」


 そう言って目にも留まらぬ速さで弾丸のように決戦の地、三条マルシェ会場の憩いの広場、ムチ昇龍が待つ土俵へと飛び去っていくのであった。




 その頃、会場である土俵ではちびっこ大相撲が盛況のうちに幕を閉じ、メインイベントへと移行しつつあった。

 用意された椅子にドッシリと座って構えるは、もはや時の横綱のような風格すら漂わせるムチ昇龍。

 その両脇には足腰教諭とマネージャー軍司が腕組みして(かなめ)たる鍛冶ガールらと、対戦者の妖怪・千秋楽の到着を今や遅しと待ち構えていた。



「よっ! 大横綱! 勝てば官軍、負ければ賊軍だぞぉ!!」

「ムッチ絶対勝てよ! 俺は全額お前に賭けたんだかんなー!!」


 汚い野次を飛ばすのは既に枡席(ますせき)で宴会よろしく酔っ払う萬屋の面々で、闘志に燃えるムッチを冷笑(ひやか)したり応援したりと何とも騒がしく、その度にマルシェ実行委員であるすーさんと委員長である白石(※)が注意したりしていた。



「まぁ! まぁまぁ! みんな落ち着いて! ガラが悪いにも程があるってば」

「そうよ! 秩序を乱す人相の悪い酔っぱらいは退去してもらいますわよっ」


 そしてもう一塊、鍛冶ガールとは強い縁で結ばれた団体さんの姿もあった。


「いやはや地元で相撲が観戦できるとは持つべきものは孫娘じゃなぁ」

「ほんにほんに。鍛冶ガールの力があれば十中八九勝利は間違いなし! 大船に乗ったつもりで安心して見てられるわい」

「いや油断は禁物じゃぞ! 柊一君の話ではなかなかの手練だとか……とにかくわしらも全力で応援するしかない!」



 こちらは偉く落ち着いた雰囲気で日本酒をちびちび飲むシルバー世代。

 まことの祖父にして世界的に有名な鍛冶師である巌鉄斉(がんてつさい)(※)と権爺、それに村上館長(※)と無言で試合が始まるのを待つ長谷川(※)の長老衆であった。


 そしてマルシェに集まったあらゆる世代の人々が、人間と妖怪による大相撲を一目観ようと昭栄大橋(しょうえいおうはし)(たもと)に詰め掛け、橋はなんと通行止めにまでなっているのであった。


 熱気むんむん。

 かつてこの地にこれほどまでに多くの人々が集まったことなどあったであろうか。

 しかしそれはこの勝負を公平にさばく行司(ぎょうじ)の出現により、さらにヒートアップしていく。


 無人の土俵に突然の爆風。

 螺旋(らせん)状に鮮やかな浅緑(せんりょく)の風が吹いたかと思えば、三条人には馴染み深い宮天狗の姿が出現。


 綺羅(きら)びやかな狩衣(かりぎぬ)烏帽子(えぼし)を被り、恐ろしく長い一枚歯の高下駄(たかげた)を履くその姿は三条祭、ことに八幡宮(はちまんぐう)の大名行列で誰もが知る姿そのものであった。

 しかし手に持つものだけ今回に限り違っていた。

 いつもはやつでの葉か(おおぎ)を手にしているが、行司ということで立派な軍配(ぐんばい)を所持していた。



 そんな宮天狗は四方を一瞥(いちべつ)すると、拡声器(かくせいき)でも使っているかのような大音量(だいおんりょう)で簡単なルール説明を始めた。


「あ、あー。本日は晴天なり!! 我こそは鍛冶の町三条に根を下ろす天狗にしてこの勝負を公平に裁く行司なり! これより妖怪・千秋楽とムチ昇龍関の一戦を前に注意事項じゃ! (かしこ)まって静聴(せいちょう)せよっ」


 この威圧的な文言に市民らはいつもの天狗とは違うと思ったに違いない。

 理由は大名行列でよく見る天狗は町の青年団が衣装を着て宮天狗の格好を模しているに過ぎず、それ故に一本歯の下駄でスムーズに歩くことさえままならなかったからだ。

 しかし土俵に立つ天狗はバランスよく直立不動し、語りながらもツカツカと歩いていたからだ。


「おぉこれはしたり! 神聖なる土俵に土足は厳禁」


 威厳に満ちているのかすっとぼけているのか、とにかく宮天狗の出現により観戦者は妖怪✕人間の相撲が目前に迫っていることだけは肌で感じ、数万にも膨れ上がったその場は不気味な静けさを保っていた。



「妖怪・千秋楽はこの勝負に勝った時、この町の飲食を未来永劫(むさぼ)り尽くすと言う。そんな暴挙を止めるために立ち上がった正義の力士、ムチ昇龍が戦いを挑む!! しかしながら人間と妖怪ではそもそもの身体の仕様(スペック)が違いすぎる! そこでなかんずく我らが地元の()()()()、鍛冶ガールらの力をムチ昇龍に注ぎ込んでの立ち合いとなることをここに宣言する!」



 鍛冶ガールの名が出たことにより観衆らは歓声を上げ、それ以外は既存の相撲ルールに則って行われる一本勝負であることを胸に刻み込んだ。

 もはや天狗でさえも収集がつかなくなったその場に、隕石が落下してきたのかと思わせるほど、巨大な体躯(たいく)と轟音を響かせて妖怪・千秋楽が出現した。



「あ、あれが千秋楽かよ……」

「で、でけぇ……ムッチが小さく見えるぞ……」

「おいおい階級が違い過ぎやしねーか? すーさん!!」


 萬屋の面々はほろ酔いも相俟(あいま)って大人と子供、象と牛ほどに差がある両者のサイズの違いに弱気な発言を連発し、長老衆は絶句していたが、すーさんと軍司はヒヤリ汗をかきながらも自信満々に笑顔でガッツポーズを決めた。


「大丈夫! ムチ昇龍と鍛冶ガールなら!!」

「そう! それに足軽先生の必勝の攻略法があるんだ! そうだろ先生!?」


 軍司は肝心の鍛冶ガールがまだ到着していないことに一抹の不安を募らせ、これまで千秋楽の研究に尽力してきていた足軽教諭に(すが)り付いたが、足軽教諭は不謹慎にも感動していたか。



「おぉ!! 妖怪・千秋楽!! 会いたかったよ、見たかったよぉ!! 感動です! 生まれてこの方、一番の感動ですよぉぉ」


 大丈夫なのかと関係者らは不安でしかなかったが、何故か少し距離を置いて土俵を見詰める伴場教諭こと龍神・伴峰と、海野教諭こと龍神・海鏡は冷静に行方を見守っているのであった。



「さぁ! 勝負だ、嘉坪山ぁ……いや、ムチ昇龍ぅ!!」



 ※前作鍛冶ガールを参照


 つづく

よかったらブックマーク登録などよろしくお願い致しますです(`・ω・´)ゞ

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ