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発足編18 目指せ最強の力士!

 前夜、ついに町を揺るがす妖怪・千秋楽と対峙した鍛冶ガールらは、町での暴挙を止めるために何故か因縁のライバルと勘違いする萬屋ムッチと相撲で勝負する運びとなった。


 鍛冶ガールらの目的はもちろん我らが町の平和を守るためであり、その唯一の方法は足軽教諭(いわ)く、()()()()()()()()()ことらしい。

 そしてそれは咲良の発想にて10日後に開催される三条マルシェという町の一大イベントに合わせて檜舞台(ひのきぶたい)を整えたわけなのだが。



 次の日、土曜日にも関わらず咲良達鍛冶ガールらは超常現象解決部の一室に集まり、日をまたぎ9日後に迫った大勝負をどのようにして打ち勝つかを協議していた。 

 運動部はもとより、文化部も新たな新人を迎え、活気に満ち、そこここで熱のこもった声出しや慣れない楽器に悪戦苦闘する吹奏楽部の楽器音がこだまする中、集まったメンバーは他にマネージャー軍司、萬屋スーさん、ムッチ、そして顧問3人衆であった。



 しかし協議に入る前にと突然立ち上がり、お得意の大福帳を片手に黒縁メガネの奥に燃えたぎる眼光を備えつつもホワイトボードを駆使し、永遠と講釈を垂れる栞菜の姿があった。

 どこまで続くか分からぬ()()栞菜の熱弁に早速辟易(へきえき)したのは当の部長咲良であり、前日に大枚をはたいた軍司であったか。


 しかしその熱弁は妖怪・千秋楽と聞き慣れぬ嘉坪山(かつぼやま)なる謎の力士との因縁にまで及んだことにより、集まったメンツは興味深くホワイトボードと栞菜を順番に見詰め続けた。



「おっほん! この町の平和を脅かす妖怪・千秋楽。幾度となく名前が上がった嘉坪山なる力士との因縁はおそらく数十年前に遡るのよ!!」


 ネオ栞菜は止まらない。


「私もあの後、歴史研究クラブに顔を出して、その嘉坪山について色々と調べてみたのよね。そしたら出るわ出るわ嘉坪山の知られざる半生!! クラブの会長の話によると、その当時(80年程前)、あの有名な第36代横綱・黒羽山(くろはやま)をも凌ぐ強さを誇る稀代の名力士がこの三条に居たとかか居ないとか!!」


「黒羽山っていうと新潟県出身力士で唯一の横綱にまで上り詰めた人物ですね? そんな黒羽山を倒す力士がこの地にもいたとは驚きです!」



 実は大相撲も好きな足軽教諭はネオ栞菜に負けず劣らず、興奮冷めやらぬ体で質問をぶつける。


「でた、ネオ足軽……」


 咲良と姫子、それに四季彩は興奮すると栞菜のようにトランス状態となる足軽を密かにそう呼んでいることを茜やまこと、軍司らにコソコソと伝えた。


「そう! そして黒羽山をも下す嘉坪山はその噂を聞き付けた妖怪・千秋楽と一番勝負を繰り広げ、千秋楽に見事勝利! 土をつけられた千秋楽は全国各地へと武者修行の旅に出るのよ。もちろんお互いに再戦の約束をしてね」



「けどよ、その嘉坪山ってヤツ、横綱にまでなった黒羽山にも勝つほど強かったのになんで有名になってないんだ??」

「いい質問ね! チャンバラくん!!」


 ネオ栞菜は止まらない。


 栞菜の調べでは千秋楽が武者修行に出た数年後、不治の病を患い、わずか21歳の生涯を閉じたのだとか。


「それが()()()()俺に似てたってことかよ!?」  


 ムッチは海野教諭に言われるがまま両手を広げ、腰回りから何からを採寸されている最中にも関わらず、貧乏クジを引かされたことに酷く落ち込んでいたが、咲良の言う魔改造は既に始まっていた。

 どうやら海野教諭はムッチ専用の()()()の制作に取り掛かるようだ。



「ムッチさんには悪いけど付き合ってもらうしか方法はないわよね」

「えぇ。後はどうやったら妖怪・千秋楽に勝てるか……」


 茜とまことは真剣に考え始めたが、咲良の言う魔改造の意味を深く考えてはいなかった。

 補足するかのように咲良が腰を上げて自信満々に言ってのける。


「だからぁ! あたし達の力を()()之 ()()に転送出来るマワシを海鏡に作ってもらうんじゃん!!」

「……咲良、海野先生と呼べ……」


『ムチ之海ぃぃ!?』


「あ、あれ!? やっぱムチ之山がいいかなぁ??」


 四股名(しこな)に食い付くあまり魔改造の真意を見失いかけた部員に、無表情の海野教諭はボソボソと説明を付け加える。

 なんでも鍛冶ガール6人の力をムチ之海だか山に送る特注のワマシを作るのだとか。



「フフン。海鏡はこういうの得意だかんなぁ」

「口ばっかのお飾り顧問よりよっぽど顧問らしいぜ」

「あぁ!?」


 もはや名物となりつつある顧問とマネージャーの(いさか)いなど無視して両手を広げて仁王立ちのポーズをするムチ之海だか山を取り囲んだ鍛冶ガールらはマワシ完成の暁には、妖怪・千秋楽打倒のためにあれこれと取り組みのイメージトレーニングを始めるのであった。



「嗚呼……僕も早く妖怪・千秋楽をこの目で見てみたい!」



 妖怪大好き足軽教諭は瞳を輝かせて天井を見詰め、軍司は前日のお会計の件をいつ切り出そうかとソワソワするのであった。



 一方その頃、千秋楽は。



「グフフフ……やっと見付けた嘉坪山。あの時の惜敗(せきはい)、おいどんは片時も忘れたことはありもはん!」


 千秋楽は咲良との約束を守り、人気のない場所にて精神統一の真っ最中であった。

 奇しくもそこは、今や町のシンボルにして鍛冶ガールの代名詞となりつつある三条城の広大な敷地内であった。


 強力な千秋楽の妖気に釣られるように、様々な妖怪やらが集まり、千秋楽は稽古相手に事欠かない状況であったか。   



「さぁ! まとめてかかって来るでごわす!! おいどんは嘉坪山以外に負けたことはなかっ! なんだなんだそのつっぱりは!? もっと重心を落として四股をふむでごわすよ!!」



 自身の稽古にも関わらず後進の育成にでも取り掛かるかのような妖怪・千秋楽の風景であった。



 つづく







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