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1話 目覚め

よろしくおねがいします。

 今は嘗て、ある精霊術師が居た。

 その精霊術師は稀有な能力を有し、その実力を買われて勇者パーティーの一員となった。そして人類の悲願であった、魔王の討伐を成功させた。

 しかし、その精霊術師は死んだ。

 自らの精霊に殺されたのだ。

 何故かは未だに分かっていない。 

 そして、その精霊術師には子供が居た。しかしその子供すらも、母親の死後は行方をくらました。

 神によって創生された頃からこの世界に伝わる、謎のひとつである。


――




 「アリーフェ。お前、もうこのパーティにいらねえわ」

 

 俺の手から、振っていた剣がぽろりと落ちた。

 嘘だろ? 俺が、パーティに要らない?

 冗談だと思いたかった。でも、俺の目の前に立って俺を見下す勇者バスターの冷ややかな目で、真実を告げられているのだと感じた。


 「な、何でだよ!? いきなりそんな事言われても、納得出来る訳……!」

 「……ハア、お前ってマジで無能だな。いいか? 前々から、お前だけこのパーティのお荷物だって事を皆で話してたんだよ」

 「本当に、何で貴方なんかが勇者に選ばれたのか分かりませんわ。ステータスもそこまで高くない、最底辺の()()()()()()喚び出せない。はっきり言って、そこらのひよっこ精霊術師の方がまだ使えますわよ」


 同じ魔術師であることもあって、毎日共に訓練していた筈の魔術師アリエが、ため息を吐きながら俺を蔑むように言った。

 いや、実際蔑んでいるのだろう。

 何でだか分からない。あんなにいつも、俺に優しくしてくれたのに。同じ魔術師として高めあっていこう、とまで言ってくれたこの子が。


 「魔術師だからか知らんが、中級の魔物程度を相手に自衛も出来ない雑魚を護る余裕はねえんだよ、アリーフェ。神に選ばれようがなんだろうが、俺らには俺らの事情があんだ」

 「そういう事だ、アリーフェ。悪いんだが、お前はこのパーティから出ていけ」


 戦士ロストが言うと、バスターも頷きながら俺を突き放すようにそう言った。


 ……何だよ。

 皆、俺をお荷物だと思ってたのか。

 頑張ってきたのに。努力だけしか出来ないから、毎日死にもの狂いで頑張ってきたのに。

 全部、無駄だったのかよ。


 「で、皆で話し合ったんだが。どうやら勇者パーティの一員が魔物との戦いで()()した場合、国から補助金が貰える制度があるらしくてな」


 バスターが、そんな事を笑顔で言った。

 呼吸が苦しい。目がチカチカする。アリエも、ロストも、俺を指差して嗤ってやがる。

 こいつらは、本当に。

 本当に、()()()なんだ。

 アリエが笑って杖を振ると、身体が痺れるように痛んだ。

 手を動かしてみる。神経が通っていないかのように、動かない。

 脂汗が浮かんだ。アリエは更に魔法を唱える。


 「ザンネンですが……仕方ありませんわ。魔王討伐の為の資金の足しにさせて頂きますね、アリーフェさん」

 「て、てめ……ら……ッ……!!」 

 「動くなよ、アリーフェ。何、向こうは強くてデカイのが沢山居る。痛みもなく死ねるはずだぜ」


 ロストが顔を近づけ、からかうように言ってきた。

 アリエが唱えてるのはテレポートだ。

 なんとなく、何を考えてるか分かった。

 こいつら、俺を廃棄する気だ。『死の地』へ、送る気なんだ。


 「あ、バスター。証明として、メンバー証を取っておかなきゃだろ」

 「忘れてたぜ、サンキューロスト。……よし。じゃ、これは預かっておくからな。まあ、もうお前が持つ事はないだろうけど」


 最早声も出ない。

 痺れが効いてる。視界も朦朧としてきた。

 俺が着けていた装備も剥がれて行くのを感じる。最後まで、こいつらはクソ野郎だ。

 笑えてきた。

 今まで俺が頑張ってきたのは、何のためだったんだ。

 ニセモノの絆に力を貰って。市民に向けた、嘘で固められた笑顔に憧れて。

 あまつさえ、最後は裏切られて利用される。



 「じゃあな」

 「さようなら、ですわ」

 「頑張れよ、雑魚」


 死ねよ。

 心から、そう思った。

 耳障りな雑音を聴きながら、とうとう俺の意識は途切れた。



――


 目を開けると、紫色に染まった空だった。

 俺は倒れていたようだ。むくりと起き上がり、周囲を見渡す。

 どこもかしこも、木、木、木。陰から不快な匂いがする。

 この空の色、そしてこの魔物臭い臭い。

 あいつら、マジでやりやがった。『死の地』だ。

 装備もない。下半身を守る下着一丁だ。高値のもののみならず、根こそぎ持っていかれたらしい。

 

 「……糞……」


 そう吐き捨てても、誰も聞く者は居ない。

 カア、カアと、不吉な烏の鳴き声が響き渡った。森がざわめき、一層に不安感を煽る。 

 『死の地』。文字通り、立ち入った者には確実に死が待ち受けるといわれる、瘴気に満ち溢れた土地。

 魔王軍すら入らないと言われる最北端のその地は、通常の魔物よりも凶暴性が高く、レベルも桁違いの魔物がうじゃうじゃと棲んでいる。

 まあ、当然詰みって訳だ。

 短い人生だった。

 十歳の時、神の託宣で勇者に選ばれて、あのパーティに入った。

 才能が無いのは分かっていたけど、信じてくれた村の皆に応えるために、日々頑張っていた。

 それなのに、こんな事になって。

 そうだ、もういっそ、自殺してしまおうか。

 どうせいつかは死ぬんだ。今死んだほうが、魔物に噛みちぎられて殺されるよりはマシかもしれない。

 そんな事を思って、何か刃物を探していた、その時だった。




 「ぐるおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」


 いつの間にか、目の前に大きな城が建っていた。

 否。正確にはそれは、城ではない。

 紅に光る鋭い眼光。鉄どころか、最高の硬さを持つオリハルコンすらも軽々とへし折ってしまいそうな鱗に覆われた身体。手には白銀に煌めく剣の様な爪。

 最高位の龍、古龍(エンシェントドラゴン)だ。

 瘴気にあてられたのか、その瞳は既に理性など失っている。知性が高いはずのそのドラゴンは、俺を見つけるなり羽を大きく広げた。

 

 

 「あ、死ぬわ」


 呆けた声が、森に響いた。
















 『愚かな少年よ。諦めるのか?』


 声がする。

 どこから聴こえているのか分からない。誰が言っているのかも分からない。今日はホントに散々だ。

 諦めるかって? ああ、当然だよ。諦める。

 だって逃げられない。装備もないから戦えないし。

 だから最後にあいつらを恨んで、潔く潰されるさ。


 『脆弱な少年よ。貴様はなぜ勇者を志した?』


 選ばれたからだよ。 

 期待されたからだ。

 やるしかないだろ。魔王を倒すために、皆について行くために、毎日鍛錬ばっかりしてた。

 そうすれば、皆も認めてくれると思ったんだ。


 『解っていない。貴様は、一番大切な事を理解しておらんな』


 何だよ、お前。さっきから偉そうに。

 俺は頑張ってたんだ。でも廃棄された。どうしようもないだろ。

 俺は、無能なんだから。


 『貴様は確かに無能だ。持っている力を無駄にする無能。あの魔術師の言っていたこともあながち間違っておらん』


 そうだよ。

 だから早く死なせろよ。


 『だが、民の事を一番に考えていたのは貴様だった。貴様が提案した政策に民は救われ、礼をしに来た事は何度あったか』


 ……。 

 それは勇者の仕事じゃない。勇者は強くなきゃいけないんだ。


 『なら力を得よ。愚者の蛮勇こそ勇気なのだと、思い知らせてやるのだ』







 足掻いても、いいのかな?

 やっぱり俺、死にたくない。

 生きて、また勇者として頑張りたいよ。



 『良かろう。ならば存分に足掻け。嗤え。屠れ。貴様は力を得たのだ』







 『――暴れろ、愚かなる反逆者よ!!』











 何かが、俺の中で爆発した。




 「グオッ!?」


 大きな威圧感を感じた。

 それは、目の前に立つ巨体からではない。

 俺自身の身体からだ。

 力が溢れ出て、禍々しい紫色のオーラになる。俺が纏って居るのは闇だ。


 「受肉したのは久し振りだ……少年の身体は、我が力に良く適合する(あう)

 

 俺では無い――先ほどの声の主らしきモノが、俺の身体で笑ってそう呟いた。

 見れば、古龍ですらも立ち尽くしている。先ほどまで放たれていたプレッシャーは、全て俺の身体に宿ったこいつに打ち消されたようだ。


 「では、行こうか」


 剣も持たず、ろくな装備もせずに、俺は古龍と向かい合う。

 

 「我が真名……『愚者』。()()()()の力を持つ少年よ。最上位精霊たる我が、愚かな貴様に力を与えよう!!」



 愚者は叫び、ニヤリと笑む。

 

 チャンスだ。

 これはチャンス。俺の努力は無駄じゃなかったって、証明するための最後のチャンスだ。

 生きろ。

 狩るんだ。


 「行くぞっ!!」

 「応ッ!!」

  


 涙が頬を伝うのを感じながら、俺は奮ってそう叫んだ。

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