ヒヨコ三匹目
「スキルが必要……ない……」
呟いてみて愕然とする。だが俺のオスメス判別の手は止まらない。
「オスメスオスオスオスメス」
スキルが必要ないなんてそんなバカな。いや、流石にスキルを使った方が早く判別出来るはずだ。それならまったく必要ないスキルという訳では無い。
俺は試しにスキルなしでヒヨコのオスメスを判別してみた。
「オスメスオスオスオスメス」
スキルなしでも俺のオスメス判別速度は落ちなかった。
俺のあまりに早いオスメス判別により仕事があっという間に終わってしまうのを見て、雇い主は鑑定士の数を減らした。
仕事をクビになった奴に恨みごとを言われ、一緒に飲みに行ったりして仲良くなった同僚と険悪になってしまった。
俺はヒヨコのオスメスを判別する仕事を辞めた。
止めた理由は人間関係に嫌気がさしたとかではない。
ヒヨコのオスメスを判別するスキル……、長いのでヒヨコスキルと呼ぶことにする。
そのヒヨコスキルがもしかしたら必要のないスキルかもしれない。
そんな考えが俺の頭の中から消えてくれない。それによりとてつもない絶望感が俺を襲ってきて仕事どころではなくなってしまったからだ。
「どうしたらいいんだ……」
途方に暮れた俺は酒場で飲んだくれていた。
「必要ない……スキル……」
これでは俺をパーティーから追放したあいつらを見返すどころではない。
自分から必要のないスキルであることを証明してしまったようなものである。
額からカウンターテーブルに突っ伏す俺。
すると店の扉が開き客が入ってくる。入ってきた客を見て、飲んでいた周りの連中がヒソヒソ話し出した。
「おい見ろよあれ、クルールの連中だぜ」「ああ、こないだぺネルのダンジョンを制覇したって話を聞いたな」
ダンジョン。異界と繋がった門が生成した迷宮。中から魔物が出てくる厄介なあれだ。
話に出たぺネルのダンジョンは危険度の高いダンジョンの内の一つである。
そしてクルール。何を隠そう、俺の元居た冒険者パーティーのパーティー名である。
俺は追放される前、パーティーの前衛を務めていた。
あいつら、前衛抜きでダンジョンを制覇してきたのか。
俺抜きでもあいつらはやっていける。俺は必要ない……。
……ハッ! 俺は何を暗くなっているのだ。
少し失敗したからと言って落ち込み過ぎだ。
まだまだヒヨコスキルには可能性が秘められているはずなのだ。あいつらを見返す機会はいくらでもある。
そうだ、ヒヨコスキルを範囲行使できればヒヨコの肛門を一羽一羽見るより早く判別できる。そうして速度を上げればまだヒヨコスキルの有用性は……。
「ルーズ」
短髪の赤髪で長身、バランスの取れた筋肉量、顔もまあまあ良いクルールのリーダー、ロードゥが俺に話しかけてきた。
「あー?」
しかめっ面で振り向く。
そこにはクルールのパーティーメンバーが揃い踏みであった。