ヒヨコ十匹目
俺は再びヒヨコのオスメスを見分けるとこに就職した。
だが前のとこは雇い主と喧嘩したので違うとこだ。
「……」
俺には箱に入ったヒヨコ達全てのオスメスが見えていた。
ヒヨコスキルの範囲行使である。
そして一匹のメスヒヨコを指差し、オスとつぶやく。
するとそのヒヨコの体から立ち昇っていた赤いオーラが青いオーラへと変わる。
性転換は一瞬で終わるらしい。これは凄いスキルだ。
いや凄いどころではない。何せヒヨコの性別を変えてしまうのだ。
凄いどころではないのだが、凄いのだろうか?
いやいや間違いなく凄いのだが、凄いのか? 凄くない?
いやいやいや、俺が凄くないなんて言ってしまったら何もかもお終いであろう。
例えば何かのはずみで世界中のオスヒヨコが死んだとしよう。
そうなったらヒヨコはもう全滅するしかないわけだ。
そんな時このスキルがあればなんと、メスヒヨコをオスヒヨコにすることが出来る。
これによりヒヨコは全滅を免れる。それは最早、世界を救ったも同然。
もしそんな事態が発生した時のための保険と考えれば、ヒヨコスキルは既に世界を救っている。
現在進行形で世界を救い続けていると言っても過言ではない。
オスメスが混ざったヒヨコ達を適当に箱に分ける。判別などしない。
オス箱を指差してオスと呟く。メス箱を指差してメスと呟く。
判別完了である。いや判別していないから言うなら仕分け完了だろうか。
何という早さか。当然である。判別する必要が無いのだから。
だがこの速さで仕事を終わらせてしまったら、また雇い主が他の鑑定士たちをクビにしてしまうかもしれない。
仕分け完了した箱からヒヨコ達を戻す。
「メス、オス」
小さくて弱そうなのはメスに、強そうなのはオスにしていく。
俺のイメージである。女性はか弱くて守られる存在。男性は強くて外敵から女性を守る存在。
ヒヨコの弱そう強そうとかわかるのかと突っ込まれるかもしれないが、俺はヒヨコ判別の達人である。わかるのだ。
「オス、オス、オス、メス」
自分のイメージでヒヨコ達の性別を変えていく。
ふと気づく、オスの箱には強そうなヒヨコばかり、メスの箱には弱そうなヒヨコばかりになっている。
いかん、多様性は大事だ。強そうなメスも弱そうなオスも、居なくてはならないのだ。
俺のイメージで多様性を失くしてしまうなんて、良くないことだ。
俺は再びヒヨコ達を戻し、適当に混ぜた後、オス箱に入れたヒヨコ達をオスに、メス箱に入れたヒヨコ達をメスにした。
ヒヨコ達を二つに分け、片方をオス、もう片方をメスにする。俺の作業はこれだけである。
あまりに早い作業に雇い主は他の鑑定士たちを全員解雇し、職場にいるのは俺一人となった。
当然クビにされた鑑定士たちに恨まれた。だが俺は仕事を辞めなかった。
俺はここに、心が満たされない理由を探しに来たのである。
理由が、せめてヒントが見つかるまでは辞められない。
黙々とヒヨコ達を仕分ける俺。
テレレレッテー♪
スキルがレベルアップした。頭の中のスキル説明文を読む。
”ヒヨコのオスメスを判別する”
”あらゆるオスメスを判別する”
”ヒヨコのオスメスを決定する”
”あらゆるオスメスを決定する”
進化したヒヨコスキルは、ヒヨコ以外のオスメスも決められるようになっていた。




