ヒヨコ二匹目
次の日俺はヒヨコのオスメスを判別して分けるとこに就職した。
俺は知らなかったのだが、ヒヨコのオスメスを見分ける鑑定士という職業があり、訓練や勉強が必要で中々なれるものではないらしい。
だが俺にはヒヨコのオスメスを判別するスキルがある。
資格も実績もなかったが、実際に判別をやって見せたら精度に驚かれ、即採用された。
「オスメスオスオスオスメス」
箱の中のヒヨコ達を次々分けていく。
ヒヨコを手に取り、スキルを発動すると俺の目にはヒヨコの体から立ち上るオーラが見える。オーラの色が青ならオス、赤ならメスだ。
非常に簡単である。流石はこのためだけに用意されたスキルだ。
「オスメスオスオスオスメス」
「なんて速さだ」
一緒に作業している鑑定士が俺の判別速度に驚いている。
「けっ、新入りが調子に乗ってんじゃねえぞ!」
それが気にくわなかったのか、先輩鑑定士が俺に判別勝負を挑んできた。
「オスメスオスオスオスメス」「オ、オス、メス、メス、ほげー」
ボコボコの返り討ちである。
どうだ、これがこのスキルの力だ。
たとえ他のどんなスキルを得たとしても、ヒヨコのオスメス判別などできないであろう。
「オスメスオスオスオスメス」
「ほれ、これが今日の分の給料だ」
小太りの雇い主から渡されたのは給料袋。袋を開いて確認すると、それは俺が冒険者として一日で稼ぐ額の十分の一程度であった。
「……」
俺は感動していた。このスキルを使って得た初めての賃金である。
俺は不安だったのかもしれない。もしかしたらこのスキルは役立たずなのではないかと。
この金はこのスキルがやればできる子であることの証明である。
俺は銅貨を小さな袋に入れ、いつも身に着けてお守りにすることに決めた。
「オスメスオスオスオスメス」
あくる日も凄まじい速さでヒヨコのオスメスを判別していく俺。すると突然――
テレレレッテー♪
頭の中に効果音が響いた。この音はスキルレベルアップの報せである。
スキルは使い込むことでレベルアップし、より強力なスキルへと進化を遂げる。
使いっぱなしだった俺のヒヨコオスメス判別スキルはあっという間にレベルアップしたようだ。
頭の中に浮かぶスキルの説明文を読むと、どうやらこのスキルは進化によってヒヨコ以外のオスメスも判別できるようになったらしい。
だがやることは同じである。
「オスメスオスオスオスメス」
ひたすらヒヨコのオスメスを見分けるだけだ。
「オスメスオスオスオスメス」
スキルレベルアップの影響なのか、俺のオスメス判別速度が上がっていく。
「オスメスオスオスオスメス」
毎日ヒヨコのオスメスを判定し続けた結果、やがて俺のオスメス判別技術はスキルを越えた。
スキルで判別する前にヒヨコのオスメスがわかっているのである。
なんてことだ……これはあれか、スキルを極めたものに神から送られるといわれる、ギフトか。
いいや違う。ヒヨコのオスメス判別にはヒヨコの肛門を見る必要があるのだが、スキルの発動よりも肛門を見た方が早いほど、俺の素のヒヨコオスメス判別技術が高まってしまったらしい。
ようは単に作業に慣れただけである。
つまりそれは――
「スキルが……必要ない?」