発足編12 コーヒー屋!
それぞれが忙しくもその日を終え、次の日の放課後には咲良の回覧メールの通り、解決部の面々は付き添いに軍司を引き連れ、萬屋すーさんが目安箱を設置させてもらったコーヒー屋へと足を運んだ。
カランコローン
1976~コーヒー屋という大理石で作られた味のある看板を横目に入り口を開くと、昭和かレトロか仄かに立ち込める豆を炒る香りと、幾つものライトに照らされた古めかしいカウンターが目の前に広がり、いらっしゃいと元気な声が耳に入ってくる。
咲良は目安箱設置の件のお礼をまずは述べると、7人という大人数での入店が大丈夫であるか確認を取った。
「はいはい、大丈夫ですよぉ! 目安箱ね、あそこに置いてあるの」
カウンターの端に位置するこれまた古めかしいアンティークな電話の脇に設置された目安箱を指差した店員だかマスターだか溌剌と話すその女性に促されるがまま、咲良達は店の最奥へと誘われた。
そこはカウンター席とは違い、照明がぐんと減り薄暗い空間であった。
どうやら夜になるとbarにでもなるのであろう、棚にところ狭しと陳列される多種多彩なアルコールの瓶の数々は、女子高生である咲良達にとっては未知の領域であり、ピアノとステージが常備されたそのスペースでは夜な夜なJAZZでも奏でるのかと連想させた。
令和の女子高生にとって純喫茶など入ったことがないのであろう、それぞれはキョロキョロとして落ち着かず、ふかふかのソファーに座ると余計挙動不審に陥った。
「ねぇ! なんかマフィアがいけない取り引きとかしそうじゃない!?」
「マフィア!? ここは日本よ」
「そうよ、表現するならばヤ○ザの密会って感じだわよ」
咲良にツッコミを入れる茜と訂正する栞菜を尻目に、やはりと言おうか天文娘の姫子と四季彩は緊張の面持ちで硬く座っていたし、失言を窘めたのはまことだ。
「せっかく目安箱を置かせてもらっているのに失礼よ二人とも! 雰囲気のあるいいお店じゃない」
「そうだぞ咲良! 失礼にもほどがあるぞ」
そう言った軍司は、奥張った個室然とした二人席に見覚えのある人物を見付けると、注文もほど程に近付いて行った。
「はい、南高のお嬢様方ね? 話はすーさんから聞いてるわ、私はこの店を切盛りしている奈保子です! 気軽に奈保ちゃんとかって呼んでね」
どうやらマスターであったか、砕けた性格の女店主・奈保子は目安箱設置の件を改めて快く承諾すると、一人ずつ注文を取り始めた。
「あっ、私はコーヒーでお願いします」
「コーヒーね。ブレンドでいいかしら?」
「あっはい」
「えー!? コーヒーだけなのぉ? あたしは何か食べたいんだけど……」
放課後である。
好奇心旺盛な食べ盛り咲良はそう主張すると、イチゴフロートとナポリタンを即決で注文した。
「違うのよ、まことは今ダイエット中なのよ!」
栞菜はニヤニヤしながら目を細めてまことを見たし、急に真っ赤になったまことは言い訳がましくも取り繕った。
「ま、まぁね……最近ちょっと太り過ぎたかなぁって……アハハ」
「そうかなぁ?」
「相変わらずのプロポーションだと思うけど……」
まことの弁明に疑問を呈した咲良と茜に、栞菜はさらにニヤニヤしながらも付け足した。
「違うのよぉ。クフフ。まことはね、胸が膨らみ過ぎて困ってるからこれ以上めかたが増えないように気を付けてるだけなのよぉ、これがぁ」
それを聞いた一同は同時にまこと、その豊満なバストを観察。なるほど言われてみれば以前にも増してたわわに実った果実はもはや収穫を待つばかりのメロンのように実り、世の男どもを魅了するであろうことは確実であった。
「ち、違うわよ! 本当に少し……少しだけ体重が増えただけなんだから! それにまっ平らなあんたに言われたくないわよ!!」
「…………なんですってぇ!? 咲良ほどじゃないわよ!!」
2人の諍いに巻き込まれた咲良であったが、その争いにすんなり参加。
それぞれが注文し終わると、どこかの猫とネズミのように楽しげに仲良くケンカしゆく美少女軍団なのであった。
そしてそんな風景を横目に軍司は顔馴染みが座る席の前に立つと両手を腰に当てて何事かその席に座る2人の女子高生と話し込んでいくのであった。
つづく




