発足編19 特訓!また特訓!!
龍神・海鏡こと海野教諭が萬屋ムッチの腹回りから下半身を採寸して作成したマワシが完成し、妖怪・千秋楽との一戦を前に激しくも厳しい特訓が開始された。
「もっと重心を落として! はいっ右足を高くあげるー!!」
「ぐぬぬぬぬ」
「ダメダメェ! もぉっと激しく地面を踏みつけてぇー」
「ふぬぬぬぬ」
運動部の邪魔にならぬよう、学園内で一際大きな桜の大木の前で必勝の稽古を始めたムッチは三十路をとっくに越えた身体を酷使して相撲大好き足軽教諭と、実は祖父と大相撲を小さい頃からよく観ていたまことの叱咤激励的掛け声に合わせて不慣れな四股を踏んでいた。
「これはなんの練習なの??」
相撲に馴染みのない茜はそんな風景をキョトンとして見詰めながら鍛冶ガール内きっての知識人である栞菜に無意識に質問していた。
栞菜はいつものようにの人差し指を突き上げ、左手にはそれスクールカバンに収まりきるのですかと思わず問いただしたくなる程に分厚い大福帳を携えて、ギラリとメガネを光らせて振り返ると、ベラベラと講釈をたれた。
「あれは四股っていってね、力士にとって最も基本的な稽古の一種よ。なんだかんだ下半身のバランスと強化が屈強な力士を生むわけよ」
栞菜の理路整然としたアンサーになるほどなるほどと何度も頭を上下させた茜は、今度は少し距離を置いてしゃがみ込む咲良と四季彩が何をしているのかと、今度は稽古を熱心に見詰める姫子に問い合せてみた。
ぶりっ子日本代表の姫子は拳を握りつつ眉をつり上げて相撲部マネージャーのように桃色の声援を送っていたか。
「えっ? なんですか? 咲良さんと四季彩さん? さぁ……何してるんでしょうか……」
「咲良のことだからまたしょうもないこと考えてんだろうよ」
姫子の隣でついに始まった猛特訓を呑気にも眺めていた軍司は、稽古と関係ないことをしていたら叱りつけ、ついでにウヤムヤになっている前日のコーヒー屋でのお会計の話を切り出そうと詰め寄り、二人が地面に向かっていったい何をしているのか覗き込んだ。
「おいおい、なに落書きしてんだよ! 今はあの妖怪に勝つためにやるべきことをやれよ! それになぁ」
軍司にとっては後半が最重要であったのだが、振り向き様に口を尖らせた咲良がすぐにそんな彼を黙らせた。
「いま重要なことを決めてるんだもん! ムチ之山には必要不可欠な物なんだからっ」
「そうですわよ! これなくして土俵入りはできませんわっ」
千載一遇の集金のチャンスを逃した軍司は、小枝で地面に描いているものを見ると首を横に傾けボソッと鋭いツッコミを加えた。
「なんだこれ? なんの落書きなんだこれ」
「もうバッカねぇ軍司! あれ? でもこれってなんていうんだっけ?」
「う〜ん、なんでしたか……」
そんな三人の一悶着に合流した茜と栞菜は軍司同様にその落書きを覗き込み、茜は軍司と同じく首を傾げたが、知恵袋栞菜は不敵に笑うとずり落ちてもいないメガネを一度上げる仕草をして解説を始めた。
もはやネオ栞菜寸前だ。
「あぁ。それは多分化粧マワシじゃないかしら? ほら十両以上の力士が土俵入りする時にマワシのさらに上に着ける前掛けみたいなものね。わからない? その力士にちなんだ装飾が派手にされたあれよぉ!」
「そう! それ! 化粧マワシ! あたしそれが言いたかったんだよね」
軍司と茜は雲ひとつない空を仰ぐと、何となくイメージができたようであったが、果たしてそんなものまで必要なのかと疑問に思ったが黙っておくことにした。
「はい、ムッチ関、少し休憩しましょう! 姫ちゃーん! スポドリお願い!」
「はぁーい! どうぞ、ムッチ関! キンキンに冷えてますよ❤ たおるもどうぞ!」
「あ、ありがとう姫子ちゃん……はぁはぁはぁ……な、なんで俺だけこんな目に……すーさんの野郎逃げやがったな……」
稽古に熱が入る足軽教諭とまこと、そしてムッチ関の付き人のように世話をやく姫子。
化粧マワシについて論議する咲良、四季彩、茜、軍司、栞菜。
そんな突如として発足された謎の部の謎の活動に運動部の部員らはランニングと称して興味津々にチェックしていたし、校舎の窓際には文化部がやはり物珍しそうに咲良らを観察していた。
それはそうだろう。
見慣れぬ力士が学園内の名所、大桜の木の下で突然相撲の稽古を始めたのだから。
しかしそんなことをいちいち気にするほど肝の小さい人間は残念ながらこの部には皆無であり、所用を済ませた海野教諭と伴場教諭が合流する頃にはムッチ関のハードなトレーニングは再開され、化粧マワシの件は突貫工事よろしく栞菜と四季彩が急ぎ作成することと相成った。
「いでででででぇーー!! まことちゃん、痛いぃぃ!!」
「ダメですよ、力士にとって身体の柔らかさは重要! ちゃんと股を開いてっ」
昨日まで自称裏地域活性化集団・萬屋の一員として活動し、夜の繁華街に繰り出して大酒を飲んでいたムッチにとって股割と呼ばれるいわば相撲稽古のストレッチは悶絶ものであったに違いない。
しかし火がついた体操着姿のまことは、遠慮なしにあろうことかその巨乳を押し付けるように、無理やり両脚を開脚させてムッチの上半身を地面に押し付けていた。
無論その場に居合わせた男性陣は鼻を手で押さえ、羨ましがったが、当のムッチはそんな感触よりも股が割れそうであったし、脂汗が止まらなかった。
「う、羨ましいぜくそぉぉ」
「あのマシュマロみてーなおっぱいが背中にピッタリ……ちきしょうムチ之山めぇぇ」
勝手にマワシを装着され、そして勝手に稽古という名の拷問を強いられるムッチ。
そんな彼に秘密兵器を携えて来た伴場教諭は、巨乳まことと激しくボディタッチを繰り返すムッチへのさらなるかわいがりを始めていくのであった。
つづく
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