超人
「最悪、そうなります。」
想像しただけで震えが止まらない。
私がお父さんを殺す・・・
あり得ない話では無いのだ。
青年を一瞥すると、安心させるように笑いかけてくる。
「大丈夫ですよ。そうなる前に私が来ましたから。」
「そんなの、わからないじゃないですか。」
「分かりますよ。それだけあなたと私には差があります。」
またにこっと笑いかけてそう言った。
何か馬鹿にされた気がする。
天然でやってるのか?
だがそのおかげで少し気が楽になった。
震えもだいぶ収まってきた。
「私は色んな現場を見てきました。能力の誤発によって、家族や大切な人を亡くしてしまった超人も、何人もね。」
青年の目はどこか悲しそうだ。
どんな凄惨な現場を見てきたらそんな目ができるのか、私にわかるはずも無い。
「そんな話されるとますます納得いかない。本当に死刑とかは無いんですか?」
お父さんは不安そうに言う。
確かにここまで強烈な超人の話を聞くと例外もあり得る。
「あれ!不安にさせちゃいました〜?」
情緒不安定か!
さっきまでの態度はどこ行った!
「まぁ死刑に踏み込めない理由はありますがね。」
どういうことだ。
「まぁ見てもらう他ありませんね。洲神さん、包丁とかありますか?あったら持ってきて下さい。」
何をするつもりなんだろう。
「これでいいのか?」
お父さんが持ってきたのは刃渡り20センチほどの包丁。
結構良い値段だったやつだ。
つまり良く切れる。
「さてと、じゃあ洲神さん!どこでも構いませんから、私に包丁を刺して下さい。」
「「えっ!?」」
「論より証拠ですよ!弁償はしますから!」
何言ってるんだ?
出来るわけない。
「良いのか?後悔するぞ。」
えぇっ!やる気なの!?
「お父さんそれはさすがに」
「どーぞどーぞ!100パーセント刺さりません。刺さっても不慮の事故ですよ!」
遮られた・・・
ほんとにやらせる気だ。
「じゃあ・・・いくぞ!」
お父さんが声を上げ青年の腹部に包丁が刺さ・・・らなかった。
キンッと高い音を立てて、逆に包丁が折られてしまった。
「これは、どういうことだ?」
「超人じゃない人間に超人は殺せない。どんな武器を使ってもね。」
青年の腹部には傷どころか、服さえ貫いていない。
「私に防衛本能が働いて、超能力の壁のような物を作ってしまうんです。服さえ守るほど厚く、包丁をも折るような強靭な壁をね。逆に・・・」
青年は折れた包丁を拾って私に渡してきた。
そして右袖を捲り右腕を差し出す。
切れ、ということか。
「すみません!」
万が一切れた時の為に一言謝って包丁をスライドさせる。
すると呆気なく皮膚は切断され、真っ赤な血液が流れた。
「あれ!?え?ご、ごめんなさい!」
あんなに勢い良く刺しに行ったときは傷1つできなかったのに。
「大丈夫ですよ。説明に必要ですからね。このように超人の持ち物には超能力が付加され、簡単に傷付けることができます。そして超能力を上手く使いこなせば・・・」
もう一度腕を差し出してくる。
「ごめんなさい!」
空気を読んでもう一度腕に切り傷を入れる。
しかし今度は無傷だった。
「こんなこともできます。」
なるほど、この人流に言うと壁をより強くしたんだろう。
「訳わからんなあんた。」
しかし言われた本人はまたもにこっと笑いかけて言うのだった。
「これが超人です。」