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 朝起きたら下着姿の幼馴染が隣で寝ていた。さて、どうするべきだろうか……。


「ふふふ、恥ずかしがらなくても良いんだぜ、子猫ちゃん。全部私に任しておけば……むにゃむにゃ」


 艶のある絹のような手触りの黒髪。妖しさを感じさせる整った顔。黒の下着を纏ったシミ一つない白い肌に恵まれたスタイル。間違いなく美少女、それも絶世の、が付くレベルのだ。だが、馬鹿である。性癖は仕方ないにしても、あまりにも馬鹿だ。


 ……俺はどうして此奴の世話を焼いているんだろうか? 昔から苦労させられるが見捨てる気にはならないからだとは思うが。


「幸せそうなのが腹が立つし……起こすか」


 伸ばした右手は遥の顔面を掴み、『握力強化』『肉体超硬化』等の能力を複数同時に発動させる。常人の頭なら熟れた果実のように容易く潰せるが、能力に目覚めた者は肉体のレベルも上がるから問題ない。



「痛い痛い痛いっ! ちょっと揶揄っただけじゃないかっ!」


「下着姿でベッドに潜り込むのがちょっととは、お前の常識はどうなっているんだ、馬鹿者が」


 だからと言って平気な訳はないがな。まぁレベルの高い此奴は肉体の強度も大幅に上がっているし、この程度なら問題ない。凄く痛いだけだ。具体的に言うと小指を箪笥の角にぶつけたり、ささくれを思いっきり引っ張ったり、脛を強打した程度だな。


「放してやるからさっさと服を着ろ。だいたい、どうして俺の部屋に入り込んでベッドで寝ているんだ」


「少し待ってくれ、最初は裸で潜り込もうと思ったんだが、流石に怒るかなと思ってね。私にだって倫理観がある。其処は褒めてくれたって良いんじゃないかい? 揶揄おうと潜り込んだんだけど、君の隣って安心するからついウトウトとしちゃってさ」


「よし。今年の誕生日プレゼントは辞書だな。倫理観の意味を調べなおせ」


 この馬鹿は反省の色を全く見せない。俺に襲われるとは……まぁ思わないのだろう。俺も此奴を傷付ける様な真似はする気が起きないしな。隣が安心できる、と言うのも同感だから眠ってしまったというのは納得したが……いや、少し待て。そもそも潜り込むこと自体が問題だ。


「そんなっ!? 君の手作りのヌイグルミは誕生日とクリスマスの楽しみなんだ。それだけは勘弁してくれ」


 着替えの途中なのかワイシャツを羽織っただけの状態で少し涙目になりながら縋り付いてくる遥。可愛い物好きでゲームやラノベや漫画以外にヌイグルミの収集が好きな此奴は俺のプレゼントを楽しみにしているらしく、嬉しそうな顔を見れば次も作ってやろうという気になる。……其処まで言われては仕方がない。今年も作ってやるか。


「ところでそのワイシャツは俺の物のはずだが?」


「あっ、うん。服を脱ぎ捨てたら丁度コップに当たって倒しちゃってさ。借りるけど良いだろう? ちゃんと洗濯はするよ」


 横に目を向ければ確かに此奴の好む可愛らしい柄のTシャツが飲み残したコーヒーで濡れてしまっている。尚、入っていたマグカップは割れていた。少々怒気を込めて馬鹿に視線を向ける。





「……めんごっ!」


「辞世の句はそれで良いか? 俺なら直せるが……罪には罰だ」


「ぐべっ!?」


 脳天にチョップをお見舞いする。性格同様に見た目が台無しな悲鳴を上げて遥は床に沈んだ。





「朝から余計な体力を使った。今日は忙しいというのにな……おい」


「はいはい、ちゃんと計量して篩に掛けてるよ。じゃあ……」


「フルーツは先程カットして冷蔵庫で冷やしている。生クリームは少し待て」


 俺達が所属する『八咫烏』は人間を化け物から守るための組織だ。鬼に悪霊、悪魔に魔獣、多種多様な敵に対応するためにチームで動くのが基本であり、他の支部で何度も独断行動を起こした挙句にチームを半壊に追い込んだとして、こっちに移動になった轟、そして最近目覚めたばかりだが能力は同レベルの炎系より段違いの焔、この二人が俺達のチームだ。


 実質、俺に問題児と素人のお守りを任した形だな。おのれ支部長(父さん)


 もう二人のヒロイン? 治癒崎は戦闘向けではないから交通の足や後方援護、後始末を担当する裏方の所属だ。あそこは特定のチームと組むわけでもなく、原作と違って俺が居るからな。本来より焔達との関わりが薄くなる。


 遥の奴はそれでブーブー文句を言ってくると思ったが、邪魔者無しに口説けるから逆にチャンスだそうだ。『ロリ巨乳とか最高だよね。小さいのは小さいので悪くないけど』、と言っていたな。頭が痛いんだが……。


 まあ、そんな訳で親睦会を兼ねたホームパーティを開く事にしたから遥に朝から手伝わせているところだ。細かい指示を出さなくてもテキパキ動けるから作業が進む。フライパンから取り出して包んでいたアルミホイルを除けてみればローストビーフもいい具合に出来上がった。


「おい、味見。……指まで舐めるな」


「うん、いい出来だ。じゃあ、こっちも」


 切れ端を摘まんで遥の口元に持っていく。すると遥も自家製の生ハムとクリームチーズを乗せたクラッカーを俺の口元に差し出した。食べさせ合うのに抵抗がないのかと? いや、別に?



「そう言えば君への誕生日プレゼント、今年は何にしようか? って言うか折角可愛い幼馴染があげたものを一度も使ったことが無いよね」


「一日メイド服を着てお仕えする券、とか使えると思うか? その矮小な脳みそでよく考えろ」


 一昨年は水着で混浴券、とか馬鹿な物を贈られたし、互いの両親は仲が良いな、としか言わない。祖父母、両親共に幼馴染というベッタリの関係だからだろうが、互いの家に行くたびに外堀が埋められていく気がしてならないのだが……。


「水着もメイドも駄目だとなると……体操服? もしくはナース?」


「すまない。その脳みそに真面目な思考を望んだ俺が間違っていた」


 今年も遥からのプレゼントは禄でもないものだと確信する中チャイムが鳴る。インターホンの声が轟だと聞くやいなや遥は素早い動きで玄関まで向かっていった。


「エプロン姿で家庭的な一面をアピール。完璧だね!」


 ああ、そうだな。後は着ているのがお前でなければ究極だ。開ける直前には余裕を見せるためか減速し落ち着いた足取りで向かう遥だが、開けた相手を見るなりあからさまに態度を変えた。


「やあ、神野さん。今日は誘ってくれて……」


「君を誘いたくはなかったんだけどね、焔君。ああ、可愛い方のお客様は大歓迎だ。ささっ、入って入って」


「お邪魔します、委員長。今日はお世話になります」


 遥をスルーした轟は俺に一礼し、直ぐにテーブルの上の料理に目を奪われる。普段の世界に対して何も興味がなさそうな瞳が輝いていた。




「美味い! 神野さんって料理上手なんだな」


「其れは私の料理じゃないよ。ったく、これだから男は。適当に褒めるの辞めてくれるかな? あっ、これは私が作ったんだ。食べてくれ」


「気にするな、焔。此奴は昔からこんな感じだ。真面目に付き合うだけ損だぞ。おい、轟。慌てて食べるな」


 リスやハムスターの様に頬を膨らませて料理を頬張る轟と、その世話を焼こうとしてスルーされる遥。そして全員の世話を焼かざるをえない俺。焔も二人の扱いに慣れていないから居心地が悪そうだ。


「委員長はお料理が得意なのですね。……ついでに神野さんも」


「子猫ちゃん。私のことは名前で良いと言ったじゃないか。フフフ。照れている君も可愛らしい。どうだい? 今から二階の寝室で……痛い痛い(いひゃいいひゃい)


「此処は俺の家だし、二階の寝室は俺の部屋だ」


 馴れ馴れしく肩に回した手を払い除けられているのに諦めず、轟を誘う馬鹿の頬を後ろから引っ張り引き離す。暫く羽交い絞めにしておくか。味見やら何やらで腹も膨れたしな。


「委員長のお部屋ですか……少しだけ気になります」


「なら私が案内しよう。だから放してくれ。これも今回の目的である親睦を深めるため……あばばばばっ!?」


 『放電』などの能力を使い馬鹿を黙らせる。この程度なら怪我もしないくらいには丈夫だし大丈夫だろう。


「電撃とか容赦無いですね、委員長」


「本当に大丈夫なのか……?」


 心配しているようだがこの程度で驚いていては胃が持たないぞ、焔。


「この発言の九割が脳を通さずに口から出ている馬鹿と組むなら覚えておけ。心配するだけ無駄だとな」


「私としては君と可愛い女の子が居れば十分なんだけどね。じゃあ、三人で何かして遊ぼう。王様ゲームとか、ツイスターゲームとか」


「この通りだ。気にしたら負けだぞ。轟も本気にしなくて良い。テレビゲームで良いか?」


 最近ツイスターゲームを押し入れの中で発見したから相手をしてくれと付き合わされたが今日のためだったのか。妙に真新しいと思っていたが……。



「罰ゲーム! ビリは罰ゲームと行こうじゃないか! 罰ゲーム書いた紙を入れたクジを引くんだ」


「良いだろう。ただし俺達三人で組んでお前を潰す」


 俺の言葉に歯噛みする遥に対し、轟は顎に手を置いて考えこむと俺の袖を引っ張ってきた。


「あの、委員長。流石にそれは……」


「おお! ツン期が終わってデレ期が来たか! 待っていたよ」


「ですので私と委員長、焔さんと神野さんのチーム戦で行きましょう」


「ぎゃふんっ! ま、まだツン期だったか。だが、それも良い。簡単にデレを見せるのも良いけど、そっちも攻略のし甲斐があって最高だね。……罰ゲームの内容次第では……ぐふふ」


 うん。此奴もう終わりだ。どうしようもないな、本当に……。





 そしてゲームをしたのだが……。



「ふふふ、これはこれで悪くはない」


 俺達に負けた遥は『勝った側の膝に座る』という紙を引き当て俺の膝に座り、焔はパーティが終わるまで鼻眼鏡を着用する事になっていた。


 しかし、ご満悦という表情なのが少し癪だな。


「お前、少し太ったか?」


 たまに歩くの怠いと言って俺の背中に飛び乗ってくるが、少し重くなった気がする。運動はしているが、甘いもの大好きだからか?


「脂肪が増えたという意味ならそうだね。腹囲は変わらないが胸囲は少し増えた。ほらほら、上から見た感想はどうだい?」


 俺を見上げながら自分の胸をユサユサと手で揺らす遥。なんか轟が睨んでいるぞ。


「……ちっ! |《脂肪袋膨らませてドヤ顔とか……》」


「あれ? 轟さん、今舌打ち……」


「気のせいです、鼻眼鏡の負け犬」


「負け犬っ!?」


 まさか轟があそこまで強かったとはな。一回目、二回目は初めてということで駄目駄目だったが、三回目あたりから劇的に強くなり俺が居なくても勝てるレベルになった。


 因みに罰ゲームだが、一回目の俺のは『逆立ち腕立て伏せ三十回』、轟は『猫耳カチューシャ装着』。


 二回目は俺は『勝者何方かの腰を揉む』。轟は『勝者何方かの肩を揉む』だったのだが、遥の肩を揉むのが嫌だったのか速攻で焔の後ろに回り込んだ。結果、俺は現在膝の上で上機嫌の馬鹿の腰を揉まされたというわけだ。







「今回も完全に陥落は出来なかったが……手応えはあったよ」


「今回も完全に勘違いだ。喋ってないで手を動かせ」


 パーティ終了後、二人が帰った後で俺達は後片付けをしていた。料理が綺麗に食べつくされた皿(五割は轟の腹の中)を洗い、飾りを外す。終わった頃には夕食時になっていた。




「今日はどっちも家族が居ないことだし、夕食食べて行くのだろう? カレーの残りがあるがオムレツ食べるか?」


「ああ、要るとも。マッシュルームと玉ねぎが残っていたからそれを具にして……」


「焼き加減は半熟だな。お前の好みは把握している。カレーを温めている間にサラダを作るか。皿を用意してくれ」


 パーティの準備と同様に二人で夕食の準備を進める。ふむ、やはり此奴とだと作業が楽に進む。細かく指示しなくても大体察してくれるからな。






「誕生日プレゼントだけど私との一日デートで良いかい? 費用は私が出そう。他のプランはお気に召さないようだしさ」


「ああ、もうそれで構わん。変なのよりマシだ」

 

 此奴への誕生日プレゼントのヌイグルミは素材を厳選しているから制作費が掛かる。誕生日プレゼントと言うのなら節約に役立たせて貰わないとな。












「じゃあ、偶には私がお弁当を作ろう。君の好み把握しているからね。作るところ見るかい? 特別サービスで水着エプロンでも……いや、思い切って裸エプロン?」


「いや、遠慮させてくれ。それなら安い焼肉バイキングでも行くとしよう」


「つれないなぁ。ノリが悪いよ、ノリが」


 お前のノリが軽過ぎるのが問題なのだが、もう手遅れだな。矯正不可能な馬鹿に悩まされつつ俺はカレーを温める。俺は辛口のチキンカレーが好きなのだが、遥が食べに来ることを想定して作ったこの甘口シーフードも悪くはない。……辛みを増すアレを入れるか。











~オマケ~



「轟刹那と」


「......委員長の」


「「能力解説講座ー!」」



「って、どうかしましたか、委員長? 名前がないのは作者が先延ばしにし続けた結果、このままで良いかと思い始めたからですよ」


「メタ発言は止めろ。あと、君は本編と性格が違っていないか?」


「オマケコーナーとはそう言うものです。では、記念すべき第一回は委員長の『万能』。クソずるいチート能力です。はい、終了」


「いや、終わらせないでくれ。『万能』はこの世に存在する能力全てを使うという能力だ。世界の何処かで誰かが目覚めれば直ぐに能力名と内容が分かる・・・・・おや、今まさに・・・・・複数の能力を同時発動も出来るぞ。性質が違いすぎるのは無理だがな」


「覚醒するかは別として能力自体は誰でも持っています。・・・・・ところで今さっき手に入れた能力は何ですか?」


「そ、其れでは今回はこれまで!」


「いや、能力は?」













(誰かは知らないが命の危機で目覚めたのが『超絶倫』とか哀れでならん。いや、死の間際だからある意味生物らしいのだが・・・・・ハズレも多いからな、本当に。楽器の音を出せる屁とかのときもあったし・・・・・)







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