発足編20 魔改造のムチ之山だか海!
ムッチの激しい稽古の最中、急遽化粧マワシを作成することになった栞菜は、被服室へ向かう前に何かを思い出したかのようにジッと軍司を見詰めていた。
怪しい視線を感じた軍司は、背筋が凍ったが、それは吉報であったか。
「そうそう、これ」
手のひらには五百円玉がキラリと光り、なんの賄賂だと不審な目を向ける軍司に栞菜は付け加えた。
「はぁ〜? 昨日の私のレモンティーの代金よ。いらないの」
「か、カンナムぱいせん!」
あなたは常識人でしたかと貧乏学生軍司は、受け取ってしかるべき硬貨が一際輝いて見えたが、それは次々と続いた。
「あっそうだったわね。はい、軍司君! 私の分よ」
「か、会長!!」
「姫子も用意してきました! ありがとうございました!」
「こ、後輩!!」
「私もキチンと持ってきましたわ! その節はお世話になりました軍司先輩」
「こ、後輩その2ぃぃ!!」
次々と部活小僧にマネーが戻って来たことにより、心と財布にゆとりと潤いが戻ったが、残りの2人はなかなか返済しようとはしなかった。
それどころか妙に不自然にその話題から逃げているようにさえ見受けた。
「よ、よーし化粧マワシ作りにGO!!」
「ひ、人手足りてる!? 私も行こうかなぁ……」
「ちょっと待てぇーい!! みんな金を返してくれたぞ! 今度はお前らだろうが同輩!!」
常日頃からクラスでトリオとして仲が良い3人であるが故にちょっとした金銭のちょろまかしも日常茶飯事であったか、しかし他の者が完済したというに自分達だけ債務を背負っているわけにもいかず、渋々自前の財布のその重苦しいジッパーを開いていく。
「うん! 確かに全員から受け取ったぜ! これで借金なし! さぁ稽古の続きだ続き!!」
思いがけずすんなり集金出来た軍司は上機嫌で新たな秘密兵器を準備する伴場教諭の冷やかしに回ったが、彼は自分が注文したハンバーグとコーラフロートも彼女らの腹におさまっていることを失念していたが、それっきりその話題は闇に葬られた。
結局被服室に向かう前にデザインも決めなければという話になり、それは伴場教諭の秘密兵器と海野が作成したマワシ本来の使い方を試してからということになった。
「じゃあいくぞー! ほれっ」
伴場教諭は藁半紙のような紙片をチョキチョキとハサミで人型に切ると無造作に放った。
するとどうだ、煙がぼわっと湧いたかと思えばそこにはのっぺらぼうの相撲取りが出現していた。
「俺が作った式神だ。練習相手がいなけりゃ基本の稽古しかできねぇだろ?」
「おぉ! 伴場先生すごいですね! 確かにここからはぶつかり稽古などをしたいと思っていたところですよ」
いつから相撲部の顧問になったのか足軽教諭は練習メニューまで作り、まだまだムッチをかわいがるつもりらしい。
もはやムッチへの悪質なるイジメ意外のなにものでもなかったが、当の本人達に一ミリもミクロンも悪気がないだけに反抗することさえ出来ずじまいのムッチは、やぶれかぶれに式神力士にぶつかっていく。
「そこっ! すぐに相手のマワシを取る!!」
「まわり込め! 相手はなかなかのスピードだぞ!」
「が、がんばれー! ムッチィ関ぃぃ」
セコンドからの激しい助言と、付き人姫子からの例の桃色の声援が届いたが、ムッチ関はあえなく吹き飛ばされ目を回してしまった。
「あんなんに敵うわけねーだろ……いてててて……」
弱音を吐くムッチを無表情にして無機質に見詰める海野教諭は、いよいよ特注マワシの出番であると鍛冶ガールらに告げ、皆を変身させた。
前述した通り、彼女らのお揃いの作務衣はそれぞれが違った模様と形に変化しており、個性豊かなものとなっていた。
咲良は上下黒に黄色いエプロン。だが太ももがあほとんど露出するほどに短かったし、茜は鮮やかな薄緑の作務衣、そしてこれまた太ももを強調するかのようなキュロット的短パンに一枚小袖を羽織る格好であった。
姫子は自身の桃色ヘアーと同色のこれまた鮮やかな上下に茜よりも濃い緑の小袖を重ね着し、腰に可愛い柄のエプロンを巻いていた。
栞菜は上下茶色に統一された作務衣で、その下には黒の長袖を着て濃い紫のロングエプロン、まことは純白のタンクトップ、脇にオレンジと白のストライプが入った七分丈ズボンに頑丈な職人がまとうようなエプロンをがっちりと着込んでいた。
唯一四季彩だけが紅白の巫女の衣装であったが、それも十代とは思えぬボディラインをしっかりと誇張していた。
全員に言えることであったが、その透き通るような肌が際立ち、豊満なバストを誇るまことと隠れ巨乳の姫子の胸は締め付けられ際立っていたし、美脚とその絶妙なスタイルを引き立てられたのは茜である。
それに細身の栞菜と咲良はさらにスリムに見えたか。
「昨日もそうだったけどイヤリングをいじってもらってから作務衣が変わったよね?!」
「えぇ。以前より身体に馴染んだ感じよね」
新たなフォルムとなった互いの作務衣をあれこれと感想し合うは、今をときめく麗しの鍛冶ガールといったところか。
しかしそんなことはお構いなしに再びムッチを立ち上がらせ式神と対峙させた海野教諭は、まずは小手調べとばかりに咲良を指名し、個々の持つ能力をムッチに届ける感じでイメージするよう指示した。
「んんんんん……それ! ムチ之山に届け!!」
咲良が爛々と燃え盛る力を放射すると、ムッチは烈火の如く炎に包まれ、パワーが増大していく。
「おぉ!? なんだこりゃ力が漲ってくるぜ!!」
「よし、ムチ之山いけー!! 火炎張手ぇぇぇ!!」
即席の技名まで付けた咲良の一言は燃え盛るムッチを突き動かし、その名の通り張り手の一つひとつが火の玉となって式神に襲いかかる。
火炎張手を受け止かに見えたた式神力士であったが、堪えきれず大桜に激突し、煙に巻かれて消えていった。
「やったぁ! すごい力! これが魔改造されたムチ之山の底力っしょ!」
なるほどこれが魔改造かと残りの鍛冶ガールメンバーらは自分達も是非とも試してみたいと、伴場教諭に新手の式神力士をリクエストしていくのであった。
(魔改造って……ただの操り人形じゃねーか……)
と内心ツッコミを入れたのは軍司であり、
(魔改造って……ただ操られてるだけじゃねーか?)
と内心疑問を抱くムチ之山だか海なのであった。
つづく




