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 こんな化け物が実際にいる世界で、それと戦っている私達みたいなのの中には死にかけた人だって結構居るし、その瞬間を夢に見る事だって有るらしいね。……実は私もそうだ。


 転生特典で精神の強化を貰ったから戦いとは無縁だった私でも戦える。でも、偶にあの時の夢を、この世界に来る切っ掛けとなった事故の夢を見ることがある。ずっと部屋に閉じこもっていた私は彼と一緒だったから外に出ることが出来た。でも、外出先でまさかの隕石落下によって……。


 即死だったから苦痛はなかった。最後の記憶は私を守ろうとした彼の姿。私のせいで死んでしまった最期の姿……。


「……起きてるかい?」


 深夜、またあの時の夢を見て飛び起きた私は不安を紛らわせる為に彼の部屋に忍び込む。顔を近付けて、彼の存在を確かめると安堵感と共に睡魔が襲ってきた。彼の存在は私を安心させてくれるけど、こんな風に自室に戻るのが面倒になるのは問題だね。


「汗が気持ち悪いし……よし! 脱ごう」


 悪夢のせいで体は寝汗でビッショリで寝間着が、張り付いている。ボタンを手早く外して寝間着を乱雑に放ると彼の布団に潜り込む。後は体を密着させるだけで残っていた不安が完全に消え去った。


 彼は今でも私の側に居る。それだけで私は心の底から幸せだと、そう思うんだ……。



「多分明日になったら君は驚いた後で怒るだろうね。でも、それって君が私の相手をしてくれているって事なんだ。君が側に居てくれて私を見ていてくれている。ああ、私は本当に幸せだよ」


 物心つく前からずっと一緒に居てくれる君。君が居ない人生なんて意味がないし考えられない。だからさ、何度も言ってくれるけど、本当にずっと私の側に居てくれよ? 君が居ない人生に興味は無いんだから……。


 腕と足を彼に絡ませ強く密着する。触覚で、嗅覚で、視覚で、聴覚で、大切な彼の存在を確かに感じながら私は眠りについた。







「絶景かな、絶景かな。この眺めは値千金。最高の光景だ」


 今日は年に数度有る各支部の支部長やお供の部下が集まってのパーティーの日。着物にドレスと綺麗に着飾った美女美少女達は眺めているだけでご飯三杯はいける。さて、後でまずあの子から口説こう。美少女と会ったならば口説くのが礼儀というものだ。


「……ふぅ」


「おや、ため息なんて良くないぜ? 幸せが逃げてしまうからね。まぁ、君は私のような超絶美少女と一緒に居られるって幸福を味わい続けるんだけどね」


 目の保養の最中に彼の深い溜息が聞こえてくる。折角のパーティーだと言うのに仕方がないなぁ。仕方がないから元気付けてあげよう。私は彼に正面から近付くと腕に抱き付きながら胸で挟み込んであげた。こんな事してあげるのは君だけなんだから感謝するんだぜ?


「おい、お前なぁ……」


「恥ずかしがるなよ。恋人だろ?」


 私みたいな完全無欠の美少女の唯一の欠点は鬱陶しい男が寄ってくる事だ。使い古された言葉を耳障りな声で吐き出して私を口説こうなんて馬鹿馬鹿しい。私を口説く権利が有るのは彼だけさ。


「他の女に目移りしないでくれよ? 私だって嫉妬するんだからさ」

 

 私同様に彼も前まで言い寄って来る相手が沢山居た。何で私じゃなくって彼に可愛い子猫ちゃんが寄ってくるのか不思議だよ。見た目が良くって同学年の殆どが友達なくらい人望があって仕事が優秀で頭が働くけど、本当の良さって長く付き合わないと分からないんだぜ? ……それにだ、彼の側は私の場所だし私に構ってくれる時間が減るのは非常に困る。


「どうせならキスでもするかい?」


「場を弁えろ、馬鹿者が。一応支部同士の交流の為のパーティーで、俺達は代表として来ているのだから慎め」


 相変わらずの頭の固さに私が溜息を吐きたくなる。流石に馬鹿馬鹿連呼されれば腹も立つし、彼を狙っても無駄だと釘を刺すためにもう少し体をくっつけよう。どうせなら正面からピタリとくっ付いて……。


「おや、何か文句有るのかい? 恋人同士ってアピールしてた方が今後の面倒を減らせるじゃないか」


「……いや、何でもない」


 真顔で誤魔化す彼だけど、この位置だと私の胸の谷間が間近で見えると分かっての行動さ。必死に目を向けまいとしている姿を見るとスッキリする。偶には私が女だって意識させないと面白く無いからね。……普段は反応が薄すぎて、ぶっちゃけプライドが傷付く。



「喉が渇いてきたし……ふふふ。唾液でも交換する?」


「いや、俺が何か持って来よう。少し待っていろ」


 どうやら離れる口実を作ってしまったらしく、足早に去っていく彼の背を退屈そうに見詰めながら壁に背を預ける。すぐ横の窓に目を向ければ窓ガラスに私の姿が映っていた。黒い長髪を夜会巻きにして少し胸元を開けた漆黒のパーティードレス。前のは胸が成長してキツくなったから両親が新調してくれた物だ。


「偶には違う一面を見せてドキドキさせなさい、か。分かってないなぁ」


 彼には自分の全てを見せてきたつもりだし、私だって彼のあらゆる面を見てきたつもりだ。新しい一面を演技で取り繕っても見破られるだけだと悩んでいると横からグラスが差し出される。



「よう。お前、可愛いな。名前は何って言うんだ?」


 話し掛けて来たのは見知らぬ男。先程までの楽しい気分が一気に台無しにされた気がして非常に不快だ。私は家族と彼と彼の家族以外の男は嫌いなのにさ。


「全く急に能力に目覚めて、凄い能力だからって連れてこられて散々だぜ。だがまぁ……お前と出会えたから良しとしよう」


「……」


 此奴、私が一番嫌いなタイプだ。声を聞かせるのも腹立たしい。初対面の相手を口説くとか常識を疑うよ。


「緊張してるのか? 大丈夫だ。直ぐに俺のことを理解させてやるよ」


 私が黙っているのを何を勘違いしたのやら。これは今まで人生お花畑だったんだろうと呆れ果てる。面倒だし立ち去ろうとした瞬間、腕を伸ばして進路を妨害しようとしてきた。まぁ壁ドンという奴だ。



「……あれ?」


 まぁ、私の身体能力なら行く手を阻まれるより先に進めるんだけどね。今までどうやって女を口説いてきたかは知らないけど、私に甘い言葉を掛けようなんて鬱陶しい真似はさせない。そんな事をする権利は彼にしか与える気は無いんだ。



「おい、待てよ。恥ずかしがらなくても……」


 いい加減大人しくするのも我慢の限界になってきたし、揉め事を嫌う彼には悪いけど、手を伸ばしてくる男をぶっ飛ばそうとした瞬間、不意に横から私の肩に手が置かれ抱き寄せられた。驚いて見上げると不機嫌そうな彼の顔が身近に見える。


「此奴は俺の彼女だ。口説くなら他を当たれ」


「ひっ!?」


 普段は温厚な彼がこの時は怒気を滲ませて男を威圧する。情けない声を出して逃げるように去っていく男から外した視線は今度は私に向けられた。


「悪かったな。お前は男が苦手なのに……」


「……大丈夫だよ。もう苛められていた頃の私じゃないし、また君がどうにかしてくれたんだからさ」


 だから君はそんな申し訳無さそうな顔をしないで欲しい。ずっと私を守ってくれているんだから……。




「今日は新顔が結構来ているみたいだし、ずっと俺の側に居ろ。分かったな」


 有無を言わせない口振りで肩に置かれた手の力が強まる。思わず無言で頷いちゃったし、仕方ないかぁ。今日は子猫ちゃん達を口説くのを諦めて君と一緒に楽しむよ。そっちの方がずっと楽しそうだしね……。




 ……あー、駄目だ。胸が高鳴ってきた。私もまだまだだなぁ。




「……顔が赤いが大丈夫か?」


「君のせいだよ……」


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