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「さてと……」


 昼休み、弁当ではなく鏡と櫛を取り出した遥が珍しく髪を整え出す。寝起きは酷く、俺が毎日セットしてやっているのだが、それ以外では風が吹こうが全力で動こうが一切セットが乱れず、その容姿に陰りなど現れないのが此奴であり、だからこそ身嗜みをわざわざ整えて何処かに行こうとした遥の腕を掴んで動きを止める。絶対に禄な事をしないからだ。


「おいおい、ずっと私と居たいのかい? 私もだが、今から一年の転校生を口説きに行かなければ駄目なんだ。美少女だと聞くし、口説くのが礼儀というものだろう」


「お前は一度礼儀という言葉を辞書で調べろ。それにだ……」


 腕に力を込め強引に引き寄せて受け止めると逃げられないように肩を掴む。転校早々この馬鹿に関わるなど不幸にも程があるからな。


「お前は俺と昼食を食べろ。……良いな?」


 何故かクラスの女子がキャーキャー言っているが何か変なことを言っただろうか? 遥は何やら固まって動かないが妙だと思う。だが、杞憂だったようで椅子に座る俺の膝に座り込んだ彼女は何時もの笑みを浮かべていた。


「ああ、仕方ないなぁ。君が遥ちゃん超絶美少女、結婚してと言うなら妥協してあげよう。君の膝を椅子代わりにして良いのなら一緒にご飯にしようじゃないか」


「美少女だとは思っているし、膝の上に座りたいのなら座ればいい。結婚もまぁしたくない訳ではないが……其処までは言っていないぞ? 大体、俺と居るのが一番と言いながら何故次々と手を出そうとするんだ。俺の苦労も考えろ」


「君は馬鹿かい? 一番好きなモノだけじゃ面白くない。一番好きな君をずっと側に置いて色々楽しむのさ」


 得意げに言いながら俺の顎を撫でてくる遥。今、俺に馬鹿と言ったか? 俺が遥などに馬鹿と言われた? 俺は凄いショックを受け、仕返しする事にした。


 弁当箱の蓋を開ければ俺手製の遥好みに作った弁当が姿を現す。クラスに未だ大勢が居る中、俺は膝の上の遥の口に卵焼きを運んだ。


「今日は俺に食べさせられておけ。拒否するなら明日から卵焼きは出汁巻きだ。甘いのは暫く作らん」


 好物を脅しの材料にし、遥に弁当を食べさせる。脅しが利いたのか大人しく食べる遥だが、大勢に見られているのだから恥ずかしいだろう。馬鹿に馬鹿と言われた屈辱、これで晴らしてやろう。


「……こういうの良いな。照れるけど、君に食べさせて貰うのって幸せだよ」


 ……俺は失敗したかもしれない。普段の言動からSだと思っていた遥だがMなのかも知れないとは。何から何まで理解など無理とは分かっていても少し寂しい。さて、手を止めずに食べさせるか。手元や遥の口の状態は見えないが、咀嚼のタイミングなどは分かっているし、食べやすいタイミングで与えてやれば良い。


「ふぅ、御馳走様。あっ、君は食べられてなかったじゃないか。……仕方ないなぁ」


 遥は手で解放するように指示し、俺が従うと俺の弁当と箸を手に向き直るとその状態で俺の膝の上に座る。此処まで接近すれば顔に息がかかるし、胸が押し付けられるのだが遥は気にせず、今度は俺が食べさせられる事になる。


「ほら、あーん。ふふふ、本当に幸せだ。まるで新婚夫婦みたいじゃないか」


 成る程、言われてみればその通りだと思う。どうやらMだと思ったのは勘違いで、新婚みたいなやり取りが楽しかっただけのようだ。それにしてもクラスの中で人に食べさせて貰うのは些か照れるものだ。少し悪いことをした気分だし、お詫びでもするか。



「おい、遥。帰りに駅前の喫茶店にでも行かないか? 彼処のパンダパフェが好きだろう?」


「おや、デートのお誘いかい? ふふん。じゃあ私の手の甲にキスをするならついて行っても構わないぜ!」


 グッと親指を立てて笑う遥。本当に調子に乗っているなと呆れてしまう。流石に人前でそのようなことが出来るかと言いたいが、言っても無駄だろう。



「そうか、残念だ。お前と寄り道したかったのだがな……」


 この時、本当に落ち込んだ。大勢の前で言った手前、覆すのは難しいだろうし、帰り道に結局寄ることになるが、落ち込みモノは落ち込む。


「……なら、私がご一緒しましょうか、委員長?」


 横から轟が袖を引っ張って来る。何やら期待している顔で、奢ると財布に響きそうだから怖いとは流石に言えない。さて、どうするべきかと悩んだ時、今度は治癒崎が背中に飛びついて首に手を回す。


「じゃあ、私も行きたいなー」


 あの店は店員が全員着ぐるみの変わった店だがカップルが多く、一人だと行きづらいのかと俺は判断する。誘うのも照れるから一緒に来てとは頼めないのだろう。気軽に頼めないほど信頼されていないのは残念だ……。


「おや、二人も来たいのか。なら私が行かない理由はないね。美少女在るところに私ありだ。さぁて、私達の蠱惑的な時間を楽しもう」


「……ふぅ」


 未だ遥は俺の膝の上。腰に手を回して抱き締め、辞書を振り上げる。数種類の能力を同時発動し、脳天に叩き落とした。


「ぶげっ!?」


 相変わらず醜態を晒す奴だ。もう全部が台無しで情けなくなる。っと言うか本当に此奴は毎度毎度……。




「お前は俺と二人で喫茶店に行くんだ、良いな?」


「……うん。変な条件出してごめんよ……」


 どうせ後で拗ねるのだし遥と行くのは仕方がない。轟や治癒崎と一緒に行く場合、男の俺が出さなくては駄目な空気になりそうだ。今回遥と行くことで誤魔化そう。……誤魔化せると良いな。



 ……しかしまぁ、此奴は此奴らしいのが一番なんだが、こうして素直にしてくれたら魅力的だと思うのだがな……。







「なあ、良いだろ? 遊びに行こうぜー」


「良いところに連れて行ってやるからよー」


 駅前の喫茶店『正体不明』に行く途中、うちの学校の制服を着た女生徒がガラの悪い二人組に絡まれていた。金髪にピアス、ボタンを外して胸元全開にした典型的な不良ルック。俺は溜め息を吐くと遥を待たせて近寄って行った。



「おい、止めてやれ。嫌がっているだろう」


 俺の言葉に二人は振り向き、表情を一変させた。



「委員長っ!? 久し振りだな、おい!」


「変わんないなー! え? この子知り合い? まぁ、委員長に言われたら仕方ねぇかー」


 この二人、中学時代の同級生だった奴らだ。一瞬威圧するような表情をするも、俺が誰か分かると嬉しそうに肩を叩いて来る。根は悪くない奴らだからな。友人とはいえ、こうもアッサリ言うことを聞いてくれるのだから嬉しい。


「あ、あの……」


「知り合いがすまんな。もう大丈夫だから安心しろ。じゃあ、俺は此処で……」


 放置すれば拗ねる遥の元に急ぎ、喫茶店に向かう。しかし、なぜ店員が着ぐるみなんだ?









「あ、あの、昨日のお礼に……お弁当を作って来ましたっ!」


 昨日の少女がクラスにやって来た。面倒事の予感がする……。


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