ヒヨコ五匹目
俺は一人、コクトの荒野と呼ばれる場所に来た。ここにはサラマンダーが生息している。
サラマンダーは魔物であり、比較的強い魔物に分類される。そして少し変わった習性を持っている。
生まれたばかりの子供を崖から突き落とし、崖を登ってきた子供だけを育てるのである。
俺はそのサラマンダーが子供を突き落とす崖の下に向かった。崖を登れないでウロウロしているサラマンダーの子供がいないか探すのだ。
「キュウキュウキュウ」
この声は……。
声の聞こえた方に行ってみればそこには、四足歩行でピンク色の体、顔の四隅には触覚みたいなのが揺れている、サラマンダーの幼体が一匹、崖の上を見つめて鳴いているではないか。
崖の上を見るが、親サラマンダーは既に去った後のようだ。
つまりこの幼体はもう、親から愛を注がれることは無いという事である。
サラマンダーの幼体を抱き上げる。
「キュウ?」
つぶらな瞳が俺を見てくる。
俺はヒヨコスキルを発動した。サラマンダーの幼体から立ち昇るオーラは赤い。こいつはメスだ。
俺はサラマンダーの幼体を持ち帰ることにした。
帰る途中、ゴロツキに絡まれたのでボコって埋めた。
***
広い部屋、高そうな机に椅子。俺は今、豪邸に居る。依頼人にサラマンダーの幼体を渡すためである。
「あらあらあら」
「キュウキュウ」
綺麗な奥方がサラマンダーの幼体に顔を舐められて困っている。
「ありがとうございます。これは報酬です」
奥方の後ろに立っていた執事の男が進み出て、机に袋を置いた。
その音から推測するに袋は重そうである。
「待った、報酬を受け取る前に、そのサラマンダーをどうするのか聞きたい」
依頼を見た時から気になっていた。まさか食べようとでも言うのだろうか。
メスを指定したのは肉の柔らかさが違うからとか?
「魔物のペットが欲しかったんです」
奥方が答えてくれた。
近頃町で流行っている雑誌に魔物をペットにした人の特集が載っていたらしい。
特集ではコットンラットとか、弱い魔物をペットにしていたが、奥方は魔物画集でサラマンダーの幼体の姿を見て一目惚れし、ペットにするならこの魔物が良いとなったとのことだった。
魔物は凶暴な奴が大半だが、中には幼体から人の手で育てると人に慣れる種類もいる。
サラマンダーが人に慣れる種類なのかどうかは俺にはわからない。ここまで連れてきての印象としては懐く種類のような気がする。だがサラマンダーは成長するととても大きくなる。最終的にはこの豪邸より大きくなるのではなかろうか。まあお金持ちみたいだし、何とかするだろう。
「メスを指定したのは?」
「メスの方が気性が穏やかなんじゃないかと思いまして」
犬かな?
「メスであることの確認はどうするつもりで?」
俺はサラマンダーの幼体に目をやる。幼体はいつの間にか俺を見ていた。
俺はヒヨコスキルによってこの幼体がメスであることがわかるが、他の人に証明するためには幼体の体を切る必要がある。
執事の男が奥方に耳打ちした。
「まあ」
奥方が声を上げた。
「そんなことをするくらいなら確認は要りませんわ。あなたを信じます。というかオスでもメスでもどっちでもいいですわ」
奥方はサラマンダーの幼体を抱きしめた。
そういう事なら問題ない。
もしここで執事がナイフでも取り出そうものなら報酬を蹴ってサラマンダーの幼体を連れ帰るところだった。
「わかった」
俺は机の上の袋を手に取った。さらばだサラマンダーの幼体よ。
「キュウ」
つぶらな瞳に見つめられ、俺の胸が少しキュッとなった。
豪邸から出た俺は手のひらの上の袋を見つめる。
ずっしりと重い。三か月は何もしないで暮らせそうである。
だが大金を得たというのに気分は浮かない。
サラマンダーの幼体と別れるのが辛かったというわけではない。
浮かない理由は今回、俺のスキルが役に立たなかったからである。
鬼畜な所業を行ったわけではないが、鬼畜の称号は得てしまった。挙句ちゃんとメスを持って行ったのに、最終的にはオスメスどちらでも良かったという始末である。
やはり必要ないスキルなのか……。
ハッ!
俺は何を暗くなっているのか。方向性は間違っていないはずだ。
スキルを活用して莫大な富を得れば、クルールの連中を見返せるはずだ。
次の日俺はリテアの町に向かった。
この町には大図書館がある。大図書館に入るためには金が居るが、今の俺は小金持ちである。問題ない。
図書館に着いた俺は魔物の図鑑を探した。
オスメスがわかることで大きな利が発生する魔物を探すのだ。