ヒヨコ十三匹目
次の日俺は街を歩き回り、クルールの連中を探していた。
昨日あいつらにスキルを行使したまま帰って寝てしまったからだ。
朝起きた俺はついカッとなったとはいえ酷いことをしてしまったと反省した。
一刻も早く連中を元に戻してやらねばならない。
トイレとか行けなくて困っている奴がいるかもしれないし。
特にメンバーのパールスとゲールは恋人同士なので、あのままでは色々と大変であろう。何がって、まあ深くは言うまい。
昨日俺が飲んでいた酒場に行ってみると、酒場の椅子に座るブラウの姿が見えた。
幸いまだ気づかれていないので遠くから様子を伺ってみる俺。
ブラウを見る。相変わらず美人だ。だがブラウは今男のはずだ。全くと言って良いほど違いがない。ヒヨコスキルを行使してみたところ、一応男になっていた。
ブラウの隣にいるのは赤髪の短髪、引き締まった体だが出るとこは出ている。ワイルドな感じの女性。まあまあ美人だ。
あれがロードゥだろう。
同じテーブルにパールスとゲールもいる。
俺は酒場に入り、テーブルへと近づいた。
「あ、ルーズお前!」
俺に気づいたロードゥが声を上げた。声が高い。
「これ元に戻せよ!」
「んー?」
椅子から立ち上がったロードゥだが、いつも俺を見下ろすはずのロードゥが、下から俺を見上げている。
女性になったことにより身長が下がったらしい。
店で性転換による変化は多数見てきたが、ここまでの変化は初めてである。
俺は少し意地悪をしたくなった。
「反省したか?」
「なにをだ」
「俺がパーティーに戻りたがっているなどと、勘違いをしたことをだよおー」
ロードゥを見下ろす俺。
「事実だろ!」
「あー? いいのかなそんなこと言って。元に戻せるのは俺だけなんだぜー?」
「うっ、お前!」
ロードゥが涙目になった気がした。可愛……そんなわけはない。
「なあ、パールスにゲール? 昨日の夜は困っただろう?」
ブラウとロードゥの前に座っている紫髪の男と黄色髪の女に問いかける。完全にゲスモードの俺である。
「……」「……」
パールスとゲールは黙っている。
ちなみに元はパールスが女でゲールが男である。
「フハハハハー! 仕方がない戻してやろう!」
俺はメンバーの性別を戻そうと指を向ける。
「いや……別に戻さなくても……」「ねえ……?」
「は? まさかお前達……」
パールスとゲールは見つめ合い、顔を赤らめた。
「顔を赤らめるな!」
俺はメンバー全員の性別を元に戻した。
「ルーズ俺が悪かった、またパーティーに入ってくれ」
ロードゥの謝罪を受けた途端、俺の頭のモヤが晴れた気がした。
何を俺は意固地になっていたのだろうか?
ヒヨコのオスメスを判別するスキルで皆を見返してやる?
見返す必要などなかったのだ。
たとえどんなスキルであっても、全く使えないわけではない。
ヒヨコのオスメスを判別するスキルは、ヒヨコのオスメスを判別する時に役に立つ。
それで良いではないか。
「俺も皆の意見を無視してスキルを取って悪かった」
俺はクルールのメンバーに謝罪した。
スキルの取得方法は選択式である。ランダムにスキルが割り振られるわけではない。
無数にあるスキルから、溜めたスキルポイントを消費して好きなスキルを取得するのだ。
またスキルは一人につき一つというわけではなく、スキルポイントさえあればいくつでも取得できる。
ただし、スキルポイントを得るには強い魔物を倒したりする必要があるので、何も考えずポンポン取得するわけにはいかない。
そしてヒヨコスキルの取得に必要なスキルポイントは膨大だった。
頭の中に浮かぶスキル選択画面ではスキルの横に数字が表示されている。これはそのスキルをこれまでに取得した者の人数を表している。
人の歴史は結構長い。その長い歴史の中、ついこの間までヒヨコスキルの取得人数は0だった。
誰も取得したことのないスキル、取得してみたくなるのが人情。
俺はヒヨコスキルを取得した最初の一人だったのだ。
「許してくれ。そして俺をまたパーティーに加えてくれ」
「ああ、またよろしくな」
ロードゥと仲直りの握手をする。俺はクルールのパーティーメンバーに復帰した。
全面的にお前が悪いよね? とでもいいたげな他のメンバーの視線を俺は無視した。
***
「ルーズ、お前をパーティーから追放する」
暫くして俺は再びパーティーから追放された。
取得したスキルが ”手を使わずに背中を掻けるスキル” だったためだ。
「くそが―」
終わり
お読みいただきありがとうございました。
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『自分を殺した者に乗り移る能力持ちが遥か遠くで魔王が放った破壊光線の射線上にいたら』
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