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発足編24 男同士の約束

 猛稽古に爆盛ちゃんこ、そして夜なのに昼寝を繰り返したムチ昇龍はもはや田舎の町の草力士ではなかった。


 その鍛え上げられた屈強な足腰と、柔軟な肢体(したい)。ちょんまげさえあれば大相撲の顔として人気を博していたとしてもなんの遜色もない風体であった。


 海野教諭特製のマワシ、それに栞菜と四季彩が夜なべして作り上げた会心の化粧マワシを身に着けた様は大横綱といったところか。


 特別許可を得て一週間南高に合宿していたムチ昇龍、それに軍司と三顧問は午前の稽古を軽く汗を流す程度におさめ、午後からの妖怪・千秋楽との世紀の一戦に臨むべく、足軽教諭のワンボックスカーに乗り込んだ。



「おいおい、肝心の鍛冶ガール……咲良ちゃん達はどうした? 先に行ってんのか?」


 浴衣姿でどっしりと後部座席を占領したムチ昇龍は今をときめく美少女らがいないことに気付くと少し慌て、部のマネージャーである軍司と顧問らに問い合わせた。

 しかし足軽教諭も伴場教諭も、そして海野教諭も知らぬ存ぜぬと首を横に振り、ムチ昇龍の不安を煽ったが、そこは軍司が行き先を知っていたことにより事なきを得た。



「あぁ。あいつらならちょっと立ち寄るところがあるみたいっす! 大丈夫っすよ、ちゃんと対戦に間に合うように来ますって!」

「ではそろそろ出発しましょう。現地で萬屋すーさんや権爺(ごんじい)さんが待ってます!」


「よっしゃあ出発(でっぱつ)すっぞ!!」

「…………」



 伴場教諭のまるで暴走族のような掛け声で本日の主役たるムチ昇龍の護送を開始するのであった。




 そしてそんな頃、鍛冶ガールらは嵐川橋(らんせんきょう)から見える町のシンボル、三条城を眺めていた。

 いや、ただ単純に眺めているわけではなく、これから壮絶な戦いを繰り広げるであろう対戦相手、妖怪・千秋楽に話があり、潜伏する城にまでわざわざ足を運んだのだ。


「よし。行こう」


 咲良の合図で6人の麗しき美少女達は歩み始め、城の広大なる敷地に自分のなわばりと言わんばかりに稽古場をセッティングし、おびただしい妖怪共を稽古相手としながら決戦の日を待ち続けた千秋楽と改めて対峙した。



「ほう。あの時の()()か。なんの用じゃ。おいどんはこれから嘉坪山との因縁の対決を控えてるでごわす。集中力を妨げるつもりならただではおかないでごわす」


 阿修羅の如く人相で一人ひとりに(にら)みをきかせた千秋楽。

 その鋭くも今にも押し潰しそうな妖気に負けじとそれぞれが力を放出して睨み返した。



「ふふふ。ただの町娘ではなかと思っておったが、おんしらが()()鍛冶ガールとかいうあの大騒動(※)を終息させた伝説の娘らであったか」


 咲良達の世界でも先の騒動後、鍛冶ガールらは世界を救った美少女として有名を馳せていたが、それは魔界や天界でも同様であり、世界を遊歴していた千秋楽もまた知るところであったか。


 咲良は一歩前に出るとキリッとした顔を(ほころ)ばせて勝利に執念を燃やす千秋楽に優しく語り掛けた。


「あのね、実は千秋楽に嘘をついてたんだ……あたしどうしても戦う前にそれだけは伝えておかなきゃと思って……」


 予期せぬ打ち明け話に敵意を示していた千秋楽もまたそのおぞましき妖気を抑え、聞き入る態勢となった。



「実はね。これから対戦する力士は嘉坪山じゃないんだ……あなたが勘違いしたことを利用してあたし達がそれっぽく仕立てた全くの別人なの」

「そう! 嘉坪山はとっくの昔に不治の病でこの世を去ったのよ!」


 咲良に続いて真実をありのままに栞菜は言ってのけた。

 さぞ驚き、ショックを受けるであろうと想像していた彼女らをよそに、千秋楽は腕組みして瞳を深く閉じると瞑想(めいそう)し始め、数秒後にはこれまでに見たこともない笑顔で口を開きはじめた。



「やはりのぉ……いくら見た目が似ていようとも、この千秋楽の目はごまかせはせん。おいどんも薄々は気づいていたでごわす。だが……嘉坪山との()()を果たさんが為に大勢の町民に迷惑をかけてしもうた。おいどんこそあの嘉坪山が愛した土地を(けが)してしもうた……申し訳なか」



 咲良らは顔を見合うと、その約束がなんだったのか聞かずにはいられなかった。

 千秋楽は遠い日の思い出を回想するように静かに語りだした。

 それは千秋楽がまだ名無しの妖怪であった頃、ただの荒くれ妖怪として各地の村々を荒らし回っていた頃の話であった。


 乱暴狼藉(らんぼうろうぜき)の限りを尽くす彼は各地を渡り歩き、強者(つわもの)と対戦し、勝てばその地を好き放題にして回っていたが、この三条の地に足を踏み入れた時、相撲という競技にその命を燃やす若き丈夫(ますらお)と出会う。


 それが二十一歳という若さでこの世を去ることになる嘉坪山であった。


 若くして才気(みなぎ)る嘉坪山は、三条に侵入した千秋楽の前に立ちはだかると、ある提案をしたという。




「お前が村々を荒らし回っているという妖怪か。だがこの地で好き勝手にはさせはしない!」

「ほほう。小僧、一端の口をきくではないか! よし、お前に()()で勝てばこれまで通り俺の好きにさせてもらうぞ!」


 いつものように傍若無人(ぼうじゃくぶじん)な態度で飛びかかる巨大な妖怪をキレのある八艘飛(はっそうと)びで回避し、素早く回り込んだ嘉坪山は、条件があると静止した。


「待て待て! どうせなら相撲で決着をつけないか。相撲であれば誰にも負けぬ自信がある」


 そう言って大きな円を描いた嘉坪山は簡単に相撲の説明を加える。

 単純明快なルールにニヤリと笑った千秋楽は、たまには相手の土俵で勝負するのもよしと嘉坪山の提案をのむこととした。


 近隣住民らが固唾(かたず)を飲んで見守る中、嘉坪山対千秋楽の一戦が始まるのであった。



 ※前作鍛冶ガールを参照のこと


 つづく


萬しくお願いしまぁーす(`・ω・´)ゞ

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