ヒヨコ十二匹目
店に来た客の性別を変更する。
感謝される。
俺の所持金は増えていく一方である。そして店にはもう空スペースが無い。贈り物で埋まってしまったのだ。
だが心は満たされない。
俺は一体何をやっているのか。
俺は店を暫く休みにし、自分を見つめなおすことにした。
俺は町をフラフラと歩いた。絡んできたゴロツキ達をボコって吊るした。
フラリと入った公園に設置された椅子に座り、考える。
俺の当初の目標は何だった?
クルールのやつらを見返すのが目標だったはずだ。
今の俺の所持金の一部は、確実にヒヨコスキルを役立たせたことで得たものである。
ならばそれでもって再びクルールの連中をディナーにでも誘えば良いではないか。
いいや違う。違うのだ。
あらゆるオスメスを判別する? あらゆるオスメスを決定する?
ヒヨコスキルが進化して得た力とは言え、これではもはや別物である。
俺は ”ヒヨコのオスメスを判別するスキル” であいつらを見返したかったのだ。
心の満たされない理由はわかったものの、解決方法が思いつかず俺は途方に暮れた。
***
俺は酒場のカウンターで飲んだくれていた。
「くそがー」
「荒れてますね」
バーテンダーが話しかけてくる。
「これが荒れずにいられるかってんだー」
八方塞がりとなった俺の心はグチャグチャだった。
「理由を聞かせてください」
聞き上手めが。いいだろう聞かせてやる。
「あんなー、理由はなー」
俺はベロベロに酔っていた。だがそれは理由にならない。俺はその時確かに――
「ヒヨコスキルが……役に立……」
「ルーズ」
振り向くとロードゥがいた。後ろにはクルールのメンバー。
「久しぶりだな、お前今まで何処に居た?」
「あー? 俺が何処にいたってかんけーねーだろうがよー」
俺を追放したくせに……ん?
違和感を覚えた俺はクルールメンバーを見回す。
「お前らその恰好……」
「ああ、防具とか新調した」
メンバーの身なりが良くなっていた。ブラインとかいう新メンバーの重鎧など、ピカピカだ。
俺は猫耳との旅の最中、クルールに仕送りしていたことを思い出した。
「くっくっくっ」
「おい、いきなり笑い出すなよ」
「お前らその新しい防具の代金、あしながおじさんからの仕送りで賄ったな?」
「あしながおじさん?」
「あしながおじさんの正体はなあー、俺だったんだよおー! フハハハハー! 追放した相手に施しを受けていたと分かった気分はどうだあー!」
「ああ仕送りの事か、知ってたよ。ありがとうな」
「え?」
「いやお前、送り主にルーズってちゃんと書いてたじゃないか」
何たる失態! 俺としたことが。
「ルーズ、パーティーに戻りたいなら戻りたいと言え」
「……あんだと?」
「ロードゥ、言い方」
ブラウがロードゥの肩を引いた。
「言い方? 言い方次第で俺がパーティーに戻るとでも思ってんのかー?」
「仕送りとかしてきたのはそういう意味だろ?」
「!」
カッとなった俺は思わずクルールのメンバーにヒヨコスキルを行使し、全員の性別を反転させた。
「なんだこれは!?」
ロードゥが自分の体の変化に驚いて戸惑っている。
「ばっきゃろー!」
俺はカウンターに勘定を置き、酒場から飛び出した。




