ヒヨコ一匹目
カッとなって書きました。
一話千文字、十話くらいの短い話です。
ニューアビス
地海空ありとあらゆるところに魔物と呼ばれる恐ろしい生物が跋扈し、人の生息域は全体の十分の一にも満たない。魔物と比べて非力な人間達にとっては、生きてゆくのがとても難しい世界である。
だがこの世界を司る神が人に魔物に対抗できる力を与えた。それは何もないところに火を発生させたり、傷を癒したり、空を飛んだり、使い方次第で弱い人でも魔物を倒すことができる力。人はその力をスキルと呼んだ。
人の生息域を広げるべく、今日も冒険者達はスキルを駆使して魔物を倒す。
鍛え上げた己のスキルの力を信じて。
■■■
「ルーズ、お前をパーティーから追放する」
「は?」
俺は所属していた冒険者パーティーから追放された。理不尽な仕打ちに俺は酒場で飲んだくれた。
「くそがー」
俺は木製の杯をカウンターテーブルに打ち付けた。
「役に立たないスキルを得た奴はパーティーに要らないだあー?」
俺は木製の杯を煽る。
「ぶはあー……、ロードゥのやろうめがー、このスキルが役立たずなわけねーだろがーだぼがー。うぃっく」
「荒れてますね」
バーテンダーが俺に話しかけてきた。
「これが荒れずにいられるかってー」
「一体どんなスキルを得たんですか?」
俺の愚痴聞いてたのか。
「知りたいんかー?」
「ええ、興味があります」
本当だろうか。今の俺はかなり飲んでいてウザい感じだろうに。まあこういう仕事は聞き上手でなければやっていけないのかもしれない。
「聞いて驚くなよー? 俺の得たスキルはなー……」
「どんなスキルなんですか?」
「ヒヨコのオスメスを判別するスキルだ」
「え?」
「ヒヨコのオスメスを判別するスキルだー」
「そ、それは一体、どんな状況で使うんですかね?」
「そりゃあ、ヒヨコのオスメスを判別したい時だろー」
ヒヨコの性差は非常に少なく、オスメスの区別は困難である。
冒険の最中、ヒヨコのオスメスを判別しなければならない状況もあるだろう。
そんな時に輝くのがこのスキルなのだ。
「は、はあ、そうですか……」
バーテンダーは黙ってしまった。
「なんだよー、聞き上手じゃないんかよー」
木製の杯をあおり、ぶはあと息を吐き出す俺。
「おうルーズじゃねえか」
「あー?」
話しかけてきたのは髭の男。知り合いの冒険者である。
「聞いたぜ? パーティーから追放されたって?」
「そうなんだよー。酷い話だろー? 俺がヒヨコのオスメスを判別するスキルを得たからってなあー?」
「いや何も酷くないな」
「えー?」
「それよりルーズ、今フリーなら俺達のパーティーに入らないか?」
「ん?」
「ちょうど前衛だった奴が抜けてな。お前さえ良けりゃ俺達は歓迎するぜ」
「ヒヨコのオスメスを判別したいのか?」
「そんなわけないだろ」
「なら別の奴を誘えよ。お前もこのスキルは役に立たないって思ってんだろ?」
「そうだがお前は」
「待て。俺には今、目標が出来た」
「目標?」
「ああ、ヒヨコのオスメスを判別するスキル、こいつで俺を追放したあいつらを見返してやる。絶対にだ」
「んなスキルでどうやって?」
「絶対だ、絶対あいつらに「俺達にはお前が必要だ」って泣きつかせてみせっかんなー!」
俺は木製の杯をあおり、残りを全部飲み干すとぶはあと息を吐いた。