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〈シーンを考える〉
「おーいB男!行こうぜー」
「ああ、わかった」
廊下で一際大きな声が聞こえると同時に、近くにいた女子たちがキャーキャー言い出した。
「アンタは本当に興味ないのね」
「私はB男君の担任の先生のほうが好きよ」
友達に、あんな冴えない先生のどこが良いのよーと言われる。私は立派なオジ専女子高生だ。
こうなったきっかけは、近所のイケオジ教授だ。背筋がよくて背が高い、笑顔はチャーミング、でも近所の大学では中世ヨーロッパ史を専門とする頭脳をもつ天才。まさに私の理想中の理想。更にバツイチらしいというのを聞いてガチ恋だ。
ーーー
「きゃっ!」
コンビニ帰りに、ランニング中の人とぶつかってしまった。思わずついた手が、ヒリヒリしてる。
「手、大丈夫ですか?……あ」
相手は、私の少し血の出ている手を見て固まった。文字通りピタリと止まってしまう。
「たいした傷じゃないので大丈夫……!」
何故か手のひらの血のついた部分に口づけをされた。焦った私は手を引っ込めようとして、相手の人のフードにひっかけてしまった。
ハラリ、と外れたフードから見えたのは、みんなの王子様である、B男で間違いなかった。
ーーー
「俺さ、血を見ると、ああなるんだ」
弱々しく笑うとこちらを見た。
「吸血鬼って言うの?俺のこと」
「まさかそんな」
いるわけ無い。と、言おうとした所で、ふと考える。エキスパートがいることに。
「ねえ、近所にそういうのに詳しい教授がいるんだけど、今度会ってみない?もしかしたら、それが起きる原因がわかるかも知れない」
B男は立ちか上がると私の手を握ってブンブンと縦にふって満面の笑みを浮かべた。
ーーー
「A子、行こう」
開いた窓から身を乗り出して私に声をかけてくる。女子たちが私を見て、ザワザワしている。友人も、驚いた顔をしてこっちを見てくる。
「う、へへ、行こっ」
変な声がでる。ややこしくしやがって!と心の中で悪態をつく。どう考えても、明日女子に質問攻めされるやつじゃん!
「家までよろしくね」
「ソウダネ、ツイテキテネ」
この無自覚男マジで許さねぇからな!
「来てくれてありがとう。君がA子さんの言っていた吸血鬼君だね。よろしく」
「よ、よろしくお願いします」
家に入るのは初めてだった。さっきの殺意が一瞬で飛んでいくほどの高揚感。何もかもが私のツボを刺激してくる。でもちょっと掠れたハスキーボイスがやっぱり一番好きだ。若い人には出せない独特の響きがかっこよくて。
「コーヒー淹れてくるけど、君たちは飲める?」
二人して頷くと、ニッコリと笑ってキッチンに行ってしまった。揃って突っ立ったままになる。
「やっぱり……好きだなぁ」
「え、A子っておじさんが好きなの?」
ーーー
「吸血鬼じゃ無い……?」
「じゃあ何でB男君はこうなったんですか?」
久しぶりに呼び出されて行ってみると、いきなり衝撃的なことを言われた。
「ああ、この前話を聞いてて気づいたんだ。君は何か血に対してトラウマがあるね?」
ギクッとなっている。図星のようだ。
「えっと……まあ、あります」
「じゃあそれを克服しよう。幸いなことに君にはA子さんという彼女もいるんだから。彼女は心強い味方だよ。ね?」
優しい笑みを向けられて、肯定しか出来なかった。
ーーー
「あのさ、同い年に興味は無いの?」
「私は、たまたま好きになるのが大人な人なだけよ。純粋に格好いいと思う人を好きになるの」
「じゃあ、俺は?」
B男をじっと見る。フイと顔をそらされる。