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「おい、次の日曜日に映画でも行かないか? 丁度知人からチケットを譲り受けた」


 最近、遥の様子がどうもおかしい。おかしいと言っても一般的な常識の範疇の行動をするのではなく、おかしい行動が更におかしいのだ。目覚めのキスやら勝手に膝に頭を乗せてくる等は軽い方で、流石に参ってしまう。原因は思い付く。最近、二人だけの時間が少なくなった。共に過ごす時間は特に変わらないが、他の誰かが居ることが多い。


「へえ、君から誘うなんて嬉しいじゃないか。映画の後のディナーは何処のホテルのレストランだい? 実は部屋を取っているんだろう?」


「いや、外泊はせんぞ? 日曜だと言っただろう……不満なら他の奴に譲ろう」


 このチケットは友人の喋るパンダから……喋るパンダ? 何か記憶がおかしい気がする。頭に手を当て考え込むが、喋るパンダの存在を普通に受け入れてしまっていた。今も常識的に考えればおかしいと理解しているのに、それでも妙とは思えない。


『ふっふっふー! 君は面白そうだね。渾名で呼んで良い?』


 一瞬、寒気に襲われた。有ってはならない会合をし、向けられたら終わりの興味を向けられた気がするが何故だろうか。急に固まった俺を心配してか遥が手を伸ばして服の裾を掴んでいる。


「何かあったのかい? 映画は喜んで行かせて貰うよ。……所で私に何か言うことは?」


 思考を切り替え、遥に集中する。俺のベッドに寝転がった遥は風呂上がりなのか上気し髪も少し湿っている。俺の服を掴んでいない手で漫画のページをめくり、口には煎餅を咥えていた。服装だが、上はTシャツ一枚で身長に合わせたサイズなので胸の周囲がパツンパツンになり、下はズボンを穿いてないので黒い下着が見えている。


「髪は乾かせ。痛むぞ」


「いやいや!? 自分のベッドの上で超絶美少女の幼馴染みがこんな姿しているんだぜ? ほらほら、何かあるだろ?」


「ベッドの上で漫画読みながら物を食うな。食べかすがページの間とベッドに散らばるだろう。あと、風邪引くぞ?」


 言いたいことを全て言ったにも関わらず不満そうにする遥。胡座をかいて頬を膨らませている。まるで子供だなと思いつつ、寝転がって本を読みながら煎餅を食うのを止めたので誉めてやろう。


「取り敢えず髪を乾かしてやる。ほら、後ろ向け」


「……実は今の私……ノーブラだぜ。揉んだら生の感触を堪能できるんだ」


「そうか。ちゃんと着けないと形が崩れるのではなかったか? 詳しくはないが友人の一人が言ってたぞ」


 能力で温風を発生させて髪を乾かしてやる。俺が寝るから出て行けと追い出そうとしたが一緒に寝ようとパンツに指を掛けながら言ってきたが、歯を磨かないと虫歯になるので追い出した。





「……そしてこうなるか」


 翌朝、予想はしていたが遥が格好そのままで俺のベッドに潜入していた。俺の手と指と指とを絡めて幸せそうに眠っており、起きたら起きたらで目覚めのキスをしてくるのだろう。



「……勘弁してくれ」


 辟易して呟く中、遥が目を覚ます。後は察して欲しい……。







「しかし、何故わざわざ待ち合わせを?」


 同居しているのに何故か待ち合わせ時間と場所を指定された俺は疑問に思いながら歩いていた。途中、サーフィン仲間のアメリカ人の青年や図書館で出会った少女、碁会所で仲良くなったお爺さんなど、数名の友人に出会って予想以上に時間をとられた俺がたどり着いた時、遥がイタリア人の青年にナンパされていた。


「……鬱陶しいなぁ」


 美女には目がない奴なので遥と気があるかもしれないが、男という時点で無理だろう。嫌悪感を隠さない相手を誘い続ける精神も似ていて笑えるが、もめ事になる前に止めるとするか。


「マーカス」


「!」


 ナンパを邪魔されたと思ったのか不機嫌そうなマーカスだが、俺が誰か分かると途端に嬉しそうにする。何度かハイタッチを繰り返し、俺の連れだと教えると大人しく帰って行った。多分途中で他の誰かに声をかけるのだろう。近所のテニスクラブで仲良くなったが、出会いもナンパを注意した事だと思い出すと笑えてきた。


「待たせたな。じゃあ行こうか」


「本当だよ。君の友人っぽいけど、不愉快だったし埋め合わせはして貰うからね。……今日一日は私が君に何をしても文句は無しだ。絶対だよ!」


 待ち合わせ時間まで少しあるので理不尽とは思うが仕方ない。限度はあると言っておくが、出来る限り善処はしよう。俺の腕に抱きついて隣を歩く遥に伝えると嬉しそうに微笑む。こんな姿が見れるから多少の苦労も良しとしようか。







「あっ! 奇遇ですね、先輩!」


 映画館に入り、ポップコーンと飲み物を買って席を探していると柳堂寺が居た。しかし、本当によく会うな。休日に出掛ければ一度は会うぞ。生活のパターンが似ているなと言ったら何故か嬉しそうだった。


「ふふふ、私達は運命で結ばれているんだね。だってこうも出会いが続くなんてさ」


「……神野先輩と相変わらず仲が良いのですね。まあ、赤ちゃんの時からの付き合いですし、《《友人関係》》に口出しはしませんけど?」


 気のせいか友人関係を強調した気がするが、する意味がないので気のせいだろう。拗ねているように見えるが、先輩として慕われているようだし、自分は一人で少し寂しいのか?






『何故だ! 何故私を裏切った! そのクーポンは私の物だったはずだ!』


『知らないのかい? 最近じゃクーポンはサイトから印刷すれば良いのさ!』


『……さん。絶対に許さんぞ!! 期間限定ミックスフライバーガーの恨みを思い知れぇえええええっ!!』




 映画の最中、不意に手に手が重ねられる。緊迫したシーンだからだろうが両手にだ。片方は遥だが、もう片方の席は開始前に見た限りでは知らない人だった。それが肘掛けを越えて膝の上の手に重ねられては俺も驚いたので横を見れば何故か柳堂寺が座っていた。






「知り合いでしたし、折角なら先輩の隣が良かったので変わって貰いました。……ご迷惑でした?」


 映画終了後、スタッフロールの後に何かあると期待していたが何もなく、少し残念な気分で柳堂寺に聞いてみた所、悪戯がバレたのを笑って誤魔化す子供の顔をした後で不安そうに訊ねてくる。



「気にすることはない。後輩に慕われて悪い気はしないしな」


「……先輩」


 嬉しそうだし、これで良かったのだろう。何故か遥は少し不機嫌そうだったが……。







「おい、何が不満なんだ……」


 あの後、遥が不機嫌なので同行したがった柳堂寺に謝って別れた。別れ際、付き合いの長い友達のお世話も大変ですね、と言ってきたのに頷いたのが悪かったのかもしれない。兎に角不機嫌で、帰宅後も一言も発さず俺の膝から退こうとしない。俺は謝り宥め続け、何とか口を開いてくれた。




「ギュッとしてくれたら許す」


「分かった。それだけで良いんだな?」


 俺は了承して抱き締めようとするも、何故か遥は俺の膝から立ち上がる。怪訝に思った時、向き合う形で膝に上に座り、首に腕を回してきた。




「このまま三十分。じゃないと許さない」


「……分かった」


 背中に手を回し、強く抱き締めれば機嫌良さそうに鼻歌が聞こえてくる。矢張り機嫌が良い時の此奴が一番好きだ。拗ねたときは拗ねたときで可愛いがな。









「……実は今もノーブラなんだ」


「……そうか」


 ああ、変に意識しないのが大変そうだ。

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