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「最近遥の様子がおかしいのだが……」


 放課後、相談が有るというので委員長に付き合って入ったラーメン屋にてチャレンジメニューの『煉獄麻婆豆腐』と『テラ盛りキムチ炒飯』を食べる手を思わず止めてしまう。


 あの遥さんの様子がおかしいという事は品行方正で男女の区別無くあたりが優しく、淑女の様になったとでも言いたいのでしょうか? いえ、有り得ませんね。


 あまりにも馬鹿馬鹿しい考えを振り払い食事に戻ろうとした時に私はとんでもない過ちに気付く。折角委員長と食事をするのに何て物を頼んでしまったのでしょうか、私は。


「辛い物だけだと途中で飽きそうですね。……杏仁豆腐五皿お願いします。あと、ソフトドリンク全種類」


 店員さんに追加を頼み、ふと横のテーブルを見れば隣のクラスのカップルの姿。少し思う。今の私達も端から見ればデートに見えるのかと。


「餃子二十皿追加で……」


 だから二人でシェア出来る物を頼みます。いえ、何度も何度も言うように私にとって委員長は頼りになって近くにいると安心できて気付けば頭の中に浮かんでいるだけの優しくて格好の良い仲間に過ぎません。すぎませんが……組織のことは内緒なので一緒にいる理由が必要ですし、恋人と思われても別に構わないのです。ええ、只それだけです。私に普通の幸せなど不要ですから。



「……チャレンジメニュー完食です」


「おい、轟。口元に米粒が付いているぞ」


 制限時間の半分で食べきったので別のチャレンジメニューを頼もうと思った時、委員長が手を伸ばしてくる。私の脳裏に先週の神無さんと委員長のやり取りが浮かびました。




『おい、口元にソースが付いているぞ』


『おや、悪いね』


 神無さんの口元を指で拭い、指先のソースを舐める委員長。つまり今から私の口元の米粒を委員長が……。それって間接キス……。





「ほら、ちり紙。お前の場所からだと皿が邪魔だし箱の置き場所を変えるか?」


「……いえ、結構です」


 一瞬感じた胸のドキドキを何処に向けるべきか悩んだ結果、取りあえず次の店でチャレンジメニューを制覇しようと心に決める私でした。



「ああ、言い方が悪かったな。遥の奇行は相変わらずだが、内容が変わってきていてな……正直参る」


「成る程、悪化したのですね。私に被害が来ないように頑張って下さい」


 少し冷たい気もしますがクラスの女子の会話によると偶に冷たい態度を取る方が男女関係ではギャップが出て良いのだとか。漫画の話ですし、私は別に委員会の事を魅力的だとは思っていても男性としての好意を向けているわけでは無いのですが、仲間ですし男と女には変わりないので同じでしょう。


「……ですが愚痴ならお聞きします」


 冷たくしてからの優しさってこれで良いのかと迷いつつ餃子を流し込む。春巻きも食べたくなりました。


「ああ、実は……」




 遥さんがアリーゼ達対策として委員長の家に住んでいるのは知っています。家が隣なので別に一緒に住む必要もなく、私も護衛程度ならこなせるので私が住むべきかとも思いますが、それは追々支部長への提案内容を考えるとして委員長に何があったかを聞くことにしましょう。もしかすれば委員長が好む事について知る機会があるかもしれませんし……仲間として興味があるので。





「……朝から人の上に乗るな馬鹿者」


 朝、仰向けで寝ていた委員長は目を開けなくても腹の上の物の重さで神無さんが乗っていると分かったらしく、脇腹を抓ろうとして違和感を覚えました。どうやら手触りが素肌や寝間着とは違ったらしく、目を開けてみると競泳水着姿の神無さんが居たそうです。


「朝からということは夜になったら上に乗ってくれって事だね? ふふふ、参ったなあ。でも君の頼みなら仕方ないや。ほら、私に向かって優しく抱いて下さいって言ってごらん? 一緒に極楽に行こうじゃないか。……後悔はさせないぜ?」


「いや、違う」


 肩紐を半分ずらし、顔をズイッと近寄らせますが委員長は流石と賞賛すべきでしょう。真顔のままです。……所でわざわざそのような格好にしたという事は露出が高いのよりもラインが分かる服の方が好みなのでしょうか? スクール水着やサイズが小さい体操服、ブルマは……さて、冗談は此処で終わりです。


「今は一緒に台所に行って朝飯を作るぞ。早起きしたなら手伝え」


「照れちゃって可愛いなあ。ああ、そうだ。朝御飯を食べたら君を食べたいな。勿論服は私が脱がせてあげよう全部委ねると良いさ」


「…何度も言うが、俺を口説くならハーレムを諦めてからにしろ。話はそれからだ」


「……君は不動のお気に入りナンバーワンでもかい? それと朝ご飯に君の卵焼きが食べたいな。砂糖で頼むよ」


 この後、二人で肩を並べて料理をしたそうですが共同生活をするなら当然ですし、私も自炊の幅を増やしたいので委員長に指導をお願いしましょう。神無さんは邪魔をしそうなので二人だけで。




 そして夜は夜で委員長の部屋に勝手に入り込んでいたばかりかバスタオル一枚でベッドに寝転んでいたとか。



「悪いけどマッサージをしてくれるかい? 胸が大きいと肩がね……」


 話の途中で思わず箸を咬み砕いてしまう。ああ、矢張り私に胸は必要ないあんな脂肪は化け物との戦いで防具になりはせず、肩が凝るなど邪魔でしかないですから。私は何をビックリしているのか固まっている委員長に話を続けるように言いました。


「……変な所は触らないでくれよ? 触ったら罰として君を抱くからな」


「それは別の責任が発生しそうだな。触らないから安心しろ」


「……触って良いのに」


 ……しかし彼女も大概ですね。私や治癒崎さんを筆頭に美少女を口説いてきましたが、此処に来て委員長まで追加ですか。委員長は真面目な方ですから見え透いた色仕掛けに屈さないなど長所が多く、狙う気持ちも分かりますが。


此処まで話を聞いた様に今までも(無駄な)色仕掛けを委員長にして来たのが急に内容が変わったそうです。


「Sっ気を向けられて困っていると。急ですし、只の気紛れに悪戯しているだけだと思います。……|《私はSかMならMですよ》」


 最後の言葉は聞き取れない大きさで。ええ、仲間ですし、委員長の反応からS相手が好みじゃないと思ったので何となく言っただけです他意はありません。仲間なら平等が一番ですから。








「今日は助かった。こんな悩みを相談できる友人は五十人ほどだけなのだが、裏の話が絡むと轟だけだからな。治癒崎や焔も居るがお前が一番話しやすい」


「……そうですか。何よりです。では、私はここで」


 恐らく誰かに何かされたらしく今の私は委員長に見られたくない顔になっています。なのでプイッと背中を向けて歩き出しました。



「そうそう。お礼と言ったらなんだが、轟、すき焼きを食いに今夜家に来るか?」


 ぴくりと反応して足を止める。委員長の家にお呼ばれですか。この時、少し悪戯を思い付きました。



「……委員長、私を名字でしか呼びませんが名前を覚えていますか? 試しに今夜のお誘いですが名字を名前に変えてもう一度。呼び捨てで構いません」


「覚えているさ。刹那、スキ……」


「ああ、予定を思い出しました。では、今夜お邪魔します!」


 自分で驚くような大声で私は立ち去っていく。変だと思われていないと良いのですが……。






 家に帰り、先ほど録音した物を再生する支給された物だけあって携帯の録音機能は高性能でした。


『刹那、スキ』


 ……これは悪戯に過ぎません。ですからもう一度再生を……。


『刹那、スキ』


 ……もう一度、もう一度だけ……。気が付けば三十分の間私は再生を続け、鼓動は高鳴り顔が熱くなっていました。








「……私は何故こんな事を」


 別に委員長が好きなわけではないのにと。ですが、その問いに答えをくれる方は居ませんでした……。





 

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