発足編22 やる気でました!
咲良達鍛冶ガールらは伴場教諭に誘われるがまま校舎内を闊歩し、とある部屋の前まで来た時にはその食欲をそそるにおいに始めて空腹であることに気付いた。
向かった先は調理実習室であり、伴場教諭は待ち切れないといった具合に勢いよく扉を開いた。
すると室内に充満していたコクのあるカレーのにおいが立ち込め、先程までマワシ姿でぜぇぜぇ言っていたムッチが満面の笑みで腰に手を当て咲良らを招き入れた。
「稽古も結構だけどよ、屈強な力士になってほしかったらちゃんとちゃんこも用意してほいしいぜ!」
ムッチの主張に申し訳無さそうに平謝りしたのは稽古に熱が入っていた足軽教諭とまことであった。
2人はムッチの言いたいことが何なのかすぐに理解したが、分からぬ者はちゃっかり着座しカレーライスが配膳されるのを待つ傍らで質問した。
「はいっ! ちゃんこっていったらやっぱり鍋だと思うんですが何でカレーライスなんでしょうか!?」
よだれを垂らしながらも咲良の質問は同席する多くの者達の代弁であったかのように頷く者が多数。
「うんうん。わかる! ちゃんこ鍋っていうくらいだもんね」
「そうだぜ! なんつーか、どでかい鍋を同じ部屋の力士達で囲んで土俵で食べるんじゃないんすか!?」
咲良の意見に賛同する茜と軍司は矢継ぎ早に質問したが、ムッチは半ば呆れたように眉をハの字にすると答えた。
「おいおいセルフサービスだぞ! あのなぁちゃんこっていうのは角界用語で食事って意味なのよ。つまり力士がちゃんこって言ったらそれは飯だっていうことな! わかったか?」
「これは気付かずすみませんでした。三原則を忘れておりました」
「三原則ってなんですか?」
「あのね、力士が強くなるために必要な行為。つまり稽古・ちゃんこ・昼寝ってことになるわね」
再び謝罪する足軽教諭、質問する姫子に簡潔に説明を加えたまこと。
しかしムッチが料理上手だとは知らなかった面々は自分で盛り付けし、一口食べてみると絶妙なスパイスの効いたカレーに舌鼓をうった。
「俺は調理の専門学校出だからな。まぁ料理はお手の物よ! 俺の唯一の趣味はパチンコと外食だけさ」
唯一の行為を2つ上げたムッチ。その影に隠れるように奥には実はちゃっかりカレーライスを頬張る者が2人。
所用を済ませ戻って来たすーさんと海野教諭であった。
部員らは自分達で盛り付けすると座り、ムッチ特性カレーライスをもりもり食べながら議題に上った最終課題ともいうべきムッチのやる気をどうやったら引き出せるか目で相談し合っていた。
そんなことは露知らずムッチは山盛りのおかわりをセルフすると、いったいどこへ出掛けていたのかすーさんに訊ねた。
すーさんは急遽メインイベントとして開かれることとなった相撲の段取りに奔走していたらしく、何故か咲良らがネットで見つけたSK探偵事務所の新たに更新された内容を興奮気味に一同に開示した。
「SK探偵事務所のサイトになんと妖怪・千秋楽のインタビューが載っていたのです! しかも千秋楽は自分が勝った時の条件まで付けてるんだ!」
すーさんがSK探偵事務所のことを知っていたこともさることながら、その勝利条件とやらが気になった咲良らはすーさんが開いたパソコンの画面を見詰めた。
「あ、あぁ……嘉坪山ぁ、見ているでこわすか? もうすぐ約束の対決でごわす。万に一つもおいどんの敗北はなか! そこでおいどんの勝利の暁にはこの町の永年無料飲食の権利を主張するでごわす! この町には旨いものが多い! おいどんはこの地に落ち着こうと決めた。いいか、嘉坪山ぁ勝負は正々堂々! おいどんが勝ったらそうすることに決めもうした。万が一負けた場合はおんしの言うことを素直に聞いちゃる。わかったな嘉坪山ぁ! 逃げるなよ。ぐふふふふふふふふ」
そのインタビューを見た鍛冶ガールらは闘志に燃え、愛する我が町を好きにはさせないと改めて決意を固めたが、この千秋楽の横暴はありがたいことに最重要人物にとっても火を着ける結果となった。
「なぁんだとぉ!! そんな勝手は絶対に俺が許さねぇぞ千秋楽!! この町の食はこの俺が絶対に守ってみせるぜっ」
唯一の趣味の一つ外食はどうやら地元での食べ歩きであったようだ。
そしてあのような巨漢の妖怪に無銭飲食された日にはどの店も潰れてしまうと怒りに燃えるムッチ。
咲良達は顔を寄せ合い、全ての議題が解決し、後は自分達とムッチがいかにシンクロするかを考えれば良いだけになったことにほくそ笑んだ。
「よぉしお前ら、ちゃんこが終わったらわかってるよなぁ!?」
「うん! 早速連携プレーの練習だね!?」
「燃えてきたわよぉ」
咲良と茜は立ち上がって早くも特訓を開始する態勢になったが、そこはムッチが気怠そうに顔を歪めて否定した。
「もう三原則を忘れたのかよ。稽古・ちゃんこときたら次は昼寝に決まってんだろ! 伴場先生に頼んで柔道場に布団を用意してもらったから俺はこのあと一眠りさせてもらうからな」
「わ、わかったよ! ムチ昇龍!!」
「おう! また昼寝が終わったら猛稽古だぜ!」
ムッチは食後の惰眠に上機嫌でムチ昇龍と新たな名前が付いたことも気付かぬまま柔道場へと消えていった。
全員ムッチ特性カレーライスを美味しく頂き、栞菜と四季彩は海野教諭も含めて早速被服室へと出陣し、姫子と茜、それに軍司と伴場教諭が仲良くは後片付けを始めた。
咲良も同じく洗い物をしようとしたその時、まことに引き止められ、再び座らせられた。
「どったの? まこと……」
「すーさんに聞きたいことがあります。咲良にも一緒に聞いてもらいたいの。すーさん、SK探偵事務所のこと何か知ってるんですか?」
謎の探偵事務所。
あらゆる超常現象を投稿するサイトの運営主。
だがそれはここ地元三条に特化されていることをまことは既に気付いており、SK探偵事務所に何事か感じるものがあるようでもあった。
少し難しい顔をしたすーさんは下顎をしゃくる独特の風体で生真面目な視線を向けるまことと相対するのであった。
つづく
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