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 人生は何が起きるか分からない。極めて低い可能性だろうが俺と遥が結婚する未来が存在する様に、俺が今見ている予知夢の内容に至った経緯も全く予想不可能だった。


「……あの、お願いが有ります」


 大きめのソファーに俺は座り、隣に座る女性、どう見ても轟が少し成長(一部除く)したと見られる相手の肩に手を回して優しく抱き寄せて居たのだが、轟らしき女性は手で口元を隠しモジモジしながら俺を見上げていた。


「お願い? 別に構わんぞ。お前の願いなら可能な限り叶えてやるさ」


 ……うーむ。これ、本当に予知夢か? 轟は確かに友人で、吊り橋効果やら何やらで今の関係になる可能性は否定できないのだろうが、遥以外にこの様な事を言うとはな。つまり俺は二人のお願いを必ず叶える気なのか。随分と豪胆な事だなとことの成り行きを観察しながら呆れていると、轟は恥ずかしいらしく間近でないと聞こえないような声を出した。


「……キス、して欲しいです」


 言った途端に恥ずかしさから顔を逸らす轟であったが、俺は彼女を強く抱き締めると強引に唇を奪う。一瞬びっくりした顔の轟だが直ぐに喜色が目に浮かび、両手で俺に抱きついてより強く唇を押し付けていた。


 ……何と言うか、非常に気まずいな。予知夢は可能性の高い未来の中からランキング上位の未来をランダムで見るという物だから非常に低くても他のより高ければ見るのだろうが……。


「……俺からも頼みが有るのだが」


 唇を離した俺は名残惜しそうに俺の唇を見詰める轟の耳元に口を持って行く。ふっと息を吹きかければ轟の体がピクリと反応した。


「……何ですか?」


 何かを期待する様な声で轟は俺の言葉を待つ。視線はドアの方を一瞬向き、次に窓の方を向くと指先を胸元のボタンに掛けていた。彼女が何を期待しているのかが伝わる中、俺はゆっくりと口を開く。







「今度はお前からキスをしてくれるか? その後で……」





 夢の途中だったが息苦しさから目を覚ます。流石にアレより先は気まずそうだから良かったのだが、問題は息苦しさの理由だ。遥の馬鹿がまたしても俺のベッドに潜り込み、俺の頭を抱き締めていた。それ自体は何度も経験しているから問題ではないのだが、流石に他の皆が同じ建物内に居るのは拙いな。しかも何処から出したのか俺のシャツを下着の上から着ているだけだからパンツが見えているし……。


「おい、早く起きろ……」


 何時もならば辞書を頭にたたき落とすのだが、音や声で不審に思った誰かが来ても問題だからと小声で揺り動かす。だが、寝汚いこの馬鹿がそんなことで起きるはずがなかった。


「……うーん? 起きろー? 良いじゃないか、君も寝ていようぜー」


 漸く目を開けたと思えば俺を抱き寄せてまたしても眠り出す。顔が胸に押しつけられて息苦しいので暴れれば頭を解放してくれたが、まだ寝ぼけていた。


「くすぐったいなぁ、もう。はいはい、胸に息をかけないでくれよ? 代わりにチューしてやるから……」


 ええい! このまま馬鹿にされるがままではキスをされてしまう。別に嫌ではないが、されたい訳ではないのでな。それに誰か今入ってきたら……。


 俗にこれをフラグと呼ぶ。それは何故かと聞かれれば……。





「主殿ぉー!朝の散歩に行きましょ……」


 何故かというと、この様に実際に起きるからだ。まだ早いというのに元気一杯の小鈴は足音を立てずに俺の部屋の前まで来るとノックもせずにドアを開けて満面の笑みを向けてくる。まあ、家にいた時は朝夕散歩を一緒にしていたがエリアーデの護衛になってからは休日以外はしていない。



 だから一緒にいる今朝は喜び余ってやって来たのだろうが……タイミングが悪すぎた。さて、冷静に今の状況を見てみよう。俺と遥は同じベッドの中で寝転び、もがいた時に掛け布団が落ちて今の遥の姿(下着の上はシャツだけ)は丸見え。そして寝ぼけた馬鹿が今まさに俺に抱き付いてキスしようとしていた……。


「……お邪魔致しました」


「ちょっと待てー!!」


 もう騒がずに収集するのは無理だと遥を無理に引き剥がして脳天に辞書を叩きつけ、錆びた機械のような動きで去ろうとした小鈴の腕を掴むと部屋に引き入れてドアを閉める。……間に合って良かった。



「少し落ち着いて話を聞け。俺と遥は……」


「あれー? 何で小鈴が居るんだい。……三人で楽しむのかい?」


 ……最悪だ。まだ覚醒していない大馬鹿が誤解を更に重ねるような事を口にした。後で殴ろうと思いながら誤解を解くために小鈴に視線を戻すと指先を合わせてモジモジしながら顔を赤らめてチラチラ見てきている。


「……分かりました。主殿がお望みならば受け入れましょう」


「いや、待て。お前は何も分かっていない」


「で、ですが初体験はその……主殿に可愛がっていただきたいです……」


 ……頭が痛くなる。遥やらアリーゼやらエトナやら俺の周囲にはどうしてこうも……。





「ふ、服はどうなさいますか!? 自分で脱ぐのか、主殿に脱がされるのか……」


「……頼む。少し黙っていてくれ」


(こ、声を殺せということか。う、うむ。必死に耐える姿が興奮するのだろうな。矢張り主殿はSであったか……」


 この後誤解を解くのに三十分を要した。要所要所で余計なことを言ってくる遥、それを真に受けたり、俺の言葉はそういったシチュエーションを希望していると勘違いする小鈴。朝から本当に疲れた……。


 しかし、俺の周囲は本当にブレーキが壊れた奴らが多い……何故だ?







「……本当に申し訳ございませぬ。主君の意図を汲めぬとは、この小鈴一生の不覚。忍びとして未熟でした」


「誤解が解けたなら別に構わない。ほら、口元にケチャップが付いているぞ」


 何とか誤解を解いた俺は食事の時間になっても落ち込んだ様子の小鈴を慰める。流石にあの状況では誤解を受けても仕方がない。犬は結婚イコール交尾だから思考がそっちに行くだろうしな。ポンポンと頭を軽く叩いた後で口に付いたケチャップをティッシュで拭ってやる。そう、此奴は何一つ悪くない。悪いのは……。



「私も反省しているぜ?」


「お前の反省は聞き飽きた。暫くそうしていろ」


 そう、悪いのは俺の隣で正座中の遥だ。ちゃんと着替えさせた後で床に直に正座をさせている。しかも皆が食事をしている間にだ。辞書だけでは仕置きが足りんからな、いい加減。


「頼むよー。可愛い子猫ちゃん達との優雅な朝食って最高のシチュエーションなんだ…むぐっ」


「反省していないだろ、お前」


 反省の色が見られないから食事が終わるまでは正座を続行させようと決め、遥の分の朝食は俺が時折食べさせる。嫌いなものが残るようにな。好きな物を取っておく派の此奴には堪えるだろう。


「……あの、委員長。さっきから同じフォークで……」


「うん? ああ、そうか。うっかりしていたが……まあ、今更だな」


 轟が指摘したように先程から俺は遥に食べさせる時のフォークと自分が食べるフォークを使い分けていなかった。もう使ってしまったから別に構わないが……。



「ねぇねぇ、いいんちょーは今日は何して遊ぶのー? 私達とビーチバレーでもするー?」


「お誘いは有り難いが既に先約が有ってな。……此奴と一日過ごす事にしているんだ」


 そう言いながら俺は隣に座る奴を指差した。






 ~おまけ~



 小鈴との会話  下ネタ注意




「お前は勘違いしている。初めては俺と、などと言っているが誤解だ」


「ご、五回もですかっ!? い、いえ、私は主殿の忠信。その肉欲が尽きるまでこの体をお使い下さい」


「へぇ、凄いね、君。五回も擦る自信があるなんて……そういった能力を得たのかい?」


「この馬鹿は無視しろ。居ないものと扱え」


「な、成る程。安心しました」


(……何とか誤解が解けたか)


「ずっと二人っきりで可愛がって下さるのですねっ! で、では早速始めましょう。ま、先ずは前戯からですね。く、口や手や胸を使うという知識はあるのですが……」


「違う」


「……いきなり本番ですか? い、いえ、不安なだけで不平が有るわけでは……」


 この後、三十分掛けて誤解を解いた……。

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