時を越えて。2
『はあ。はあ……。』
何とか追手から逃げ切り、ふと見つめた先には、別世界の様な空間が広がっていた。
無数の紅い灯篭が、規則正しく並んでいる。
その灯篭達を包み込む様に、沢山の木々が灯篭と一緒になって長い道を作っていた。
言葉では表現しようも無い、とても神聖な空気が流れている。
私は息を呑んだ。
『ここ、何なんだろう。
でも、何故か懐かしい……。』
私は、何かに引き寄せられてるかの様に、無数の灯篭の中を歩いて行った。
そして、その先には何も施されてない、無垢で出来たとても大きな鳥居が聳え立っていた。
その鳥居の先に眼をやると、何かの強い力を感じる。
『わ、私を呼んでいる……??』
門を潜り中へ入ると、明らかに世界が変わった。
鳥居の先にゆっくりと歩いて行くと、荘厳に聳え立つ社が私の眼に入った。
追われているのを忘れて立ち尽くしてしまった。
『……私、この神社を知っている。』
そうだ。
私の街の氏神様で、須賀神社と言う所だ。
お正月や大晦日に、隆君や華子とよくお詣りに来たっけ。
だけど、この私の中に流れる懐かしい感じは、須賀神社を知っているからじゃない。
それに、造りこそ似てはいるが、私の知ってる須賀神社じゃない。
何かが違う……。
それに、確かに私を呼んで居た。
そして、冷静になるにつれて、自分が今何処にいるのか分かって来た。
確証は無いけど多分間違い無いと思う……。
私、これから一体どうすれば良いの……。
『これはこれは、どうなされたのだ?』
私が茫然としていると、神社の中から宮司さんが出て来た。
『あ、あはは。
ま、まあちょっと事情が有りまして……。』
追われているなんて言ったら、突き出されちゃうかもしれない。
『ふむ……。
それにしても娘よ、変わった格好をしておるな。
一体、何処から来たのか?』
『あ、そ、その何て言うか、私も此処が何処なのか良く分かって無いと言うか……。』
『娘はいたかぁ~~!!』
その時、遠くから私を追っている人達の声が響いた。
その声を聞いて、宮司さんは私の事をジロジロと見つめる。
『あ、あはは……。』
ま、不味いなぁ。
私は、笑って誤魔化すしか無かった。
『……ふむ。事情がある様だな。
早く社の中に来なさい。』
えっ??
宮司さんは意外にも私を匿ってくれた。
一体どう言うつもり??
そして、宮司さんはそれ以上は何も言わずに、拝殿と廊下で繋がっている宮司さんの住まいに案内された。
『奴等もここまでは入り込まないから、安心しなさい。』
そう言って、私に白湯を出してくれた。
『あ、あの何で私を匿ってくれたのですか?
もしかしたら凶悪犯かもしれないのに……。』
『凶悪犯?? はっはっはっ……!』
宮司さんは私の台詞に大笑いをした。
『おお、これは失礼。
其方が凶悪犯の訳は無かろう。』
『何で言い切れるのですか?』
『……其方の目じゃ。
其方の汚れ無き真っ直ぐな瞳を見れば分かる。
儂はこれでも神に仕える者だぞ?』
宮司さんの優しさが伝わって来る。
それだけで私を判断してくれて匿ってくれたんだ。
『さて、今一度聞くが其方は一体何処から来たのだ?』
『は、はい。
それが、私も此処が何処なのかも分からないのです……。
だから何処から来たと言われても……。』
『ふむ……。
ならば質問を変えよう。
其方のその奇妙な衣、少しばかり触らせてくれぬか?』
『は、はい。』
『では失礼……。』
そう言うと、宮司さんは私のスカートの裾を触り何かを感じた様だった。
『やはりな。
この様な素材の衣など、この日の本にはおそらく二つと無い。』
『本当は私も何となくだけど、今自分が何処に来たかは分ってる気ががします。』
『其方、異界の者だな?』
『やはり、そうなのでしょうか……。』
宮司さんは急に黙って、真剣な眼差しで私を見る。
『……。』
『……。』
『よし、本来なら宮司の私しか入れはしない、この須賀の社の本殿の奥へと案内しよう。
もしかしたら、それで其方が何故この地に来たのか、分かるのかもしれん。』
私の事が??
そう言って、宮司さんは本殿の奥へと私を案内した。