4話 第一段階突破
昨日は更新できずすみませんでした。
3話の編集を行いました。少し抜けがあって困ってしまった。
起きたら、木から伸びた葉っぱがあった。
正確にはそれは、普通の木とは少し異なる爛れたモノだ。ついている葉でさえもどことなく黒い。けれども瘴気に満ちたこの場所においては、これが普通の木である。
昨日までの事は全部、夢かもと思ったが、やはり身体は軋んで痛む。
まだ出られていないと察した。
一体どの位眠っていたのだろうと、俺は思う。寝ていた時間というのは体感でなんとなく分かるものだと思うのだが、今回ばかりはどうにも予想もつかない。随分と身体が軽いので、もしかしたら一日ぐらい眠っていたのかもしれないな。
「起きたな」
「ああ……愚者。俺ってどの位寝てた?」
「ざっと三日程、だな。それはもう熟睡していたぞ、少年」
予想以上だった。
心做しか湿っている地面に手をつき、起き上がる。うん、動けるな。キツイ時は自分で起き上がれない位に痛むから、今回のこれはまだマシな方だ。
手についた土を払って周囲を見渡した途端、それが見えた。
「倒れた貴様に主導権を渡されてから、残っていた森に入って暫く歩いたのだ。そうしたらこの遺跡を見つけた」
土気色の石碑が守るように立ちはだかるのは、洞窟にも似た空洞の暗闇。
前に見たことがある古代遺跡に似ている。こんなところにあって入り口が朽ちて居ないのは、幸運だと言うべきだろう。
石碑に近寄ってみる。何かの文字が書いてある事以外、何一つ分からない。古代の言語だ、と言われればしっくり来るだろう。
「……不思議なモノだな。過去、一度としてこの世界を訪れた事など無いと言うのに――どこか、懐かしく感じる」
愚者が、撫でるように石碑に触れながら言った。その仕草は亡き娘を思う父親のようで、どことなく人間らしい。
そういえば、俺は愚者の事をほとんど知らない。初級精霊しか召喚出来ない俺が、最上位精霊なんてものに縁がなかったのは当然のことだが。それにしたって、最上位精霊なんてものは図鑑でも見たことが無い。
彼の底抜けの強さ。そして、所々見せる優しさと普段の凶暴性の食い違いは、彼の過去に何かがあった事を示している様に感じてならなかった。
「さて、少年。移動魔術が使えない貴様は――まあ使えても阻害されて出られないだろうが、兎に角貴様には『死の地』から出る手段が皆無だ。故に手探りで出口を探すしかない」
今可能な事は二つ。
一つ。いつ危険があるか分からないこの地をひたすらに彷徨い、出口を探す。
二つ。目の前の、この遺跡に入る。
どちらも危険は待ち受けて居るだろうが、答えは単純だ。何より、この遺跡が俺に何かを語りかけているようなざわめきが、胸の中で反響し続けている。
「愚者。この遺跡に入る」
「……そう云うと思ったぞ」
俺の言葉に、愚者は笑んだ。
かくして俺は、何処とも知れぬ死の土地で、忘れ去られた遺跡へと入っていったのだった。
――
「じゃ、自己紹介を頼むよ」
「は、はい! え、えと、アヤ・レイシア、十八歳です! 精霊術師で、使役出来る精霊は上位までで……ええと、頑張るのでよろしくお願いします!」
魔王の討伐を目標とし、神によって選ばれた勇者が集う勇者パーティには、国家から拠点が与えられている。
王都の真ん中に位置し、冒険者ギルド程の大きさがあるその建物の中の談話室で、アヤ・レイシアは頭を下げた。
勇者パーティの面々は笑い、歓迎の意を示す。今日は殉死した元メンバーに代わって入った新入メンバーの歓迎会の日だった。
「それにしても、その歳で上位精霊を扱えるなんて……流石、王立学院の期待の星ですわね!」
「どっかの誰かさんとは違って、ちゃんと使えそうな子で良かったぜ! 宜しくな、嬢ちゃん!」
「あ……っはい! 宜しくお願いします!」
アヤが上ずった声でそう言うと、勇者バスターも整った顔で笑う。
「いい子で助かるよ、スカウトした甲斐があった。俺達の勇者パーティは人を守る事が使命だ。それは知ってるだろ?」
「は、はい! あの、私、勇者様が出てくる絵本が大好きで……ずっと憧れていました! でも私、紋章が浮かばなくて……」
紋章とは、神の託宣を受けた者……つまり、神によって勇者に選ばれた者に浮かぶ勇者紋の事である。
もちろん大多数の人間は浮かばない、極めて希少なものだ。それ故、選ばれた者は高いステータスを保有する事が多い。
「紋章の有無なんて、真の勇気には関係ないさ。上位精霊が扱えるのならね……紋章があっても弱いヤツだって居るし。……さて、今日は初日だから、簡単なクエストにしようか。取り敢えず手頃なダンジョンに潜ってみよう」
バスターの笑顔に顔を紅潮させながら、アヤはしっかと頷く。
こうしてアリーフェを廃棄した勇者バスター一行は、新メンバーの少女ひとりを連れてダンジョンへと向かった。
その先に、何が待つのかも知らずに。
頑張ろう。