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 どうも俺の持つ能力の中で『予知夢』だけは何とも言い難い。未だその時が来ていないだけで何時か役に立つ日が来るのだろうが、今日この時は脳が疲れるだけで役に立ちそうになかった。


『……久々の長期任務だったね。結構寂しかったぜ』


 ……うむ。またしても俺と遥が結ばれた未来か。特に相手は思い浮かばないが他の者と結ばれる未来は存在しないのか? いや、こう何度も何度も見せられると少々気まずいというか。……まさか結ばれるから予知したのではなく、予知することで生まれた意識が結婚に繋がったのでは? 


 悪夢に身を震わせるも夢は終わらない。玄関先で俺を出迎えた遥は抱き付いてキスをすると今度は腕に抱きつく。俺は鬱陶しがりもせず受け入れた様子で歩き出した。


『……君が側にいないだけで心が引き裂かれそうだったんだ。私も現場復帰しようかな?』


『お前が家を守ってくれているから俺は安心でき、無事に帰ろうという意思が生まれる。これからも頼むぞ?』


『そうかい? それはそうと食事は未だ早いし肉をオーブンで焼いているから……お風呂にしようか? それとも寝室に行くかい? 君が居なかった時間を埋め合わせしたいんだ』


 甘えるような声と表情で遥が誘ってくるのだが、俺は少し考え込むと首を左右に振った。


『いや、ソファーでお前とゆっくり話がしたい。……食事が終わったら風呂にしよう。お前が望むだけ相手をしてやる』


『……う、うん。宜しくね、旦那様』


『ああ、任せておけ。愛しい妻の為だ……それにお前に会えずに出来た渇きを潤したいのは俺もだからな』


 今度は俺が遥を抱き寄せキスをすると二人でリビングへと向かっていく。そこで今回の夢は幕を閉じた……。






「ひにゃぁああああああああっ!?」


 早朝から家に響いた絶叫によって俺は無理矢理覚醒させられる。寝不足の症状に頭が重く感じながら起き上がれば隣に遥の姿は無く、先程の声の主は間違い無く……。




「……あの馬鹿、朝から盛りおって」


 抜き足差し足忍び足、足音を消し気配を遮断して玄関に向かうと予想通りの光景が広がっていた。


「朝から私に会いに来るなんて可愛い子だ。お望み通りに可愛がってあげるよ」


「違っ…せ、拙者は主殿…ひゃんっ!? き、貴様! 何処を触って……あひゃっ!?」


 遥に捕獲されて全身をまさぐられている小鈴は悶えながら脱出しようとするも無駄に終わる。最後には遥の人差し指が小鈴の小さい唇を軽く撫でた。


「感度良好。ふふふ、何処を触って居るかって? ほら、その可愛いお口で言ってごらん。君が私に何処を触られ、てぬるばっ!?」


 油断しきった馬鹿の襟首をつかんで引き寄せ、脳天に辞書を振り下ろす。言葉の途中で珍妙な悲鳴を上げたが容赦はせず

、辞書を振り下ろした箇所に今度は拳骨を叩き付けた。


「いい加減にしろ!!」


「ぬばっ!?」


 襟首から手を離すと顔面からベシャリと床に倒れピクピクと痙攣している。毎度毎度飽きないなと呆れていると涙目の小鈴が抱き付いて来た。途中で遥の後頭部を踏み台にし勢い良く俺の胸に飛び込んでくる。


「主殿ぉーーーー!!」


「ぐはっ!?」


 忘れがちだがエリアーデは紛れもなく天才だ。その天才が自分が所属していた組織の追っ手から身を護るために作り出したメカ忍者が此奴であり、当然のようにスペックが高い。その小鈴が勢い良く飛びかかってきた結果、俺の腹に物凄い衝撃が襲い掛かる。派手にぶっ飛び天井を床に倒れて見つめる中、小鈴はポニーテールを盛大に振りながら頬を擦り寄せてきた。


「主殿主殿主殿ー! あの大馬鹿者の護衛を言いつけられ主殿の元を去った今となっては散歩の時間と就学時にご尊顔を拝謁することだけが拙者の喜び! さあ! 絶対なる忠義を誓う拙者めを存分に撫で回して……ひにゃんっ!?」


「ふふふ、油断したね。今日の私は元気一杯でしぶといのさ。おや、ここが弱いのかい? 良い顔だ。そそるね、実に。君はやはり私のハーレムメンバーに相応しい」


 何時もよりも早く復活した遥は小鈴の胸を鷲掴みにして俺から引き剥がす。ジタバタ暴れる小鈴の抵抗は一切通じず脇やらお尻やらを撫で回されて……仕方ない、助けるか。


「おい、遥。その程度で終えろ」


 何時でも振り下ろせるようにと辞書を構えるが無駄だった。色々と限界が近いのか目を回している小鈴はあっさりと解放されたのだ。


「ちぇ。分かったよ。たまには君の言うことを何でも聞く日があっても悪くないからね。……何でも言ってごらん?」


 珍しくセクハラを即時中断する遥。何か悪いものでも食べたのか? 拾い食いは駄目だと前から言っているのにしかし何でもか……ふむ。


 俺の中でフツフツと欲望が湧き上がる。何でもと此奴は口にした。ならば本当に何でもしてもらおうじゃないか。






「じゃあ風呂掃除を頼む。湯垢という湯垢を根絶やしにしてくれ。朝飯が終わったら日のある内に布団を干して庭の草むしりも頼む」


「……くっ、卑劣な。覚えていなよ」


 さて、今日は楽が出来そうだ。たまには怠惰に過ごすのも悪くはないからな。俺は悔しそうに拳を握りしめる遥から小鈴へと視線を移し、最後に玄関マットの上で倒れている汗だくのエリアーデを見る。腰には此処に来るまでの間、小鈴と繋がっていたロープが結ばれており、何があったか少し想像できる。


「小鈴、どれくらい走った?」


「真っ直ぐ向かっては距離が足りないので42・195km程ですが、普通の犬ほどの速度しか出していませんよ? 奴が貧弱すぎるのです。人間だってその程度の距離は走れるのでしょう?」


「ず、頭脳は対して考えずに作ったけど失敗だったんだね。な、何か飲み物を。味の付いた冷たい物が欲しいんだね……」


「ああ、分かった。ついでだから朝飯も食べていけ」


 さて、自家製の青汁でも持って来るか。栄養は高いが治癒崎の料理レベルのアレ、捨てるのは勿体ないからな。


「食事ですか!肉を所望します」


「私はフレンチトーストにカフェオレとツナサラダを頼むんだよ」


 小鈴にはハムかベーコン、エリアーデは……適当な物を与えるか。何時も苦労をかけられているからと雑に扱うことを決める俺。折角今日から夏休みなんだ。遊びに行く計画をしっかりと決めないとな。何人かに共同自由研究を誘われ、終了間近には追い込みの手伝いもあるだろうし、遊びに行きたいが遥へのナンパ対策も考えなくては……。


 他にもキャンプや花火、サーフィン仲間とのバーベキュー大会など予定が多いからな。更に勉学や仕事で大忙しだ。









「あっ、私の所有するプライベートビーチに皆を招待するんだね。別荘もあるし絶好の釣りスポットもあるんだよ。って言うか監視がないと遠出無理だから来て欲しいんだよ。滞在費はこっち持ちなんだね」


「フレンチトーストだな? 任せろ」


 こんな奴でも一応仲間だ。このくらいの要望に応えてやるか。








「海だーーー!!」


 っと言うわけで俺達一行は海にやってきた。絶好の行楽日和だが他の客は当然居なくて貸し切り状態。遥などセクハラも忘れてテンションを上げて飛び回っている。


「楽しいねー」


 治癒崎も同様に走り回り、二人揃って……うん、まあ眼福だと言っておこう。


「|《もげろ…千切れろ…垂れろ…削れろ》……何か?」


 俺の視線に轟は怪訝そうな顔をする。よし! 先程の呪詛の言葉は空耳だな、うん!さて、焔は……ついでに呼んだ田中と一緒か。




「海の来るのって久し振りだね。ねぇ、新しい水着なんだけど……似合うかな?」


「ん? じm……お前らしくて似合っているぞ」


 二人で砂浜での砂遊びか。砂山にトンネルを作り、両側から掘り進めた二人の手が触れたようだ。
















「アレをリア充というのか?」


 全く仲の良いことだ。付き合ってしまえば良いものを……。男女問わず友人は多いが恋人は居ないからな、俺は。よし、心の中で叫んでみるか。リア充爆発しろ、とな。













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