ヒヨコ八匹目
執事に案内されて着いたのは怪しげな建物だった。
聞けばここボロンの国の魔物研究施設であるとかないとか。
サラマンダーの幼体を渡した依頼主である奥方がとあるパーティーに出席し、俺のオスメス判別スキルの話をしたところ、パーティーに出席していたこの研究施設の学者が興味を持ったらしい。
建物に入り、案内された部屋には白衣に身を包んだ猫耳がいた。
この猫耳こそが俺に興味を持った学者であり、様々な魔物の研究をしているとのことだった。
執事が去り、部屋には俺と猫耳だけになる。
すると猫耳は部屋に置かれた水槽を指差し、中にいる魔物のオスメスを当てろと言った。
ヒヨコスキルの力を試す気だな? 良いだろう。
水槽の中を見るとブヨブヨした奴が浮いていた。
なんだこいつは? 俺の知らない魔物だ。勿論オスメスなどわかろうはずもない。
ブヨブヨに向かってヒヨコスキルを行使する。
するとブヨブヨの体から紫色のオーラが立ち昇る。
紫色だと?
初めてみる色だ。
まさか、ブヨブヨのオスメスが判別できなかった?
そんなバカな、オスメスがわからない時もあるなんて、ますますヒヨコスキルの必要性が失われてしまうではないか……。
絶望した俺が黙っていると猫耳が嬉しそうに話しだした。
「その暗い顔を見るに、性別が判別できないんだね?」
「……」
「それで正解だよ、こいつは雌雄同体の魔物なんだ」
雌雄同体?
「オスメスどっちの性も持ってるってやつか?」
「そのとおり」
安心した。ヒヨコスキルは判別できなかったわけではない。ちゃんと俺に報せていたのだ。ブヨブヨは雌雄同体であることを。紫色のオーラを見せることによって。
それ以外にも魔物のオスメスの判別を行い、猫耳はヒヨコスキルを使えると判断したようだった。
猫耳にヒヨコスキルは使えるスキルだと認められたのが嬉しくて仕方なく、俺はにやけた。
俺のにやけた顔を見て猫耳は引いていた。
猫耳は俺に旅への冒険に同行を求めてきた。旅の目的地は人類未踏の地である。
人類未踏の地とは、ここカフェレ大陸の外側、海の向こうの大陸全てである。
これまでの研究で、海の向こうに比較的安全だと思われる島が見つかったため、そこに行って人類が住めるか調査をするのだそうだ。
未知の魔物に遭遇した時、そいつがオスであるかメスであるかは非常に重要であるらしい。その調査に同行して未知の魔物のオスメスを判別して欲しいとのことだった。
非常に危険な旅となるだろうが、そんなことはどうでもいい。
ヒヨコスキルが役に立つのだ。
俺は二つ返事で同行に同意し、猫耳と猫耳の雇った冒険者達と共に、人類未踏の地へと旅立ったのである。
***
旅立った俺達を待ち受けていたのは受難の連続だった。
船で海を移動中、雇った冒険者達が最初から裏切るつもりだったらしく襲ってきたので全員海に蹴落としたり、猫耳と俺だけで何とか船を動かして進み、島に着いたと思ったらその島は巨大な魔物の背中だったり、そいつに襲われて船が壊れ海に投げ出されたので猫耳を担いで数十キロを泳いだり、やっと泳ぎ着いた島で凶暴な魔物達に一日中襲われ続けたり、もう嫌だと猫耳が泣くので慰めたり、色々あった。
襲ってきた魔物は全部オスメス判別した。猫耳の研究ノートはどんどん字で埋まっていった。
研究施設に戻りたいと言って猫耳が泣くので、猫耳を担ぎ、泳いで海を渡って研究施設に帰ったらまた猫耳が泣いたので慰めてやった。
後日、俺の冒険者カードに大量のお金が追加されていた。
冒険者ギルドに行ったところ、受付のお姉さんが俺当ての手紙を預かっていた。
手紙は猫耳からだった。
追加されたお金は猫耳からの送金であった。俺のおかげで魔物の生体の研究が進み、すごく感謝しているとのことだった。
また仕事を頼みたいとのことだったので俺は研究施設へと向かった。