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「あっ…くぁ…ひゃっ……」


 ベッドの上に横たわった遥の肌に置いた指に力を込める度に部屋に声が響いた。時折指の位置を変え、各所に合わせた力加減で刺激を続ける。強く捕まれたシーツにシワが出来たからベッドメイクをしてやらねばな。


「……うん。やっぱり君にして貰うのが一番だよ。自分でするのとじゃ全然違うからね」


 俺の顔を見る遥の顔は余程心地良かったのか恍惚の表情で、俺もこうしてやっている甲斐があるという物だ。少し声が大きいが防音も能力でどうにかなるので問題ない。


「急に部屋に連れ込まれて何を頼むのかと面食らったが……お気に召したのなら結構だ。この程度なら何度でもしてやる……さっ!」


「きゃっ!?」


 親指に力を込めると遥の体が跳ねてベッドが軋む。あまり動かれるとこっちもしにくくて困るのだがな。……しかし、此奴の普通の悲鳴など久々に聞いた。馬鹿をやって俺に仕置きされた時の悲鳴は蛙が潰れた時のような酷い物だから驚いてしまう。


「……すまん。痛かったか?」


「構わないよ、慣れてないんだからさ。……今日はこの辺で終えよう。名残惜しいけどさ」


 残念そうな所を見るともう少し続けて欲しいのだろうが、変なところで欲求を抑えるからな。普段は欲望ダダ漏れな癖に俺に何かさせるとなると気を使う。その必要は無いというのに。


 俺は遥が起き上がろうとしたので場所を空ける。上半身を起こした遥はベッドの上で俺と向き合って居たのだが、また禄でもないことを思い付いたのか口元に手を当てて微笑むと正面から抱きついてきた。


「君には随分と気持ち良くさせて貰ったしお礼をしなきゃね。……何が良い? 何でもして良いよ?」


 顎を細く柔らかい指が撫で、耳元で囁かれた後で吐息が吹きかけられる。密着してくる遥の体の感触を感じながら俺は腕を動かした。





「いい加減にしろ、馬鹿者がっ!」


「ぐべっ!?」


 辞書の角で脳天を強打すれば何時もの間抜けな悲鳴が上がる。やはり此奴はこうでなくてはなと思っていると頭を押さえながら涙目になった遥が抗議の視線を送ってきた。


「酷いなぁ。此処はRで18な展開に持ち込むか、私を押し倒してから自分だって男だって警告するシーンだろう。君は相も変わらず……はぁ」


「たかがマッサージをした程度であの様な展開に持ち込むなと言っているんだ。だいたい高校生なのだから節度を持て、節度をっ!」


 そうなのだ。風呂上がり、自室で喉を潤すための飲み物を入れたコップをリビングに忘れていたから届けたら、ついでにマッサージをして欲しいと頼まれた。胸が大きいと凝るそうだ。……何故か離れた場所の文系少女から殺気が届いた気がしたが気のせいだろう。少なくても俺向けではなかった。


「高校生だからこそだ。色々溜まっている年頃の大切な君に恩返しついでに経験を積んで大人の色気を手に入れようと思ってね。……本番は我慢してあげるから本当にどう?」


「一人でやっていろ。俺は寝る」


 馬鹿馬鹿しいので溜め息と共にベッドから降りてドアへと向かう。精神的にドッと疲れたからか俺にマッサージが必要な気分だ。明日にでも遥に頼むとしよう。今日はもう寝る。







「強情だなぁ。私の恋人の一人としてハーレムに入るのなら望むだけ相手をしてあげるのにさ。私に魅力を感じない訳じゃ無いだろう?」


「……前も言ったがお前は言動をどうにかすれば本当に完璧だ。あと、ハーレムに入る気は無いとも言った。日本は一夫一妻制で、俺の倫理はそれに従っている」


 分かり切ったことを何度言わせる気なのやら。俺は呆れながらドアを閉める。もう少し真摯に来るなら俺も対応を変えるのだが、あの分では無理そうだな……。あの性格も含めて遥なのだから無理矢理矯正する気は微塵も無いが……流石にああやって迫られたら困る。彼奴が綺麗ではないなど思ったことは一度も無いのだからな。









 この夜、またしても予知夢が発動した。いい加減制御が出来るようになって欲しい今日この頃だが、転生の時に他の内容を希望しなかった自分が悪いと反省するしかない。兎に角、俺は黙って見ているしかないのだ。



「お帰り。待ってたよ。ああ、君の顔を見れて嬉しいよ。本当にこの瞬間が幸せなんだ」


「ああ、ただいま。俺もお前の顔を見られて嬉しいぞ」


 ……またしても遥と結婚した可能性らしく、見慣れない玄関で仕事帰りの俺を遥が出迎える。遥がおれを含む誰かを口説く時のより数割り増しに悦の籠もった顔を向けているが、そこはまぁ、致し方ないのだろう。だが、言いたいことがある。



 何故裸エプロンなのだろうか。この可能性の俺は諦めたのか慣れたのか何も言おうとしない。一体どんなことが有ればそうなるのかと思っていると、靴を脱いで上がろうとした俺の行く手を遥が立ちふさがって邪魔をした。


「……何か忘れていないかい?」


 恥ずかしそうに何かを期待している素振りを見せる遥に対し、俺は指先をそっと彼女の顎に添えるとクイッと軽く持ち上げる。すると遥は目を瞑り、俺は遥にキスをした。最初は唇を合わせる程度の軽い物だったのが互いを求めるかのように抱き締めあう。




「……ごめん、我慢できなくなった。ご飯は後にしてベッドに行こう。……今日は私が好きにする番だし、搾り取ってやるから覚悟してくれよ?」


「さて、覚悟するのはどちらなのやら」


 唇に付着した両者の唾液を舐めとりながら遥は笑う。俺は遥の腰に手を回すと寝室らしき部屋へと入っていった。





「……いや、本当に俺達に何が起きたんだ?」


 何れ時が来れば自ずと分かるのだろうし忌避感は無い。幸せそうだと感じたのは確かだからな。ただ、今回ばかりは明日彼奴の顔を見るのが大変そうだ……。







 その頃、俺が住んでいる街から少し離れた山中の道路、夜景が絶景だとかでドライブやツーリングを楽しむカップルに人気なその道を一組のカップルが走っていた。対向車が来ないか注意しながらも互いに視線を向け、今の幸せな時間を噛みしめていたのだが、背後より迫る爆音とライトの灯りに顔が曇ってしまう。


(暴走族かよ。アンラッキーだな……)


 バックミラーに映るのはゴテゴテと飾り付けたバイクに乗った如何にもといったかっこう暴走族。絡まれたら嫌だから先に行ってくれとの願いが通じたのか暴走族のバイクは横を通り過ぎていく。彼氏はホッと安堵してチラリと暴走族に視線を……送ってしまった。




「マジかよ……」


 バイクと違って飾り気のない使い古されたヘルメットに守られているはずの頭部は存在せず、ただ空洞が有るばかり。思わず声を漏らした時、前を走っていた暴走族の、その内部がないヘルメットが真後ろの彼氏の方を向いた。




「……見たな」









 翌日、錯乱した彼女が語った。彼氏の頭が急に飛んだ、と……。

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