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「い~や~だ~! わ~た~し~も~行~く~!」

 朝食後、尻尾代わりのポニーテールを丸め、怯えた目で物陰から此方を伺っている小鈴を筆頭に皆が遠巻きになる中、遥は俺を羽交い締めにして駄々を捏ねていた。忘れがちだがこの馬鹿は俺より力が強いので引き剥がせず、取りあえずの嘘も通じない付き合いの長さなので丸め込むのも難しい。


「|《もげろ…垂れろ…削ぎ落とされろ》」


 ……うん。俺の背中に強く押しつけられても大して形を変えないほどに張りも感じるのだが、轟がそれを凝視して呪詛の言葉を呟いているなど気のせいに決まっているな。それは兎も角、どの様な理由があって今の状況になったかというと、普段からエリアーデの護衛と監視を任せている小鈴に対し労いのために今日一日付き合うことにしたのだ。


 ……その程度で良いのかと俺は思うのだが、本人がそれを望んで、了承したら喜んで飛び跳ねたりしたので、まぁ良いのだろう。流石に頬を嘗めてきたときは止めたがな。犬の慣習が残っている上にロボットと分かっていても見た目は同年代の少女なのだから恥ずかしい。遥がやってくるのとは違うのだぞ、まったく……。


「お前の普段の行動で怖がられているんだ、我慢しろ。大体、どうしてそこまで一緒に来たがる?」


「それは……」


 既に砂浜まで着ていて他の女子も水着姿だ。少し悪い気もするがスケープゴートには十分だろうにと思った俺が訊くと遥が言いよどむ。珍しい、此奴がこの様な態度を取るなど一体何が……。



「初めて見る景色にビックリしたり興味を持ってソワソワする小鈴の姿を見たいっていうか愛でたいから!」


「よし! 平常運転!!」


 心配して損したと暴れる力を強めるが引き剥がせない。遥も俺が了承するまで離れないつもりだからか力を強め、胸が更に強く押し当てられると轟から殺気がより濃厚に発せられるという幻覚に囚われる。さて、時間の無駄だしここは交渉と行こうか。



「……交換条件だ。今日我慢するなら要求を何か飲もう。試しに言って見ろ」


「私は君と一緒に居たいだけさ。小鈴をじっくり眺めた後で撫でさせてくれて、最後に色々と可愛がらせてくれたら文句は無いよ」


 見えないがドヤ顔をしているのだと容易に想像が付く。あぁ、少し腹が立ってきた。もう電撃か何か放つべきだろうか。


「よし! 却下! ……おい、誰かバールのような物を持ってきてくれ」


「……了解しました。鈍器で後頭部をガツンと叩いた後で無駄な贅肉を削ぎ落とすの……いえ、何でもありません」


 怖っ!? 轟さん、何があったのですか!? ……俺がつい敬語になる中、流石に怖かったのか遥が何やら考え出した様子。これで漸く解放されるな。



「……そうだね。君がこの場で私にキスができたら大人しく残るよ」


「了解した。キスするから離せ、遥」


「ぴやっ!?」


 俺の声色から本気だと感じたのか遥の腕が驚きの声とともに離される。俺は素早く振り向くと固まったままの遥の肩を掴んで引き寄せた。


「え? ちょい待ってくれっ!?」


 俺の行動が予想外だったのか大いに慌てる遥。ふん、甘いな。お前が俺の行動をどの様に予測するなど予測済みだ。ここで落ち着く余裕を与えず、慌てているが抵抗する様子を見せない遥に顔を近付けてキスをする。


「ひゃんっ!?」


 ……ただし、額にだ。流石に皆の目の前だし無理だ。だが、この馬鹿には効果があったようで赤面して口をパクパクと動かすなど言葉も出ないらしい。自分が攻めるときは大胆不敵なくせに受け手に回ると途端に弱くなるのがこの馬鹿だ。


「今だっ!」


「ひゃ、ひゃいっ!?」


 何故か轟は頬を膨らませ、治癒崎は笑顔が恐く、焔と田中は治癒崎に怯え、エリアーデがこの隙にと遥からサンプルを採取しようとしていたのをローキックで悶絶させた俺は海に向かって走り出しながら小鈴に手を伸ばす。あの程度でも刺激が強かったのか赤面していた小鈴が慌てて俺の手を掴んだ瞬間、脚力を強化して一気に跳躍、遥前方の海面へと水柱を上げながら着水した。


「に、逃げられたぁっ!? 小鈴の興味津々な姿をじっくりねっとり観察したかったなぁ……。じゃあ子猫ちゃん達、私と一緒に遊ぼう。あっ、エリアーデはそこの男と乳繰り有ってればいいよ」



 放置した遥が心配だが……心配いらない気がするな。いや、轟達が心配か……。







「主殿、主殿っ! なにやら巨大な貝が居ます。むむっ! 私の手を挟むとはっ!」


 一応小鈴が俺に忠義を誓うのは俺の迂闊な行動のせいであり、ロボット相手とはいえ感情がある相手だ(漫画の世界だし、能力がある時点で細かいことは考えない)、無碍には出来ない。だから二日目は小鈴に付き合うと伝えたのだが、ならば行ったことのない場所で散歩がしたいと言われ海中散歩をしている。


 ……水中で息や会話が出来るのは『水中呼吸』等の能力のおかげだ。尚、この能力の持ち主は後援部隊の知り合いで、火山の噴火で流れ出した溶岩から逃げる最中に覚醒したとか。能力自体は役に立たなかったが、目覚めたら身体能力が上がるので助かったらしい。


 ……閑話休題、何故か三メートルはあるシャコ貝(化け物か?)に不用意にベタベタ触っていた小鈴は見事に腕を挟まれてしまった。ロボットなので窒息の危険は無いだろう。それに俺はエリアーデから聞いている。小鈴には少年の心を擽るあの装備が、ビームが搭載されているのだ。なお、水中でも撃てる仕様らしい。天才だからな、一応。


「小鈴、ビームで焼き切ったらどうだ?」


「成る程っ! 流石です、主殿っ!」


 ビーム見たさだったから誉められると気まずい。ああ、曇り一つ無い綺麗な瞳が痛いな……。俺が軽く落ち込む中、小鈴の目がキラリと光る。やはり目からビームがでるのかっ!?



「成敗っ!」


 掛け声と共に小鈴がビームを放つ。但し膝からだった……。」


「……主殿?」


「いや、何でもない……」


 帰ったらエリアーデとじっくり語り合おうかと悩んで目を離した瞬間、小鈴は前方へと駆けだしていく。


「主殿、このウネウネした物が飛び出ている袋は一体……」


 二メートル程のイソギンチャクをしげしげと観察し、俺が教えるよりも前に上に飛び乗る。ロボットの頑丈な体に毒は通らなかった。


「むむっ! 奇妙な生物が……ひゃうっ!?」


 超巨大なタコに不用心に近づいた結果、タコの足が小鈴の身体中にまとわり付き、谷間やらの隙間に侵入して悲鳴をあげていた。


「蟹っ! これは食いでが有りそうだっ!」


 熊ほどもある巨大な蟹に挑み、一撃で仕留めるが、水中で食べようとしたので塩気が強すぎて不味かったようだ。



「先程から巨大生物に出会いすぎではないか? いや、それよりもお前は少しは落ち着け」


 遥としょっちゅう散歩をするのだが、時折いうことを訊かずに暴走する犬のリードを必死に引っ張る飼い主を見かけることがある。少女の姿の相手に感じることでは無いのだが、今はその気持ちが少し分かった。


「……お前が見た目も犬なら首輪とリードを着けたい気分だ」


「私なら構いませんが? 既に用意していますし」


「俺が構うのだ、俺が。……そもそも、そのような物を何故……っ!」


 真剣な眼差しで首輪とリードを差し出されて頭痛を感じた時、海の中にも関わらず女の笑い声が聞こえてきた……。

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