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 俺と遥の関係は傍から見れば付き合っているように見えるらしい。実際、知り合いの多くは俺と奴が付き合っていると思い込んでいると、現実は解せない。いや、そういった話題に敏感な同級生は分かるのだが、両親や祖父母でさえそう思っている理由が分からないな。


 此処で奴と俺の日常を振り返ってみよう。まず、奴は俺の護衛ということで俺の家の客室で生活している。まず、朝だが奴は朝が弱いので俺が起こす。


「おい、起きろ」


「あ~と~五~分~」


 カーテンを開け朝日が差し込むと奴は布団に潜り込むのだが、俺は無理やり引っぺがす。ベッドから奴を持ち上げて引き離すと着替えを放り投げ、一旦退室だ。俺が居ても直ぐに着替えを始めるから油断は大敵なんだ。


「別に見られても構わないんだけどなぁ。時間の無駄だろ?」


「少しは恥じらいを持てと何度言えば……」


「君にかい? 別に君にならどこを見られても平気だぜ? ……なんならじっくり観察するかい?」


 このようなやりとりを毎朝繰り返しながら俺は遥の髪を解いてやる。寝ぼけたままだブラッシングさえもせずに居るからな、あの馬鹿は。完全無欠の美少女というならば身嗜みくらい自分でして欲しいものだが……。




「やっぱり君の方が料理が上手だね。毎日食べたいよ」


「いや、当番は守って貰うぞ? まあ、できる限り叶えてやるさ」


 うちの両親も奴の両親も組織に属しているからか家を空けることが多く、俺と遥は交代で炊事をしている。だが、朝が弱い奴のために俺が弁当の当番だ。俺は卵焼きは塩の方が好きなのだが、遥は甘いのが好きだから砂糖で味付けしたりと気を使わざるを得ない。……まあ、自分の当番の時に偶に塩で味付けした物を作ったりするから不満はないがな。


「お前は本当に美味そうに食べるな。見ていて気持ちが良いよ。ほら、俺の分も食べるか?」


「うん、食べる。あ~ん」


 遥は俺の料理を毎回褒めてくれるし、だから俺も自分より奴の好みを優先させてしまう。だからまぁまぁ、満足だ。ついつい俺が口に運ぼうと思ったメインのおかずを奴の口に運んでしまうのだ。俺もたいがい甘いな。




 学校から帰宅後、遥の制服にアイロンがけをし、洗濯やら掃除を共同で行う。付き合いが長いから細かいやり取りをしなくとも何をして欲しいか通じるのは本当に助かるよ。


「風呂沸いたぞ。先に入れ」


「いや、君が入りなよ。ああ、それとも私の残り湯を堪能したいのかい? ふふふ、仕方がないなぁ」


 呆れて物も言えないとはまさにこの事だな。さらにバスタオル姿でウロチョロしたり、俺が入っている時に水着やらバスタオル姿で入ってくるなどのおふざけも偶にするし風呂くらいゆっくり入らせて欲しい。あと、風邪を引くから直ぐにパジャマに着替えろ。




「じゃあお休み」


「ああ、お休み。……夜更かしは程々にな」


「分かってないなぁ。この時間こそ至高なんじゃないか。なんなら私の部屋で見張るかい? 同じベッドに居れば監視は楽だろうさ」


「阿呆か、貴様。いや、大馬鹿だったな」


 俺と遥の部屋は隣なので同時に自分の部屋へと入っていく。この後、予習復習や趣味に少し時間を使ってから俺は眠る。余計な邪魔が入らなければ毎日快眠だ。偶に悪戯で遥が潜り込んで来ていると朝驚くがな。



 あとは任務で一緒に戦ったり、ナンパ除けや荷物持ちでショッピングに付き合ったり遊びに行ったりなどだな。至極有り触れた幼馴染の関係だと思うのだが、どうしてこれで両思いだと錯覚するのか理解に苦しむよ。

 





「……いや、自分の姿を鏡に映してから言ったらどうなんだ?」


 以前から疑問に思っていたので焔に遥との関係を勘違いされるのが疑問だと相談して普段の様子を話した所、何故か呆れられた。いや、溜息を吐かれたが意味が分からない。


 今の俺の姿? 遥が風呂場で他の女子に粗相を働かないように正面から抱きしめて拘束しながら座っているだけだが? 安心した様子で眠っているから転げ落ちて頭を打たないように抱きしめておかないといけないのは面倒だ。それに途中で目を覚まして風呂場に行かれたら俺と焔では立ち入りができない。


「ところでエリアーデは大丈夫か? 此処は奴の別荘だし……」


「確かに心配だな。……会話だけでも聞くか?」


 俺の能力なら可能だが……流石に気まずいな。だが奴のホームグラウンドだし、事前に下調べはしたが用心を重ねる必要はある。俺は気まずそうな声で焔に訊ねる。自分の判断だけで行うのは勇気が足りないからな……。


『聴覚強化』や『遠隔性感覚器官』等の能力で風呂場の声を拾い、俺と焔にだけ聞こえるようにする。下心はないと自己弁護はさせて貰いたい。





『うわー。轟さん、お肌綺麗だねー』


『ひやっ!? 急に触らないでください……無駄な脂肪が押し付けられています』


『むむむ。田中、貴殿意外と有るのだな。って、何処を触っている!?』


『そういう小鈴ちゃんだって綺麗な形をして』


『ふふふ、こうして観察しているだけでも……』



 能力使用を中断し、互いに顔をそらす。いや、下心はなかったが……うん。非常にアレだ。凄い背徳感だな……。






「やあ。少し夜風に当たらないかい?」


 あの後、何事も無かったかの振舞った俺は遥に散々文句を言われた。折角のお風呂イベントを台無しにしたってな。あの空間にこの馬鹿を放り込まなくて本当に良かったよ。仕方がないので今度の休みに俺の奢りで映画館とランチとディナーに行く事になったのだが……当分は小遣いがやばいな。誕生日プレゼントをくれた級友達に誕生日プレゼントを買わなくてはならないというのに……。


 風呂場の事での罪悪感や懐事情の事で落ち込んでいた俺は夜中にノックもせずに入ってきた(毎度の事)遥の誘いに乗って夜の海を見に出かける事にしたが、夜釣りでもする為に釣竿を持って出れば良かったなと後悔している所だ。





「……さてと。君も座りなよ」


 周囲に光はエリアーデの別荘の明かりと懐中電灯の物だけ。夜闇の中、漆黒の海から波の満ち引きの音が聞こえてくる中、遥は岩の上に座り込むと足をブラブラさせながら自分の横を指し示す。特に文句もないので同じように座って足を投げ出すと遥は俺にもたれ掛って来た。俺の肩に頭を乗せ上機嫌に鼻歌まで歌っている。


「随分とご機嫌だな」


「君と二人っきりだからね。いや、子猫ちゃん達とお泊り会は最高だけど、君とこうして二人っきりになる時間は欲しいのさ。……そうそう。小さい頃にもこうして一緒に夜の海を見に行ったっけ。家族でキャンプに行った時」


「ああ、その日の前の日にアニメで海坊主の話を見たからいないか不安になって俺を起こして連れ出した挙句、海に落ちて俺が助ける羽目になった」


 あの時は両親に随分と怒られたな。まあ、俺達を心配しての事だが。


「あの頃、私は君が好きだったんだぜ? だから結婚するって誓約書も書かせた。まっ、今じゃ私の目標は子猫ちゃん達でハーレムを築くことだけどね」


 態々誇らしげに言うことか? 俺が呆れていると悪い物でも食べたらしく遥は少し恥ずかしそうな顔をしている。





「……でもさ、君が望むなら君もハーレムに入れてやっても良いぜ?」


「いや、望まない。それに言っておくが俺とお前がそういった仲になった場合、浮気は許さん」


「相変わらず固いなぁ。そういった所直し……いや、それでこそ君なんだろうけどさ」


 俺の言葉に遥は辟易した様子で立ち上がった。さてと、さすがに夜風に当たりすぎると体を冷やすからここ等で部屋に戻るとしよう。俺は上着を遥の肩にかけると懐中電灯で足元を照らしながら別荘への帰路に着く。






 この日の夜、俺はまたしても予知夢を見た。ただ、何時もと違って……。

伝説の爺も宜しく

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