発足編21 必勝会議!
それぞれが咲良と同様に自身の力をムチ之山だか海に放射し、全6種類の相撲技が完成した。
あとはいかにこれらの技を的確に使いこなし妖怪・千秋楽を下すかだけであった。
「作戦参謀は足軽がやれ」
無口にして無表情の海野教諭はポツリと呟くように同僚であり妖怪と相撲が大好きな足軽を指名し、無言のまま去っていった。
足軽教諭は昨晩遅くまで妖怪・千秋楽のことを調べていたらしく、千秋楽の立合いの癖や強み、そして弱点などを知り尽くしていることを海野は知っていたからに他ならない。
そして本番までの残された時間を化粧マワシ作成とムッチの強化に注ぐべく、一旦は部室に戻り作戦会議を開くこととなった。
議題は化粧マワシのデザイン、ムッチ関の正式名称、そしてムッチの強化と戦略に絞られ、早速議長まことの仕切りで部活は始まったが、当のムッチは伴場教諭と何事か会話した後、何処かへと行方をくらましていたが、そこは休息も必要と追手を差し向けなかったのは足軽教諭である。
「じゃあ化粧マワシのデザイン。何かある人」
「はいはーい! やっぱり三条城がいいんじゃないかなぁ!!」
言い出しっぺの咲良は開口一番ピシャリと意見を述べ、たいして化粧マワシに思い入れのない面々はそれをすんなり受け入れたが、部長に侍っていた四季彩は追加注文を主張したか。
「はい! 三条城はもちろんですが、やはりここは米処! 瑞々しく伸びる稲穂も取り入れてはどうでしょうか!?」
それに対してもやっぱり思い入れのない面々は自動的に取り入れることとし、栞菜は軽くスケッチすると咲良と四季彩に許可を取り、助手に四季彩を指名し会議終了と共に制作に取り掛かることとなった。
「次にムッチ関の正式名称ですが、何か意見のある人は挙手を」
「はいはーい! やっぱりムチ之山がいいと思いまーす!」
ここでもやはり咲良の勢いは止まらなかったが、名称にそれほどの思い入れのない面々はそれで構わないと異論はなかったのだが、相撲大好きまことと何故か軍司は反対意見を述べ始め、議論が長くなりそうだなとさっさと化粧マワシ作成に取り掛かりたい栞菜は溜め息をつくと窓の外のに目を向け、付き人姫子はせっせと顆粒のスポーツドリンクをペットボトルに移したりしていた。
「千秋楽はムッチさんを嘉坪山と信じきっているんだからここは嘉坪山がいいと思う」
「えぇ!? それじゃ詐欺っすよ会長。それよりか日本海に面してんだからムチ之海が俺はしっくりくると思うけどなぁ……」
どうでもいいよ言わんばかりに眠そうな目を擦ったのは茜であり、連続溜め息をつくのは栞菜であり、スポーツドリンクを大量に生産したのは姫子であったが、無言を貫く足軽教諭はついに口を開いた。
「確かにどれも魅力的ではありますね。だがしかし山や海は既に名力士に使われています。もう一捻りほしいところです……」
何言ってんだこのアホ教師はと話を大きくこじらせる足軽教諭を睨んだのは栞菜だけではなく、茜もであった。
それぞれが主張し合った3人は腕組すると高い天井を見上げ、それはそれは長いシンキングタイムが始まった。
「じゃあさぁムチ昇龍ってのはどう? ほらムッチさんてどことなく朝青龍に似てるっていうかぁ……だからモジッて昇龍……ってダメかやっぱり。あはははは……はぁ…………」
重苦しくも終わりの見えない議題に嫌気がさした茜はポツリとギャグのつもりで囁いてみたが、それがこの問題を解決に導くとは思ってもいなかった。
「茜それいいよ!!」
「確かに! 歴代横綱の中でも私は最も彼が強いと思っていたもの!!」
「それに似てる! そう言われればクリソツじゃないか! マゲがないのが悔しいくらいだぜっ」
「うん! いい! 四股名はムチ昇龍に決定ですね!!」
新たに定まったムッチ関の四股名に喝采する面々と、ギャグのつもりで呟いた自身の提案がここまで受け入れられるとは思いもよらなかった茜は共に歓喜した。
「よかったわ。ここまで有意義なディスカッションが出来て嬉しいわ。あとはムチ昇龍の強化と戦略ですが」
まことはそこまで言って戦略担当となった足軽教諭を見たが、先程までの歓喜はどこへやら足軽は急に沈鬱な表情を浮かべていた。
「それなんですがね。大きな問題があるのです」
沈痛な面持ちで机上で腕組みした足軽は、一度鍛冶ガール+軍司を見渡すと深い溜め息をついた。
これは相当な大問題が隠されていたのではないかと、無関心を装っていた栞菜までもが足軽に視線を向け、部長咲良は即座に問いただしたのは言うまでもない。
「我々はこの町の平和のため妖怪・千秋楽を排除するためにこうして行動していますよね。ですが人身御供さながらの当のムチ昇龍にやる気が感じられない……これは強い意志同士の対決。いくら君達鍛冶ガールの強い力があってもそれを受ける側に強靭な肉体と強い精神力なくして勝利は有り得ない……」
要するにムッチにやる気がないのが心配であり、不安であると提議した足軽。
確かに半ば強引に、そして無理やり力士にされたムッチからすれば何故俺がと思い、稽古に熱が入らぬことも致し方ないと初めてメンバーは彼の気持ちを慮った。
しかし既に対決は避けられぬ所まで迫っていることもまた事実であり、ムッチのやる気をどのようにして引き出すかが重要なポイントとなっていった。
はっきり言っていきなりマワシ姿にされ、老体に鞭打って硬い身体を無理やり伸ばされてはかなわないと誰もがそう思い、口をつぐんだが、そんなどんよりとした部室にムッチと何処かへ消えていた伴場教諭が嬉しそう入ってくるやいなや全員をある場所へと連れ出して行くのであった。
いつの間にか正午を回り、部活動で賑わっていた校内はがらんと静けさを保ち、廊下をぞろぞろ歩く咲良達の足音だけがこだましていくのであった。
つづく
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