制裁
4月2日 23:15
バンッ!
町外れの工場地帯に銃声が響く。
「ハァ、ハァ・・・クソが!」
何かから追われている1人の青年。
額には赤い鉢巻き、右腕を負傷し出血している。
この青年にとって、この工場地帯は庭のようなもの。
路地裏や工場内部をすり抜け、逃走を図っている。
しかし、その表情には一切の余裕も感じられない。
ズンっと鈍い音が響く。
「がっ・・・」
腹を殴られた。
余りの衝撃に呼吸が止まりうずくまる。
「ゴホッ!かっ!」
男の眼前に迫る人影。
暗闇で顔は見えないが、ポニーテールに結った黒髪、そして輪郭。女性だ。
黒ずくめのスーツの左胸には、金色に輝く十字の紋章が一際目立つ。
「クソッ!死ねぇ!」
怒号と共に男が床を叩く。
その瞬間、ゴゴゴゴゴッと音を立て地震が起こる。
超能力。
この男は狭い範囲ではあるが、大きな地震を起こすことができる。
揺れにより女性の頭上から、鉄筋、ガラス辺、ドラム缶、あらゆる物が落下して遅いかかる。
閑静な工場地帯に轟音が起こる。
あたり一帯には砂埃が立ち込め、視界を遮る。
通常の人間ならば間違いなく即死、まず助からない。
だが
(あの女はこれくらいじゃ死なない!)
男はその隙にさらに逃走する。
選んだルートは工場内部、奥の壁。
見た目ではわからない隠し通路。
(ここならバレない!)
自分だけが知る、最後の逃げ道。
さらに奥に進み、繋がっている入り組んだ工場を抜ければ町はすぐそこ。逃げ切れる。
「へ〜、こんなところに隠し通路があるなんてねぇ、知らなかったよ。」
突如響く女性の声。
男はビクッと身体を震わせる。
(なんで・・・なんでわかるんだ!)
咄嗟に機材の影に隠れる。
声の主は近い。逃げきれない。
「なんでわかるかって?お前が教えてくれたんだよ。」
(訳わかんねぇこと言いやがって!)
「聞こえるか!犯罪人!お前は3人の一般市民を殺した!何が理由だ。」
犯罪人と呼ばれた男は当然返事など返さない。
「ある1人は貧困ながらも幸せな家庭を築いていた。子供は10歳になり、まだまだ人生はこれからだった。」
音のない暗闇の中、女性は一方的に話し出す。
「ある1人は診療所を営んでいた。金には拘らず、無料で診察することもあった。それ故に地元民から愛されていた。」
女性の声量こそ普通ではあるが、その声には怒りを感じさせる。
「ある1人は1人暮らしをしていた。働いた金をたった1人の妹の学業の為に貯め、空いた時間は積極的に地域のボランティアに参加。その健気で一生懸命な人柄から、地域民で彼を知らない者はいなかった。」
男からの返答はない。
「みんな今を必死に生きていたんだよ・・・なぜ殺した!!」
彼女の怒声が虚しく響き渡る。
(へっ!金さえ手に入ればだれでも良かったんだよ!お前も地獄に送ってやる!)
男は彼女を迎え撃つためナイフを取り出す。
しかし
バンッ!!
「!!ぐあああぁぁ!」
彼女の放った銃弾が男の足を貫く。
血が吹き出し、男はうずくまる。
「そうか、金か・・・」
彼女はそう呟き、男に迫る。
「て、てめぇ!殺してやる!」
男は床を叩く。
再度地震が起こり、けたたましい音が鳴り響き、工場内部の機材が彼女を襲う。
しかし彼女はそれを軽々と避ける。
まるで機材の倒れる場所が分かっているかのように、冷静に。
揺れが収まり、男の前に立ちはだかる。
鋭い眼光で男を見下ろし。
そして静かに口を開いた。
「死んであの世で詫びろ。それがお前にできる唯一の償いだ。」
「警備局・・・俺の仲間が黙ってねぇぞ!」
「ここまで追い詰められても反省の色はなしか?もう喋るな。お前の罪、あたしが裁く!」
「クソーーー!!」
バンッ!!
彼女が放った銃弾が、男の額を撃ち抜いた。