ヒヨコ七匹目
「くっくっく、どうだお前達、こんな豪華な食事めったにありつけまい」
「こりゃ凄いな」「美味しそう」
のこのことディナーに招待されてきたロードゥ達は目の前に並ぶご馳走に驚いていた。
「俺に感謝するんだなあー!」
「もぐもぐありふぁともぐもぐ」
いただきますもせす、既に肉をほおばっているロードゥ。
「飲み込んでから話せやあ!」
抗議する俺。
「むぐー!」
胸を叩き顔を青くするロードゥ。
俺が水の入った杯を突き出すと、ロードゥは喉につかえた肉を水で流し込んだ。
「ふー、水ありがとうルーズ」
「どうだロードゥ、これで俺がクルールに必要な人材であったことがわかっただろう?」
「そうだなあモグ、戻ってきて欲しいなあモグモグ」
その言葉を待っていた。
「だ、が、戻ってやらん!」
言ってやったぞ。
「ふぇ、まふぁもふぉはふぁいの?」
なんて?
果物をほおばりつつ、横から話しかけてきたのはクルールメンバーの一人、女性エルフのブラウである。
エルフは美形という種族特性を持っている。ブラウもエルフだけあってとても美人である。だがブラウには胸が無い。クルールメンバーの中にははそこが良いとか言う者もいるが、俺はほんの少しでもいいからあった方が良いと思う。ブラウの胸はまさに板。まな板なのだ。
たまに男性エルフが美しすぎて女性に見間違われたりするがブラウの場合その逆で、美男子で通じてしまいそうな感じである。一応、念のため、興味本位でブラウにヒヨコスキルを行使してみた。オーラの色は赤かった。俺は胸をなでおろした。
「ほーいいはへんひ……」
「飲み込んでから喋れや! いいか、もう一度言うぞ、二度とお前達のパーティーになど戻ってやるものかー!」
俺はブラウに水の入った杯を渡しながらロードゥを指差して叫んだ。頼まれたって戻らない。俺の意思は固いのだ。
ロードゥが顔に付きつけられた俺の指を掴んで折る。
「それで、あのスキルの調子はその後どうだ?」
ん? そうだ、スキルだ。俺はヒヨコスキルがこの財を築いたことをまだこいつらに言っていない。これではこいつらを高級なディナーに招待しただけになってしまう。
今こそこいつらにヒヨコスキルの有用性を説くときである。
「ヒヨコスキルがあったからこそ、お前達はこの豪華な食事に……」
ありつけたのだと言おうとして思いとどまった。
果たして本当にそうだろうか?
俺はこのスキルでアレクサンドクロ大亀のオスメスが判別できた。
だが固いと聞いていたアレクサンドクロ大亀の死後硬化後の死体は特に問題なく素手で割ることが出来た。
だから別にオスメスを判別しないで、片っ端から割ったとしてもそれほどの労力ではなかったかもしれない。
これはもしやヒヨコスキルはそれほど必要ではなかったという事ではなかろうか?
俺はクラッとした。
「おい大丈夫か?」
ロードゥが俺の背中を手で支えてきた。
助けは必要ないとその手を払う。
「お、俺はヒヨコスキルで得た財力を生かして悠々自適に生活してやるからなー」
フラフラと店の出口に向かう俺。
「じゃあな……、ここの支払いは済んでるから勝手に帰れ……」
クルールの連中に別れを告げて俺は店を後にした。
高そうな宿を取り、高そうなベッドに横になる俺。
「ヒヨコスキルは……いらない子……?」
スキルとは人間が魔物に対抗できるよう神から授けられる力。
そのスキルの中に全く使えない、役に立たないものが存在するなんて……。
そんなバカな。
いや、スキルを魔物に対抗する力と定義しているのは人間だ。
授ける方の神は無駄とか使えるとか考えていないかもしれない。
だとしたら俺は……。
考えるのが億劫になった俺は寝た。
次の日、冒険者ギルドに向かった俺を呼び止める声がある。
それはいつぞやの、サラマンダーの幼体を届けた依頼主のとこの執事であった。
サラマンダーが暴れたりしたのだろうか?
話を聞いてみるとどうやら違うらしい。
何でも俺の力を必要としている人がいるんだとか。
ヒヨコスキルが必要と来たか。
そんなもの行くしかないだろと、俺は執事に案内を頼んだ。