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 あのアリーゼとかいう奴だが、原作キャラにも関わらず遥でさえ情報を余り持っていない。人気低迷によるテコ入れのために投入されたと思われる色気担当だったが、全五巻完結ということから結果はお察しだ。結局、フラグの回収のために掘り下げも殆どなかった。まあ、世の中には第一話の扉絵やプロットでのみで出番が無いまま連載が終わったヒロインが居る作品も存在するのでマシなのだろうが。・・・・・・最終話付近で意味有りげに登場する敵っぽい奴らもな。


「その女だが『鬼姫族(ききぞく)』の者と見て間違いないだろうな」


 だが、この世界は紙の上のインクではなく、存在する者には本人の人生が有る。当然漫画では語られなかったことも知ることが出来るのだ。流石は長年化け物相手に戦ってきただけあって、支部長である父さんが本部に問い合わせると数日で情報が入った。


 どうもアマゾネスの様に女だけの戦闘種族であり、他種族との間に父親の特性を受け継ぐ女児を作るらしい。能力持ちの人間なら父親と同系統の能力を受け継ぐとかな。あの氷の力は恐らくは焔と同じ神の加護系の能力だと思われるが・・・・・・。


「厄介なのに目を付けられたな、お前。まあ本部は自分で何とかなるだろうから任せろだの、出来るだけ情報を引き出せだの言ってきたぞ、頑張れ」


「つまり投げっぱなしか。信頼されていて何よりだ、馬鹿野郎」


笑いながらの対応に頭が痛くなるのを感じる。これも俺への信頼の証なのではあるが、それでも上司である父の顔面に拳を叩き込みたい衝動に襲われた。







「……ふぅん。情報を引き出すってことは彼女と話をする事になるよね。ラスボスの組織の事は感付いているのかな?」


「何となく組織みたいな物があるのは察しているようだが。俺達が知っている理由を説明出来ないからな。……転生させた神も厄介なルールを課してくれたものだ」


 結局、俺の護衛として家に上がり込んだ遥はエプロン姿で中華鍋を振るっている。鼻を刺激する香辛料の香りが漂う中、俺は料理中の背中をジッと見つめていた。


 暫く仕事で互いの両親が家を空けるからと炊事は交代になったのだが、一人で此奴の相手をするのは気が滅入るな。……いや、外堀を埋めようとするから居たほうが面倒か。両家の家の間のスペースに俺と此奴の新居を建てようかとか相談していたが、傍から見ていてどうしてそのような関係だと思うのやら……。



「まあ、良いや。話を聞き出すの手伝うよ。多少手荒な手段を使っても良いよね?」


 どうも妙だ。年中発情期の節操無しの此奴がアリーゼを口説こうともせずに切り掛かったんだからな。どうも強い相手を好む傾向があるからと、自分の方が強いとかアピールしそうなものだが。少なくとも奴も手に入れたいと語っていたはずだ……。


「さあ、食べようか。超絶美少女遥ちゃん特製麻婆豆腐丼だ」


 相変わらずの軽薄な笑顔を浮かべているが、長い付き合いだから違和感に気付く。食事中にそれとなく聞いてみるか。




「米に絡む丁度良いトロミ具合に食欲を刺激する絶妙な旨味と辛み。ははは、やはり私は天才だね」


「ああ、確かに美味い。毎日とは言わないが、毎週食べたい味だな。……おい、正直に言え。何を思い悩んでいる? 誤魔化せると思うなよ」


 途中から回りくどい言い方は無駄だと察した俺はストレートに訊ねる。一瞬表情を固まらせた遥は深い溜息を吐いた。


「やっぱり分かっちゃうか。君と私の仲だからね。……あの女に君が何処かに連れて行かれるような気がしたんだ」


 軽薄な笑みが消え、長い間見せていない暗い表情を見せる。この顔を見たのは転生当初、俺を巻き込んだと思い悩んでいた頃以来だ。


 不安で震える今の遥からは普段の飄々とした姿は想像がつかないが、これも此奴の一面。臆病で寂しがりや、それが幼い頃から変わらない本質だ。大切に思っている相手が自分の周囲から居なくなるのを怖がり、居なくなるのではないかと不安に駆られると一気に脆くなる。


 まったく、何を泣きそうな顔をしているんだ。




「私は君が居ないことなんて考えられない。君の望みなら何でもするから、私の傍から居なくならないでくれ」


 泣きそうな顔と縋りつくような声で懇願する馬鹿の姿に溜息を吐く。相変わらず躊躇なくそういうことを口にするのだから呆れるな。


「何を今更。俺がお前の傍に居なかったら誰が後始末をするんだ。……嫌だと言われても横に居てやる」


 この程度の事、一々口にするまでもないことだろうに。相変わらず世話の焼ける奴だ……。






「今日の晩御飯は何だい? ……女体盛りとかしてあげるから刺身にして欲しいな」


「餃子だ。刺身は明日にしろ。それと提案はノーサンキューだ」


 翌日の帰り道、不安の反動か遥がベタベタと抱き着いてくるがために多少歩き辛さを感じながら帰路に付いていた。この双方共に心を許した相手に甘えるのは何とかしてもらわなければな。もう手遅れな気もするが……。



「さて、何にするか。ハマっている海外ドラマの新シーズンは未だだし……」


 夕飯の材料を買う前に何か映画を借りたいと遥が言い出したので先にレンタルショップに向かったのだが、入ろうとした時に大量の荷物を抱えて店から出ようとしている三人組に出くわした。正確には大荷物を持った二人を引き連れて歩く若い女……最近会ったばかりの顔だ。


 向こうも俺達に気付くと機嫌良さそうに近付いてくる。後ろの二人は此方に会釈すると彼女の背後でピタリと止まった。


「奇遇だな。此処で会ったのも何かの縁だ。ホテルで一発ヤッて行かないか?」


「お茶でも飲みにいかないか、くらいの気軽さで何を言っている」


「痴女だね、痴女。はしたないったらありゃしないよ」


 遥に鏡を差し出したくなりながらも俺は目の前の女、アリーゼから視線を外さない。何か一族固有の術でも使っているのか頭の角は消えていた。恐らく後ろの二人の女性は同族の従者だろうな。



「此処では他の客の邪魔になる。……向こうへ行こう」


「うん? ホテルじゃなくて物影が良いのか? そんな趣味もあるのか……」


「違うっ!」


 駄目だ、此奴。間違いなく遥の同類だな……。






「……それで態々何しに来た」


「何しにって、DVDを借りにだ。ちゃんと金は払ったぞ? 私達は誇り高き部族だからな」


 いざ戦闘になれば周囲に被害が及ぶと判断した俺は店から少し離れた路地裏にアリーゼ達を連れて来た。此方が警戒しているのに向こうが平然としているせいで毒気を抜かれそうになるが、金を払ったということに警戒心を募らせる。つまり社会に溶け込んでいるという事だ。



「お嬢様、どうなさいますか? お望みでしたら婿殿を屋敷にご招待しますが」


「いや、今日は教材を借りに来ただけだからな。……見てみろ。貴様と交わる時の為に人間の嗜好を勉強しようと思ってこれを借りたんだ」


 そう言いながら差し出されたレシートに書かれていた商品は……AVだ。それもジャンルは多岐に渡っている。


「に、人間というのはよく理解できん。どうして此処まで性交に幅を持たせたがるのだ……。だ、だが、私はこれを全て観て貴様が望む方法を受け入れよう。感謝するが良い」


 あっ、違った。この女には僅かだが恥じらいがある。後ろの二人も顔を僅かに赤らめているし、遥と同じと思ったのは失礼だったか。


「はんっ! その程度で照れる初心なネンネが初対面の男に求婚できたものだね。どうだい、私の物になる気はないかい?」


 この馬鹿、俺がずっと隣に居てやると言った途端にこれだ。三人ともポカンとしているぞ。





「むぅ。貴様、実は男だったのか? 女装という奴か……」


「いや、私は君と同じ女さ、だが、愛さえあれば性別なんて関係無い。私のゴッドフィンガーでメロメロになりたくはないかい? ……実戦経験はないけど自分の体で練習はしてるよ」


「女なのか。なら用はない。というより、何故此奴は同性の私を口説くのだ?」


 俺に訊くなと言うことさえ億劫だ。少しの間、放置しておいた方が俺の精神衛生上良かったのではないかと本気で思った。






「今日は全部観なければならんから帰らせてもらうが……貴様は私が手に入れる。楽しみにしておけ」


「ふふふ、私が君を手に入れるほうが先さ。楽しみにしておきたまえ」


 ふと、後ろの従者二人と目が合う。それだけで何を言いたいか互いに分かった。




『苦労しますね』


 其方もな……。








「今回も逃したか。何が悪かったんだろうか……?」


「全部だ、全部」


 帰り道、口説き損ねたことを残念がる馬鹿に頭痛を覚える。本当に此奴はどうしようもない奴だ……。




「しかし去り際に妙なことを言っていたな。君と私の子供なら次の世代の子の相手に相応しい。二号として認めてやらない事はない、とか。馬鹿馬鹿しい」


「ああ、悍ましい話だ」


「私が君の本妻で、彼女が私の妾に決まっているじゃないか!」


  無言で辞書を取り出し、ドヤ顔を見せる馬鹿の脳天に叩き込んだ。いや、百歩譲って結婚は良いとしよう。だが、浮気とか許さないからな?



「もう、ツンデレなんだから。素直になって良いんだぜ? 君の態度次第で私も色々サービスしようじゃないか。年頃の男が好きそうなね……」


「そういう事を言っている間は絶対にデレは見せないと思え馬鹿者」


 本当に此奴は変わらんな。もう慣れてしまい、こんな日常も悪くないと思ってしまう事があるのが本当に怖い。そんなくだらない事を考えながら俺は家へと向かっていった。

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