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「ふふふ、恥ずかしがらなくても良いじゃないか。君の好意には気付いているよ?」


「絶賛勘違い中ですのでお引き取りください」


 何故か会う度に私の頭に手を伸ばし笑顔を見せる同僚に辟易します。この人、同性の私が綺麗と思う程に綺麗ですが、どうやら同性愛者らしく毎日毎日毎日毎日こうやって口説いてくる上に、嫌がっても照れているとか鬱陶しい限りです。


 肩甲骨まで伸びた艶のある黒髪に、怪しさすら感じさせる整った顔、そして腹の立つ性格。ああ、大きな胸も……凄く腹が立ちます。分けろ! ……はっ!? 今、私は何を?


「……まだイベントをこなさないとフラグが立たないのか?」


 こんな風に訳の分からないことを口に出しますし、頭わいているのではないでしょうか?


 ……十年前のあの日、私の幸せは呆気なく終わりを告げた。家族を、日常を奪われた私は能力に目覚め組織に保護され、こうして今に至る。この世に蔓延る化け物を全滅させるのが私の使命。それを誰にも邪魔させる気はない。


 だから、家族が居て凄い力を持つのにヘラヘラ笑って好みの子に声をかけてばかりの彼女は嫌いです。戦いに人生を捧げる気が無いのならその力を私に寄越せとさえ思う。


「あの、神野さん。映画のチケットが有るんだけど……」


「ふーん。でっ? そもそも君誰? モブには興味無いんだ」


 彼女。神野 遥(かみの はるか)は意外な事に人気がある。本当に意外だと思うけど、一部の女子が彼女のことをお姉様って呼んで慕ったり(デート一回したら『何か違うんだよね』ってデートしなくなる)、あの態度が堪らないってファンになっている男の人が居たりして、偶にこうしてデートに誘っては撃沈だけど……モブって何でしょう?


 クラスメイトでも男の顔は覚えていないらしく向ける視線は絶対零度。教師には建前だけは礼儀を払うんですが……但し、一人だけ例外が居ます。




「クラスメイトの顔くらい覚えろ。モブと呼ぶなと何度言わせる」


「ぐばっ!?」


 神野さんの脳天に振り下ろされるハードカバーの分厚い本。神野さんは頭を押さえて蹲る。こういう時、胸がすく、と言うのでしたっけ?


「おいおい、酷いな。顔に傷が出来るような事があれば責任取ってもらうよ?」


「ああ、その場合は責任取ってやるさ」


 さっきのクラスメイトとは違って委員長への態度は親しい相手に向けるもの。頭を叩かれたのに怒った様子もないし、二人とも無自覚でイチャイチャしている。


 謎ですが一部に人気の高い彼女と仲良くしている委員長を嫌う人が居そうですが私が知る限り居ません。



「っと、おい、轟。頼まれていた本だ。返すのは何時でも良い」


「……有難う御座います」


 本は好きだ。人と関わるのが嫌いな私でも広い世界を知る事が出来る。委員長は私のお礼を聞くなり直ぐに離れていく、距離の取り方が心地よい人だと思います。



「いいんちょー! 前に習った編みぐるみ、上手くいかないの。また教えてー!」


「委員長。来週までの課題教えてくれ!」


「委員長。彼に手作りクッキーあげたいんだけど、味見してアドバイスして」


「分かった分かった。課題を教えてほしい奴は他には? よし! 明日の昼休み、自習室で全員纏めて教えてやる」


 これが委員長を嫌う人が思い当たらない理由。何かと頼りにされるし、ちゃんと力になってあげている。神野さんを見捨てないで近くに居続ける程にお人好し。だけど完全に甘やかすだけじゃなくて真摯に対応するから慕われている。


 クラス委員長選挙での投票で本人以外の全員が彼に投票し、バレンタインデーではクラスの女子と他のクラスの女子の何割かから《《義理チョコ》》を貰った、と言えばどれだけ慕われているかが分かると思います。……誕生日は量が多いと持ち帰るのも大変だからと皆でお金を出し合っていました。


 なお、お返しを律義にするので財布がピンチらしいです。大変ですね。……私ですか? ええ、当然義理チョコを贈りました。お返しのクッキーは大変美味でしたよ。



 神野さん? ええ、朝一で渡したそうですよ。義理チョコを。ええ、義理チョコを!





「お弁当忘れました……」


 不覚としか言い様が有りません。今朝、確かに作った弁当ですが鞄の中を見ても存在しない。入れ忘れたのでしょう。財布も忘れましたし、誰かにお金を借りるのは嫌いなので今日は昼を抜こうと思った時、私の机の上にお弁当が置かれました。


「轟、すまない。今日は昼から急用が出来て今から早退するから、良ければ代わりに食べてくれ。弁当箱は遥にでも渡してくれると助かる」


 委員長はそう言うなり慌てた様子で教室から去って行き、私は返事をするタイミングを失いました。……折角ですし頂きましょう。


 蓋を開けると美味しそうなオカズが目に入ります。今日は肉じゃがを中心とした和のメニューで、白米には鮭とワカメを混ぜ込んでいます。卵焼きを箸で切り、口に運ぶと甘めの味が口の中に広がりました。


「美味しい……」


 実に私好みの味付けです。……そう言えばこのお箸、委員長の物ですから……。



「洗ってるからセーフです……よね?」


 ええ、だから気にする必要はありませんと、自分に言い訳するように心の中で呟いた。





「ご飯を食べずに行くのかい? ほら、私のを一口あげよう。はい、あーん」


「立ったまま食べるのは行儀が悪いが……仕方ないか」


 ……ちっ!





 自分に言い訳するように呟く。この後、やはり間接キスなのかと悩んで少し顔が赤いとクラスメイトに心配されました……。




「おや、風邪かい? 私が保健室に運んであげよう。当然お姫様抱っこでね」


「結構です」


 折角の余韻が台無しにされた気がして腹が立ちました。






「はい、毎度どうもー! これ福引券ね」


「……一等は温泉旅行」


 お風呂は好きですが、温泉はもっと好きです。色々と体を張る仕事に就いて居ますし、温泉でのんびりしたいと思いながら商店街を歩く。財布の中を見れば丁度二回分。当たるとも思いませんし、列に並ぶのも面倒臭いので引かないつもりでしたが、ふと会場の前を通ると丁度最後の一人が引いた所。そして買い物袋を見ればポケットティッシュを買い忘れていた事に気付きました。


「売っている店は通り過ぎましたし……」


 家に有るのを全部使ったので今日買って帰る予定でしたが、買いに戻るのも面倒臭い。そして残念賞がちょうどポケットティッシュ。これも何かの巡り会わせかと無言で受け付けの方に福引券を差し出す。


「一回目は……残念! ポケットティシュだ。じゃあ、もう一回ね」


 目的の物は手に入れましたし、早く帰ろうかと思いながらももう一度引くと出て来たのは先ほどと違う色。お菓子だと良いのですが……。


「三等賞! 映画のペアチケットだ!」


 映画は……あまり好きではありません。知らない人の多い場所に行くのは嫌いだから。誰かにあげようかと思いつつチケットに書かれたタイトルに目を向ける。


『パンダウォーズ ~逆襲のメロリンクィーン~』


 これ、委員長が観に行きたいと言っていた映画……。本もお借りしましたしお礼に差し上げようと思いましたが、その場合、一緒に行くのが神野さんになると思うと躊躇いが生じる。何か嫌でした……。




「……私の物ですし、私が行かないと気を使わせますよね?」


 あくまでこれはお礼ですからデートのお誘いではありません。そう、今日のお弁当のお礼です。……そう言えば遥さんにお弁当箱を渡す為に話しかけるのが嫌で渡していませんし、今から渡しに行きましょう。今日の任務の帰りでも良い気がしましたが、よく考えると疲れている時に荷物が増えるのはよくありません。ええ、それだけです。あえて言うなら学校や任務の前後では余計な邪魔が入って腹立たしいからです。


 二人で一緒に行く必要? 知り合いと一緒なら少しは気がマシだからです。ええ、それだけです。



 善は急げとばかりに私は少し離れた場所にある委員長の家に向かって行きました。






「有難い。もう一度観に行きたいと思っていた所だ。この前、遥に誘われて行ったのだがポップコーンやら飲み物を奢らされてな。ああ、チケットを出して貰うのだから同じように出そう」


「……キャラメル味でお願いします」


 やはり神野さんは腹が立つ人です……。

























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