本屋で会ったきみの答え
授業が終わり、放課後これからどうしようかと駐輪場で迷っている。
本屋に行くのも良し、このまま直接家に帰るのも良いだろう。
どうしようかと考えている時、海翔がこっちにきた。
「優哉、これから暇だろ?俺と一緒に飯でも食べに行かないか?」
夕ご飯か。時計を見ると時間は17時になっていた。
「飯って言ってもなに食べるか決めてるのか?」
「この前すげ〜美味いラーメン屋発見してよ、そこにお前も連れて行こうかなーって思って。」
ほう、ラーメンは大好物だ。
「いいよ、行こう。でもその前に本屋に寄っていいか?」
「ああ、構わないぜ。どうせ参考書でもまた買いに行くんだろ?」
当たってはいるが、それ以外に脳がないと思われて
いそうで少し腹が立つな。
「んじゃ行こうか。」
そう言って俺と海翔は二人自転車に乗り、本屋に向かった。
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向かった先は学校から10分くらいのところで、たいして大きくもなく、人もあまり入らない本屋である。
だが品揃えはとても良い。
ショッピングモールとかの本屋は人が多いし、賑やかなところもある。
俺が求める本屋は品揃えが良く、また落ち着くところがいい。
「俺は外で飲み物でも買いながら待ってるよ。」
海翔は参考書は興味ないか。
了解と伝え、ひとりで中に入っていく。
何回も来てるだけあって、どこに何があるかすぐわかる。
「参考書は、入って1番右の角にあったな。」
独り言を言いながら、参考書があるところに向かおうとした。
そんな時、後ろから声をかけられた。
「あのー、すみません。参考書ってどこにあるかわかりますか?」
俺は店員じゃないんだけどな、と思いながら振り返るとそこには黒髪ショートの一人の女性が立っていた。
顔が整っていて、スタイルもよく、足も細い。
クールな見た目じゃなく、可愛らしいという印象だ。
身長も160cm未満ってところか。
だが、気になるのはそこじゃない。
俺が通っている学校の制服を着ている。
こんな人いたか?他のクラスか先輩なのか。
「参考書ですか?それならあそこの角のところにありますよ。」
「ありがとうございます。」
そうお礼を告げられてその女性は参考書コーナーへ向かった。
俺も参考書を見にきただけあって今行くのは少し気まずいから、漫画コーナーでも見に行って時間を潰そう。海翔には少し申し訳ない。
そう思いながら、漫画コーナーへ向かい、掘り出し物はないかと漫画を見ていく。
「ここ最近、漫画は見てなかったからなー。 なにが面白いかわからない。」
そう口に出しながら考えこむ。
「それならコレとコレとコレがオススメだよー!」
また後ろからさっきと同じ声が聞こえた。
びっくりしたのを顔に出さず、ポーカーフェイスで後ろを見る。やはりさっきの女性だ。
「こういう漫画結構知っているんですか?」
「うん!私三つ下の弟がいて、弟が漫画が買ってくるから一緒に見てるんだ。」
なるほど、それなら詳しいはずだ。
選んでくれた作品を見るとスポーツ系とバトル系、あとは異世界系か。
「ありがとうございます。ではこの三つ買ってみようと思います。」
「え、私が選んだ漫画でいいの?」
「えぇ、構いませんよ。こういうのは疎くて、正直
助かりました。」
せっかく選んでくれたんだからこの漫画を読もう。
「あ、そういえば参考書はいいの見つかりましたか?」
「それが全然でさー、どれも同じに見えて全くわからないんだよー。」
肩をおろしてあからさまにガッカリしている。
ちょっと可愛いと思ってしまった。
「それなら俺も参考書見たかったので、もしよろしければ僕のオススメを紹介しますよ。」
「え!いいの!?ありがと!」
さっきとは打って変わって急に笑顔になった。
感情表現が豊かや人なんだなぁ。
でもなんか変な違和感がある。
とりあえず選んでくれた漫画三冊を手に持ち、参考書コーナーへ向かう。
確かにここの本屋の参考書はたくさんある。普通の参考書から専門的な参考書まで。
「自分がどの勉強がしたいとか要望はありますか?」
「えっとね、文系でいこうとしてるんだけど、国語とかあんな長文読みたくないし、古文とか意味わからんって感じなんだよねー。そういうのをうまく解説してくれて要点だけまとめてくれるような本があれば!」
敬語がだんだん取れてきて少しギャルっぽさがある。
中々ハードな要望だな。店員じゃなきゃこの要望には答えるのがきついかも。
「それでしたらこの本がオススメです。国語の古文とかは、かなり要点をまとめてありますし、国語のテストに使われる文章をわかりやすく説明してくれます。」
「ほんと!?それじゃあと英語の参考書選んでくれないかな?」
「英語ですか。英語のなにが苦手ですか?」
「んー、全部!」
すげー堂々と言ってたけど、それはそれでどうなんだろう。
うちの学校はそこまで学力が高くはないけど、中の上くらいの学力だと認識してる。
同じ制服を着てるってことはそれくらいの学力があるってことなんだろうけど…
「あ、今バカにしたな〜?」
ほっぺたを膨らませながら怒った表情を浮かべている。
「馬鹿にしてませんよ。それでしたらこの本がオススメかと。主な基礎的なことだけですが、それでもこの基礎ができないと応用問題などは解けません。
その参考書が完璧にできるようになれば、応用編の参考書を買うと良いかと思います。」
話を逸らしつつ、この女性に合った本を紹介する。
「なるほどねー、ふむふむ。わかったこの二冊買おうかな!」
「その二冊買うんですね、自分で紹介しておいて何ですが、合わなかったらごめんなさい。」
「いいよいいよー!別に自分に合わなくてもちゃんとやれば知識になるし、なにより君も私の選んでくれた漫画買ってくれるんだから!」
虫も殺さないような満面の笑みで答えてくれた。
この人はモテるんだろうなと思いながら、ふと授業中に考え込んでたことを思い出した。
「すみません、急なんですけど変な質問していいですか?」
「なになに?私に彼氏がいるかって?流石にそれは教えられないよ〜。」
「いえ、そんなことではなく…」
「ちぇ、つまらないな〜。」
初めて会う人になにを言ってんだこの人は。
でも今からする質問も正直意味不明なものだけど。
「きみは『今』が楽しいですか?」
キョトンとして首をかじける。
「その『今』っていうのは、この参考書を選んでくれてる『今』じゃないよね?」
「はい、違います。」
「なるほどなるほど。そういう質問ね!」
俺の言葉を理解して彼女は考え込む。
すぐに答えが出たのか、彼女の笑顔のままで口を開く。
「友達と話してる時は面白いし、勉強も大変だけど、できるようになればやりがいが感じられる。スポーツなんかもストレス発散できて良いよねー!」
その気持ちはとてもわかる。みんなとバカやってた時はとても有意義だった気がした。勉強だって100点取れば嬉しい気持ちになる。
でも彼女の言葉は終わらない。
「でも、楽しいか楽しくないかだよね。なら答えは1つかな。」
彼女の笑顔がスッと消え、俺に言う。
「答えはNOだよ。」