発足編13 めくるめくメニューと軍司と美少女と
「はぁい、お待ちどう様~!」
咲良達が注文したメニューが一斉に運ばれて来た。
専門学生のアルバイトであろうか、咲良らが注文した品々を不馴れにもお盆に乗せてせっせと運んでいたが、もはや咲良達の視界には入ってはおらず、めくるめくごちそうに釘付けとなった。
ナポリタンとクリームソーダを注文した咲良は、先ほどまでのバスト談議さえも忘れたかのようにフォークでくるくる巻き上げ、ナポリタンを口に運ぶと舌鼓を打ち、コーヒー屋名物の焼きカレーを一口頬張った茜も顔を綻ばせて食レポに余念がない。
そして元々少食の栞菜はレモンティーで喉を潤し、実はまこと同様に胸の膨らみに悩みを抱え、断腸の思いで主食を我慢しパフェを頼んでいた姫子は、ずらりと並ぶごちそうによだれが垂れていることを四季彩に指摘された。
四季彩はそんなその心情を察してか、パフェをちびちび食べるぶりっ子に自分が注文したオムライスを半分提供。
初めは大仰に手を振り遠慮した姫子であったが、香ばしい匂いにつられた直後には食したことのない酸味の聞いた謎の食べ物の虜となって、結局半分ほど頂くこととなった。
「んまぃ! ナポリ最高!」
「この焼きカレーもなかなかよ!」
「待って下さい! このおむらいすも絶品ですわ! それにこのぱふぇも甘味を凝縮したようです!」
「うん! 甘露だねぇ♡ あとおむらいすの酸っぱいのとよく合います!!」
不馴れな横文字を使う天文娘ズを横目にクールにレモンティーで唇を湿らした栞菜は、180度顔を回すと、黙り込んでコーヒーをすするまことを見るとニタニタした。
「な、なによ!」
「本当に何も食べなくていいのぉ??」
栞菜の意地悪な問いに、腹の虫が鳴りそうで赤面したまことは、何とも思っていなかったのだが軍司はどうしたのかと話を反らした。
「それでうまく話を反らしたつもりかしらぁ?」
「あぁ……あのねぇ。モシャモシャ。軍司はぁ、なんだっけ? なんか知り合いかな? のところへ行ったんじゃない?」
目下ナポリタンに夢中の咲良は心ここにあらずといった感じで答えたが、他のメンバーはその問いに答えすらしなかった。
「ねぇ! 茜! ナポリ本当に美味しいよ! 一口いかが??」
「ははぁ~ん。あんたの魂胆は分かってるわよ! 私の焼きカレーも食べてみたくなったんでしょう?」
どこかで見たようなシチュエーションを背に、軍司は二人席に座る暗い少女二人をこんこんと諭しているようであった。
「だからよぉあいつらだって始めっからあんなに楽しそうにしてる訳じゃないんだぜ! 色々苦労してきたんだこれがぁ」
何故か偉そうな口振りでうつ向く二人に語りかける軍司ではあるが、その二人は何か大きな悩みでもあるのか、沈鬱な表情は変わらず、恨めしそうに咲良ら鍛冶ガールらを見るばかりであった。
「お前らだって普通にしていれば可愛いし美人なんだからもっと自信持てよ!」
「あんたにあたしらの気持ちなんて分かんないわよ!」
「そうそう……」
どうやら詳しい事情は分からぬが、それは根深いようであり、軍司はちょちょいと注文したハンバーグとコーラフロートが今まさに獰猛にして食べ足りない鍛冶ガールらの餌食になろうとしているとは露程も思わず、またこんこんとお説教を開始する。
「ねぇ! グンちゃん忙しそうだから変わりに食べてあげよっか?」
「えっ!? そんな人の物まで食べるなんてはしたないですわ!」
「そうですよぉ。咲良ったら!」
真面目な四季彩と姫子は咲良のそんな提案に断固反対の意思を表明したが、その言葉とは裏腹に視線はまるで沸き水のようにじゅうじゅうと中から肉汁を出す謎の肉塊に釘付けであり、コーラフロートにも興味を示した。
「なんですの? この醤油に丸いものが乗っかった飲み物は」
「あぁ炭酸系ってまだ飲んだことないんだっけ? 飲んでみる?」
なんと問答無用で軍司の注文した品に手を掛けたのは茜であり、ストローを差すと一口二口とゴクゴク飲み、四季彩にパスした。
四季彩は異次元の飲み物に胸がシュワシュワやられ、それと同時に感じた爽快感に満面の笑みで答えたことはいうまでもない。
ついでハンバーグに手を伸ばす咲良の腕をがっしりと握ったのはまことであった。
咲良は真面目な茜でさえ目の前のごちそうの前では素直であることをいいことに、己の欲望に一心不乱であったが、もう一人の真面目で律儀なまことを完全に忘れていた。
咲良は上目遣いにまことに問う。
「あっやっぱダメだよね……エヘヘ」
「えぇ!? わたくしもその肉塊を食べてみたかったですわぁ……」
「ひ、姫子も食べてみたいな……」
残念無念を身振り手振りで表現する四季彩とぶりっ子全快でおねだりする姫子の天文娘ズパワーは絶大であったが、まことのまさかの発言に一瞬時が止まった。
「待って……私も一口食べたいわ……」
「プッ! ハイハイ。最初から素直に注文すればよかったでしょー。はい、あ~ん!」
間髪入れずツッコミとハンバーグを一口サイズに切り刻み、フォークでまことの口許に運ぶのが同時であったは栞菜である。
まことはまたしても顔を赤らめるも空腹には勝てなかったか、恥ずかしがりながらも栞菜からあ~んしてもらうと、瞳を輝かせて絶賛した。
「こんな美味しいものに手をつけないなんて、軍司くんも罪な男子ね!」
(いやいや、食べないなんて一言も言ってないよ、軍司は……)
一同は心の中でツッコミを入れたが、それ以降は軍司注文の品を代わり番こに食すばかりなのであった。
つづく




