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 首無しライダーの都市伝説を知っているだろうか? とある暴走族が走行中に前方に仕掛けられたピアノ線で首を切り落とされるが、死んだ後も首無し状態で走り回るといった内容だったかと俺は記憶している。


 西洋にもデュラハンという首無し騎士の話はあるし、首無し馬という妖怪の言い伝えも有る。割とポピュラーな内容なのかと、父さんからの説明を聞きながら考えていた。


「それで今回はマジモンの幽霊ですか?」


「ああ、既に名前も把握している。七年前に他の事件に埋もれて大して話題にならなかった事件の被害者……いや、加害者と言うべきか」


 焔の問いに父さんはやや呆れた様子で資料を差し出す。今回の犯人とされている首無しライダーの生前についてを中心に、遭遇した生き残りから聞き取った情報について詳しく書かれていた。


 尚、焔が今回は本物の幽霊かと質問をしたが、勿論偽物も存在する。いや、正確に言うならば異界からやってきた化け物を幽霊と間違ったり、目撃証言から伝説が出来たりなどしているのだ。もっとも、幽霊が出現したり俺達の持つ能力の発現自体、化け物が放つオーラの影響だとか何とか。悪霊になって人を呪う力を得るのもその辺りが理由らしい。


「まっ、相手が何かなんて関係ないさ。敵か味方かだけが重要だからね」


「……化け物によって歪められて凶行に及んだのなら同情はしますが、人に害を成すなら消すだけです」


 化け物には見敵必殺を貫く轟も、死者を出しているとはいえ元々人間ならば多少は思うところが有る様子だ。だからか珍しく遥に賛同する発言をしたのだが、その言葉が聞こえた途端に轟の肩に遥の手がそっと置かれ、耳元に口が持って行かれる。


「ふふふ、早速賛同とは嬉しいよ、刹那。さて、今から意見を更に合わせるために二人で仲良く……」


「……委員長」


 振り払っても離れるように言っても、遥は都合のいい解釈をするだけと理解したのか俺に轟の視線が向けられる。まぁ、これも隊長の仕事だと諦めるしか無いようだ。


「おい、遥。今は説明中だ。お前はこっちに来い」


「うへっ?」


 遥の襟首を掴むと強引に引き寄せる。多少抵抗が有ったが腕力を強化する能力を重ね掛け、本気で抵抗する前に羽交い締めにしたまま椅子に座り込んだ。丁度俺の膝の上に座る形になったが、流石に困った。


「支部長、すいません。話を聞く格好では有りませんが……」


「構わん。では説明を続けよう」


 仕事中なので父さんを役職名で呼び、続きを促す。脱出しようと暴れていた遥も父さんが続きを話し出すと抵抗を弱めた。ただ、膝の上は座り心地が悪いらしくモゾモゾと動いていたが。おかげで脚に尻が擦り付けられて感触が伝わってきた。


「おい、あまり動くな」


「おや? 悪い気はしないんじゃないかい? それに私も得している気分だからね。もう少し君の膝の上を堪能させてくれ」


 苦言にニマニマ笑い、更に強く動かしてくる遥。轟など説明中に何をしているのかと怒っているらしく射殺さんばかりの眼光で睨んできていた。


「見てくれよ。この状況に対して嫉妬の視線を送ってきている。ああ、後で君を私の膝に座らせてあげるよ、刹那。だから拗ねないでくれたまえよ?」


 投げキッスまでしている馬鹿の姿を見ていて本当に疑問に思う。どうしてここまで自分に都合が良いように考えられるのだろうとな。


「……有る意味お前が羨ましい」


「仕方ないさ。君は素敵だけど、私が側に居れば霞んでしまう。でも、私は君の魅力を知っているからそれで良いじゃないのかい? そう。だから私の側にずっと居ることだ」


「……了解了解。お前と一生添い遂げれば良いのだな」


「ぴゃっ!?」


 変なのは何時もの事だが、この時は更に変な遥。奇声を上げたと思ったら縮こまってジッとしてしまっている。チラリと見た顔も心なしか赤いようだが……ん? 先程、俺は添い遂げると言ったが、少し不適格な言葉だったか。だが、今更言葉の意味を間違って使ったと言うのも恥ずかしい。皆も特に何も言わないのなら黙っていた方が賢明だな。






「……お前という奴は」


 父さんは呆れているが、どうやら間違った言葉を使ったのに気付かれたらしい。少し恥ずかしくなった 。






 昔、龍善治 輝彦りゅうぜんじてるひこという名前の暴走族がいた。警察の追走から尽く逃げ切り、族同士の抗争は連戦連勝。一人で二桁もの武器を持った集団を返り討ちにしたとさえ噂されている彼には幼馴染みの少女が居た。幼い頃に結婚の約束をし、中学生の時には交際を始めていた大切な存在。唯一心を許した相手だったらしい。








「……まあ、抗争相手にピアノ線の罠を仕掛けた日に彼女の浮気現場を目撃、ショックで走り出したら自分で罠に掛かって死んだのだがな」


 既に犠牲者を出している首無しライダーの生前についての情報を知った焔達の表情は何とも言い難そうだ。自業自得というか哀しいというか、どんな表情をすれば良いのか分からない。遥など興味なさそうにそっぽを向いていた。


「……それで委員長、出現する日に規則性は有るのですか?」


「日には無いが、目撃者には共通点がある。カップルな事と、同じ喫茶店にツーリングで立ち寄った事だ。……それと次の資料に絵が乗っているが、急に手の甲に模様が現れたらしい。本人達にしか見えないらしいぞ」


 どうやら首無しライダーのチームが掲げていたマークらしいが、自分が振られたからと他人を襲うとは気に食わん。死者まで出しているのだから尚更だ。



 俺が憤慨する中、轟は口元に手を当てて暫し考え込み、おずおずといった様子で手を挙げる。何やら作戦がある様子だ。



「……カップルが狙われるのなら私と委員長が囮になるのはどうでしょうか? 神野さんは襲ってきたのを横から殴る役で」


 確かに轟の案は悪くない。どちらにせよ囮は必要で、襲われた時に対応出来る力が必要だ。だが、問題が有る。







「実はカップルという以外に女性の方の胸がな……」


 被害者や目撃したカップルの女性、そして浮気した幼馴染みの共通点。それは胸が大きいことだ。流石にハッキリと言えないので言葉を濁すが轟は理解したらしい。非常に殺る気が溢れ出していた。


「……よし。私が首無しライダーを退治します。奴は私の獲物です」









「そうか。なら囮は俺と遥で引き受ける。構わないな?」


「別に良いけど、君にカップルの事が分かると思えないし私がリードさせて貰うよ? じゃあ、試しに私をハニーと呼んでごらんよ、ダーリン」


「了解だ、ハニー」


 さて、不安な作戦になりそうだ……。








 鏡に映る完全無欠の美少女()の姿についつい見とれてしまう。この世界の主役たる私に相応しい美貌とスタイル。愛しい子猫ちゃん達が夢中になるのも納得だ。……まあ、今攻略中の子達は照れ屋さんだから素直に私への好意を出さないし、煩わしいことに男まで寄って来るのだけどね。


 私に惚れて良い男は彼だけだというのに本当に煩わしいと思いながらお気に入りのライダージャケットのチャックを上げていると途中でキツくなった。


「……あれ? チャックが……あっ」


 一瞬太ったのかと思ったが、よくよく思い起こせば胸がまた大きくなったのを思い出す。手足がブカブカになるからあまり大きなサイズは買わないようにしているが、この赤いライダージャケットは前に一人で買い物に行ったときに買ったっきりで初めて着るので買い直すのは嫌だと思う。


「さて、行こうか」


 胸が少し苦しいがピチピチになって体のラインが分かることで私の色気が増すのだから何一つ問題はない。ただ、彼がどの様な反応を示すのかが気になった。




「お待たせダーリン。さっ、楽しいデートに出掛けようか」


 先に着替えて外で待っていた彼の背後から忍び寄り、不意打ち気味に背中に体を預ける。無論、胸に体重が掛かって強く押し当てられる様にだ。だが、残念なことに予想されていたのか驚いた様子はない。少し残念に思っていると彼が振り返った。


「確かに恋人の演技をする上でその呼び方は了承したが……」


「ん? 言葉が止まるほど私が魅力的だったのかい?」


 珍しく言葉を途切れさせて私を見つめる幼馴染みを何時もの様にからかいながら正面から抱きつこうとするが避けられる。彼に接触を拒まれるのは嫌なので再び抱きつこうとするが、彼が顔を逸らしているのが目に入った瞬間、頭が真っ白になった。


「……えっと、もしかして怒っているのかい? も、もしそうなら何でもするから許してくれ。君に嫌われたら生きていけないんだ」


 自然と涙声になり目にも涙が溜まり始める。まるで拒絶するような彼の態度に胸が締め付けられるようで悲しかった。縋るようにして彼に抱きついた時、気まずそうな彼の声が聞こえてきた。




「……あー、なんだ。その格好が非常に似合っていてだな。恥ずかしくて直視が出来なかったんだ。不安にさせたなら謝ろう」


「……本当かい? うん、別に気にしていないから構わないよ。でも……ふふふ。君が素直に誉めるなんて珍しいじゃないか」


 ホッと胸をなで下ろすと彼の指先が涙を拭う。それにしても良いことを聞いた。今まで下着姿やバスタオル一枚の時にも慌てたが、今回みたいな反応ではない。水着の時も直視できないって事はなかった。つまり、彼はこういった服が好みだってことだ。


「そうかいそうかい。自分から言うなんて、君も漸く私が美少女だって理解したのか。なら、今からのデートが楽しみだろう?」


 彼の服装の好みは露出系よりも密着系だったと知れたのは本当に良かった。彼にずっと側に居てもらう為に一番の方法は男女の仲になる事だ。どのみち彼以外の相手など考えられないし、子猫ちゃん達を集めたハーレムの中で特別扱いをしてあげても良いとさえ思っている。


 だからこそ、彼の好みに一歩でも近付きたいと思うし、幼馴染みとしてではなくって女として見て欲しいと思う時もあった。この発見は本当に嬉しいよ。じゃあ、彼の照れる姿をもう少し堪能しよう。





「いや、俺は前からお前が美少女だと認識していたぞ? 少なくても好みの見た目程度には思っていた。だからまあ……そういった格好のお前と出掛けるのは本当に楽しみだ」


「う、うん……ありがとう」


 胸がドキドキ高鳴り、顔が一気に熱くなるのを感じた私はサッと反転してバイクの上のヘルメットを被る。照れる、本当に照れる。あー、少しの間、彼の顔を直視出来そうにないな。……まったく、不意打ちとか反則だよ、反則!





「見えてきたが……矢張りな」


 目的地である喫茶店間での道中で何とか余裕を取り戻した私と彼が到着すると店の駐輪場には何台ものバイクが見える。窓から店内を見ればカップルの姿が多いようだ。たぶん怖いもの見たさで集まったんだろうけど、男は帰って良いよと思うし、予想していたのか彼も困った様子だ。






「ねぇねぇ、ここが噂のホラースポットよね」


「知ってる知ってる。この店に来たその日一番のベストカップルの前に首無しライダーが現れるんでしょ」


「私も彼氏が出来たら一緒に来ようかなー」


 店に入って評判のパンケーキのセットとフライドポテトを待っていると背後の女の子達の会話が耳に入ってくる。良い、実に良い。女の子が女の子している瞬間は実に素晴らしい。耳を澄ませているだけで時間が経つのを忘れそうだと感じていると注文の品が運ばれてきた。


「お待たせしました。パンケーキとドリンクのセットに大盛りフライドポテトです。ごゆっくりどうぞ」


 早速食べようと思いながらそれとなく周囲を観察する。カップルで来ているのに私に見とれている男の視線が鬱陶しい。直ぐに彼女の怒りを買って謝っているけれど、あんなのを守るために戦うと思うと情けなくなる。



「……ねぇ、あの人格好良くない? ほら、窓際の席の」


「本当だー」


 私に鬱陶しい視線が集まるように彼にも女の子の視線が集まり、注目する会話が耳に入ってくる。何故か腹が立ってきた‥…さて、任務に集中しよう。私は気分を切り替えるとパンケーキをカットし、フォークに刺すとそっと前に差し出した。


「ほら、ダーリン。あーん」


「……了解だ、ハニー」


 甘い声で周囲に見せつけるようにパンケーキを彼の口に運び、今度はフォークを彼に手渡す。ふふふ、事前の打ち合わせで強引に納得させたし、ターゲットに選ばれる為だから拒否は出来ないよね。実際、照れながらも差し出してきた。


「お返しだ、ハニー。ほら、あーん」


「あ、あーん」


 彼が照れているからか私も恥ずかしくなってきた。彼をリードする予定が狂って困るなぁ。互いに相手に食べさせあい、予定では同じフライドポテトを両端から食べるはずだったんだけど、頭が正常に働かなくって忘れてしまっていた。



「……仕方ない。失敗してもいけないし最後の手段に出よう」


 会計を済ませ、二人で店を出る。でも、このまま帰る訳じゃないんだ。もしもの時って口実で私が提案していた事をする時がやってきた。




「……何照れているんだい? キスなら何回かしただろうにさ」


「照れるものは照れる。お前が相手だしな」


 二人で人目がない店の裏で顔を近づける。そう、今からキスをするんだ。実際、遭遇したカップルの殆どがキスをしていたらしいしね。でも、普通のキスじゃ面白くない。だから私は彼を壁に押し付けると右手を掴み自分の胸に押し付けた。彼の指が布越しに私の胸に当たり鼓動が高鳴る。普段なら多少の色仕掛けをしてもこうはならないのに、、きっと出掛けるときに言われた言葉のせいだ。


「……抵抗したら駄目。君は私だけを見ていれば良いんだ」


 驚いた彼の耳元で囁き、喋るよりも前にキスで唇を塞ぐと同時に強く体を押し付ける。二人の体に挟まれた彼の手は私の胸にいっそう強く当たり、私はそれを意識しながら足を彼に絡ませ夢中で唇を貪る。私の方が力が強いから抵抗は意味を成さず、暫く頭がとろけそうになるのを感じていた。


(あっ、これ良い。彼に強引に迫って一方的に責め立てるのって凄く興奮する。……うん。絶対に君は私のモノにしてみせるぞ)


 この時、一瞬だけハーレムじゃなくても構わないと思ってしまった。まあ、諦める気は無いけどね。ふと手を見ると私の手の甲に変な模様が浮かび上がるそれは彼も同様で無事にターゲットに選ばれたようだ。




「じゃあ、覗き見野郎を倒しに行こう」


「……ああ、そうだな」


 顔を背けて先に行こうとする彼の腕に慌てて抱き付く。だって私達はカップルなんだからこうしないと不自然だからね。





 そして夜、バイクを走らせる私達の後ろから人間ではない気配と共に一台のバイクがけたたましい音と共にやってきた。







 でも、私達が攻撃するより先に、待機していた刹那の跳び蹴りが首無しライダーの脇腹に突き刺さった、……白か。


「……貧乳の敵は消え去るべし!」


 派手に転倒した首無しライダーのマウントを取った刹那は無表情で殴打を繰り返す。分析によると顔を見ようとした相手の前方にピアノ線を張る力があったみたいだけど、あれじゃあ使う暇も無いだろうね。


 一撃の度に首無しライダーの下のコンクリート製の道路にヒビが入り、攻撃の凄まじさを物語っている。うん、任務完了だね。じゃあ、このまま彼をツーリングの続きにでも……。





「おい、遥。まだ時間があるし、噂の絶景スポットでも見に行くか?」


「……うん!」


 本当に参ったなあ。何が何でも君を手に入れたくなっちゃうじゃないか……。



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