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ヒヨコ十一匹目

 

 俺はヒヨコのオスメス判別する仕事を辞めた。


 雇い主は泡を喰い、給料を上げることで俺を引き留めようとしたが、俺は別にお金には困っていない。


 だがいきなり辞める俺も悪いのだ。俺のせいでクビになった鑑定士に金を渡し、元の仕事に戻るよう説得した。




 最近、世間では性的少数者を守ろうという動きが大きい。


 心は男だけど体は女だとか、そういう人が虐げられない世界を作ろうという呼びかけが強くなっている。


 進化した今のヒヨコスキルならそういう人達の一部を救える。


 心は男だけど体は女の人がいたら、性別を男にしてしまえば良いのだ。






 俺は町の片隅に店舗を借りた。


 店の前の看板には『性転換請け負います』と書いた。施術料は適当に決めた。


 恰好も大事だと考えた俺は白衣に布マスクをし、頭が良さそうに見えるよう眼鏡をかけた。参考にしたのは猫耳の恰好である。




 最初に訪れたのは男だった。手術台も手術用の道具もない店内を見て男は俺を疑った。


 どうやら切ってもらうつもりでいたようである。


 スキルを行使して男を女にしてやると、男、いや今は女はとても喜んでいた。


 俺は男、いや女に施術のことは内密にするよう伝えた。


 ヒヨコスキルは神の領域を侵している。


 下手すれば悪魔呼ばわりされて火あぶりの刑に処されるかもしれないからだ。


 女は快く了承してくれた。




 最初の客が噂を広めたのか、俺の所には性転換したい連中が次々と集まってきた。


 客の性別を次々変更していく。こんなに性別を変更したい人達がいたのかと驚く俺。


 中には感動し、施術料が安すぎると言って俺に大金を送ってくる者もいた。


 俺はヒヨコスキルが役に立ちさえすれば満足だったので、そのお金を送り返した。


 するとそいつはさらに感動し、俺を神のように崇め始めた。


 宗教でも起こしかねない勢いである。


 客には施術内容は漏らさないように言ってあるが、念のため釘を刺しておいた方が良いかもしれない。



 ***



 ある日筋骨隆々なおっさんが来て力の行使を頼まれた。


 俺は性別が変わるだけで容姿に大きな違いは出ないと、おっさんに説得を試みた。


 だがおっさんは聞かない。仕方なくスキルを行使する俺。そこには筋骨隆々なおばさんがいた。


 本人は満足していたようなのでまあいいだろう。



 ***



 ある日フードを深く被り、顔を隠した女性客が来た。


 フードを取った女性の気品溢れる顔を俺はどこかで見た気がした。


 あれは猫耳と旅していた時だったか。思い出して驚いた。女性は東の方にある国のお姫様だった。


 遠くからこんなところまでよく来たものだ。


 だがこれは問題だ。一国の姫を俺の力で王子に変えてしまって良いのか?


 一体理由は何だろうか? 世継ぎになりたいとか? 結婚相手が気に食わないとか?


 だが俺は何も聞かず姫を王子に変更した。勿論、俺が気づいたことも伝えていない。


 性別変更を願ったのは本人だ。それにより何が起ころうと、それは本人が解決すべき問題なのだ。


 姫、いや王子は飛び上がって喜んでいた。


 その後、東の方の国が少し荒れたという噂を聞いた。



 ***



 俺の店には感謝を伝える手紙や贈り物が積まれていた。


 ヒヨコスキルが人の役に立っている。


 前に猫耳に協力したことで魔物の研究が進み、人の役には立っていたのだろうが実感が薄かった。


 今はスキルが人の役に立っているという実感が強く感じられる。


 だがそれでも、俺の心は満たされていなかった。


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