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 周囲からの視線が突き刺さる感じがする。興味本位と……嫉妬か。貰い物の力だけに居心地が悪いな。


「あーやだやだ。可愛い子ちゃんなら兎も角、君や家族以外の男の視線とか紫外線レベルに肌に悪そうだよ」


「お前は頭と口と性格が悪いがな。机に肘を付くな、資料はちゃんと読め、姿勢を正せ」


 この世界に転生してから早数か月。高校に進学したばかりの俺達は化け物を退治する為の組織『八咫烏』の研修会に泊まり掛けで参加していた。何故俺達の様な若造が来ているか? まぁ常識外れのレベルⅩの馬鹿と全能力が使える俺だから仕方がない。むしろ俺達を行かせろと本部からせっつかれたそうだ。


「轟ちゃんが来ないのは残念だ。泊まり掛けで二人のハートが大接近なラブラブハート大作戦とか計画してたのに徒労に終わったよ」


「彼女は少し独断行動が続いているからな。お前も俺のフォローがなかったらどうなっているか。それと何方にせよ徒労だ」


「分かっているさ。君には昔からお世話になっているからね。それより此処ではシャワーが個室ごとなんだ。せっかく各支部の美少女や美女の裸を拝めると思ったのにさ」


 頬杖を突きながら不満げに漏らす遥の荷物に視線を向ける。水中カメラとか小型カメラとか、精々姿を盗撮するのかと思い現場で止めればいいかと思っていたが……。


 ……むっ? 今、新しい能力者が目覚めた。能力名『炎神の加護』か。確か主人公の焔の能力だったな。能力は唯一無二のだから間違い無いだろう。俺以外に本人しか使えん。


「まあ、こういう組織だから古傷やら何やら有るだろうからな。集団での入浴を忌避する者は居るだろう。妥当な措置だ」


「それもそうだね。私は気にしないが、彼女達の悲しむ顔は見たくない。美しい花の笑顔を守るのは私の義務さ」


「いや、まずは社会的常識を遵守する義務を守れ」







「な、何なんだ。あの化け物は? お前は一体!?」


「同情するわ、焔 伊吹(ほむら いぶき)。貴方の日常は今日をもって終わりを迎えた」


 その頃。幼馴染の田中と出掛けた帰りに化け物に襲われた焔は囮になって引き付けて逃げ込んだ廃工場で能力に目覚めていた。巨大な化け物を炎で倒したのだが、もう一体居た化け物に襲い掛かられた時、突如現れた轟によって助けられる。


 月明かりが差し込む中、腰を抜かした彼は刀を抜いた轟から運命の始まりを告げられていた。





「失敗失敗。いつ頃かは分かっていても正確な日時までは描かれていなかったからね。……ヒロイン達とのフラグを纏めて戴くはずだったのにさ」


「いや、彼が目覚めなくてもお前には無理だっただろう。下心が丸見えだ」


 この日、俺と遥は近所の神社で行われた春市に出掛けていた。祭りには浴衣だよと少し肌寒いだろうにわざわざ浴衣を着て髪型までうなじが見える様に変えている。普段は肩甲骨の辺りまで伸ばした艶のある黒髪を束ねている姿は中々のものだ。


「相変わらず色々な格好をするのが好きだな」


「形から入るのは悪い事じゃないよ」


 遥の趣味は前世同様に漫画やゲームだが、コスプレの類も好きだ。ただし既存キャラのコスプレではなく制服などを着るのが好きなんだ。ただ、自分だけで楽しむのも寂しいからと毎回毎回写メに撮って送ってくる。この前などはバニースーツ(後ろシームで片耳が折れている)を着てセクシーポーズまでしていた。


「じゃあ、行こうか。……ダーリン」


「……寒気がした。幾ら必要な演技とはいえ勘弁してくれ」


 言っておくがデートではない、これも仕事だ。カップルばかり狙う化け物が居るらしいので任務だ。サーチ系の能力を複数同時使用しているが殺気を送っているのは同年代の男のみ。ああ、今俺の腕に抱き着くという悍ましい行為をしているのは見た目だけなら美少女だったな。


「あっ、私、下着付けていないんだ。浴衣だし当然だろう? 感触はどうかな?」


「ならくっ付くな」


「流石に寒いんだよ。だから温めてくれ」


 そんな恰好をしてくるからだ、と言いたいが仕方ないので上着を貸してやる。流石に此奴の周囲だけ温度を調節したら近付いた者が違和感を感じるし、能力の同時使用の負担を増やしたくない。


 この馬鹿は派手な戦いが好きだからと周辺被害を顧みないから『時間逆行』や『時間速度変化』などで俺が修復している。疲れるんだ、時間操作系の能力は。



「うん。君は優しいな。私には特にね」


「幼馴染だ。俺だとて贔屓はする。むしろ幼馴染でなければお前のような変人の世話など焼くものか。……おや、あそこに居るのは……」


 視線の先には田中と屋台を眺めている焔の姿。途端に遥が目を輝かせてすっ飛んで行こうとしたので首根っこを掴んで止める。


「ぐえっ!」


 蛙を潰した様な声が聞こえたが気にしないでおこう。此奴が美少女を台無しにするのは何時もの事だ。


「おいおい。地味系美少女を見付けたらデートに誘うのは義務だろう」


「それより前に果たすべき義務があるだろう、馬鹿者が」


 この後、告白しようと雑木林に焔を連れて行った田中が襲われ焔が立ち向かうも能力は上手く使えない。当然だ。彼奴は日常を失う事を恐れて勧誘を断ったが、能力はそう簡単に使いこなせるものではない。




「大丈夫かい? 私が来たからにはもう大丈夫だ」


 田中にウインクして化け物を瞬殺する遥。だがなぁ。派手にやり過ぎて雑木林が吹き飛んでいるが、誰が直すと思っているんだ? 後始末や偽装工作は俺の仕事なんだぞ?



「さて、このまま私と屋台を見て回ろう。その後、私の部屋に来ないかい?」


「え? いや、あの……」


「恥ずかしがらなくて良いさ。こうして出会ったのも何かの縁だからね。そう! 私と君は運命の糸で結ばれているのさ!」


 相手の困惑に気付かず誘い続ける馬鹿の頭に拳骨を落として鎮圧したのは言うまでもない。これを機に焔は八咫烏に入隊して化け物退治の為に力をつけていく事になる。因みに遥曰く、原作の二話と三話を使うエピソードらしい。



 ああ、本来助けるはずの轟(単独で高い所から様子を伺う作戦を取るはずだったらしい)だが、俺達が引き受けるからと休ませた。人混みが嫌いだからと祭りには行かなかったがリンゴ飴を頼まれたので買って来てやったら目を輝かせていたよ。






「……まだ体が怠い」


 再勧誘を受けた焔を支部に案内し説明を行い、事件の後処理に報告書の作成と心身共に疲労が溜まった俺は昼休み、屋上で寝転がる。流石に床に直に頭を置くのは嫌だと思っていると遥が自分の膝を指さした。



「貸してあげよう、感謝したまえ」


「有難く借りるが感謝はしない。そもそも疲れはお前のせいだ」


「おいおい、美少女の膝枕だよ? 君以外の男にしてあげた事などないんだから有難く思いたまえ。まぁ、これから私が心を射止める子猫ちゃん達が使うだろうがね」


 ああ、つまり俺以外に膝枕する機会はないだろうという事か。さて、俺の指揮下に入る事になった焔への指導もあるし、これからも疲れそうだ。……主に此奴のせいでな。


 皮肉な事に疲労の原因となった遥の膝枕は心地よく、俺は静かに目を閉じ眠る事が出来た。









「流石に苦労を掛けすぎたか。……よし! 今晩にでも水着で背中流してあげよう。いや、人様の家のお風呂に水着で入るのも失礼だろうし、バスタオル巻いておけば良いか。うんうん。私は幼馴染想いだよ、まったく」


 誰か何とか言ってくれ……。

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