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夜闇に覆われた森の中、キィキィと耳障りな鳴き声を上げながら化け者共が駆ける。枯れ枝を踏みつけ、突き出した枝枝に体を打ち付けても止まらないその矮躯は醜悪。
「……同情はします。でも、容赦はしません」
極度の栄養失調を思わせるガリガリの肉体に突き出た腹、鉛色の皮膚を突き破るようにして生えた二本の角。地獄絵に登場する『餓鬼』です。只、地獄から舞い戻った訳ではなく存在が始まった瞬間から満たされることのない飢えと渇きに苦しむ定めの哀れな者達……らしいです。
お腹が減るのは辛いことです。とっても辛いことです。とってもとっても辛いことです。……帰ったら何を食べましょうか? 確かカップ麺の類も冷凍食品の類も食べていて、朝ご飯の食パン一斤とウィンナー三袋とキャベツ二玉しか残ってないから登校中に昼ご飯としてコンビニ弁当を買い占める予定でした……。
「……滅する」
ああ、化け物が憎い。私から全部奪ったお前達が憎い。急な任務の原因になって私を苦しめるお前達を絶対に許してなるものか。私はかつて無いほどの怒りに身を震わせながら刀の柄を握り締める。餓鬼共を見据え、一瞬で決めるために能力を発動する瞬間、真横を通り過ぎた影の主の放った手裏剣が一匹の後頭部に突き刺さった。
「次っ!」
一匹がやられても動きを止めない。仲間意識など欠片も無い化け物らしい行動ですね。ですが、私ほどの体格の持ち主が餓鬼の間を通り過ぎ、その首が宙を舞うと同時に動きを止める。
「此処のターゲットは全て撃破……主殿に褒めて頂けるな」
目を輝かせながらグッと拳を握り締める彼女、小鈴と名付けられたロボット(ロマンです.凄く興味深い)は誇らしげに笑みを浮かべ、ポニーテールが犬の尻尾の様に揺れていますが、犬そのものですね。
そんな風に考えていた私に顔を向けた途端にキラキラと輝かせていた瞳が冷たい物に変わる。まるで委員長が女子生徒を口説く時の神野さんに向ける目のようです。
「何を立ち尽くしているのです、役に立たなかったチビ。主殿に連絡をなさい」
「……大して変わりませんよ? 視力に何か欠陥があるのでは? このポンコツ」
……この女、嫌いです。
「結構な数がそっちに逃げたのに早かったな」
連絡を入れて向かった合流場所へと向かい、委員長の姿が見えた瞬間に私の隣を不機嫌そうな顔で歩いていた彼女の姿が消え、委員長の前に跪いています。今の動き、餓鬼を退治する時よりも速かったですね……。
「主殿。この小鈴、ご命令に従い全ての餓鬼を退治して参りましたっ! 忍びにとっての最上の喜びは主君の役に立つ事。此度の働きも喜んで頂けたのならば幸いでございます」
非常に仰々しい言い方ですが、声は弾み髪は盛大にブンブン横に動いています。本当に犬のよう……いえ、確かエリアーデさんは犬の魂を元に思考回路を作ったと言っていましたね。
上下関係が絶対の犬を元にした為か一度主と決めた相手への忠義は絶対で、彼女の行動原理は主の役に立ちたい、褒められたい、相手をされたい。飼い主に懐きまくりの構ってワンコとの事です。あの人、そんなロボットを態々同年代の少女の姿にしたって……まさか神野さんの同類でしょうか?
……鬼瓦ロボといい家といい、変な風に日本が好きなだけですよね? 取りあえず近付かないようにしましょう。
「……うん、よくやったな」
「ははっ!」
委員長、褒めてはいるけど少し引いていますね。まあ、唯の機械じゃなくって魂を入れてあるという事や人間にしか見えないからでしょうが。プログラムで動くのなら兎も角、この時代にあんな時代劇のような真似を実際にされたら私でも引きます。
ですが本人はそんな様子など欠片もなく感極まった表情。口元も緩んでしますし、周囲への警戒も疎かです。ええ、だから何も言わないでおきましょう。
「ふふふ。つーかまえたっ!」
「ひきゃんっ!?」
背後から忍び寄った神野さんが小鈴の胸を鷲掴みにし揉む。少し布に余裕があるから分かりにくいですが、こうしてみると彼女はそれなりに胸があって……やはりあの人は嫌いです。凄く嫌いです。
「にゃ、にゃにをするかっ!!」
「恥ずかしがって可愛いなあ。ほら、私の胸に飛び込んで……」
胸を庇う様に腕で押さえながら飛びのいた小鈴は顔を真っ赤に染めて声が上擦っていて、堂々とセクハラをした神野さんはそんな彼女を楽しそうに見ています。ええ、また言いますが私は何も言いません。
「何をやっているっ!!」
「どばっ!?」
背後から委員長が辞書を脳天目がけて振り下ろせば神野さんは相変わらず美少女台無しの声を上げて倒れこみました。……ざまぁ。無駄に胸に肉があるからバランスが悪いんですよ。
「酷いなぁ。軽いスキンシップじゃないか」
「酷いのはお前の思考回路だ、馬鹿者」
前から思っていたのですが、レベルの高さのお陰で体も頑丈なのにただの辞書でどうしてダメージを? 腕力を上げたり勢いを付けても紙製品には変わりないのに……。
「あ、主殿ぉ~」
この数日間で神野さんがすっかり苦手になったのか、小鈴は涙目で委員長の背後に隠れています。臆病な犬が飼い主の背後に隠れながらほかの犬を見ているようで……少しだけ可愛いです。
「あー、よしよし、遥も性根が腐っているけど悪い奴ではないんだ」
「酷い言い方だねっ!? 君、私のことが嫌いになったのかい?」
「何を馬鹿な。俺がお前を嫌いになると本当に思うのか?」
委員長は慰める為か小鈴の頭を数回撫でると彼女は気持ちよさそうな顔になる。ついつい私も手を伸ばしますが、その途端に手で払われました。
「馴れ馴れしい。貴様、何をするか」
あっ、やっぱり犬です。飼い主にはデレデレでも他の人物には凶暴な犬って居ますよね。
「まったく無礼な奴だ。主殿、宜しければもう少し頭をですね……」
上目遣いで続きを期待する小鈴ですが委員長はクルリと背中を向けました。まあ、同年代の少女にしか見ない相手の頭をなで続けるとか抵抗が有りますよね。神野さんとはイチャイチャ……いえ、少し過剰な幼馴染としての、ええ、幼馴染としてのスキンシップをしていますが。
「さて、そろそろ帰るか」
「主殿ぉ!?」
流石委員長委。問題児の世話に慣れているから見事なスルーです。私も見習いたいですし、もう少し委員長の近くに居る時間を増やしましょう。ええ、他意はありません。
「主殿。拙者がお茶を淹れて参りましたっ!」
「……あーうん。頂こう」
昼休みになり私は委員長と(ついでに神野さんとエリアーデ)昼食を食べる事にしたのですが、お弁当を開いた途端に淹れ立てのお茶が差し出される。彼女、学校には来るなと言われていたのですが……。
「忍びたる者、何時如何なる時でもお傍にお仕えする物。隠形は得意ですので大丈夫ですっ!」
との事です。まあ、私も先程まで存在に気付きませんでしたし、一般人に発見されないので大丈夫でしょうが……。
「おい、バ科学者。此奴のスペックは実際どんなのだ?」
「馬鹿とは酷いんだねっ!? 私が作った子だし、凄いんだよ? 肉体はほぼ人間と同じで妊娠は無理だけど性交は可能。くノ一なら色仕掛けは必須だろうからだねっ!」
確かに凄いですが、エリアーデの頭は酷いです。当の本人は真っ赤になって固まっていますし、神野さんは再び隙を狙っていますが委員長が間に入って邪魔します。
……しかし神野さんは話を聞かないで口説いてくる鬱陶しさはありますが直接的なセクハラをする人ではないのですが……。ああ、アリーゼも口説きながらも敵として攻撃を仕掛けていますよね。
「ああ、本当なら私の護衛にする予定だったのに。主従認識の書き換えは無理なんだよ」
肩を落とすエリアーデですが、ああ、この人って一応組織を裏切ってこっちに着いたのでしたね。
「おい、小鈴。頼みがあるんだが……」
「頼みなどと、主殿はただ命令すれば宜しいのですっ! 暗殺でもよ…夜伽でもご命令とあらば……」
最後は声が小さくなっていますが覚悟を決めた様子。エリアーデなど”データを取りたいから撮影してくれたら嬉しいんだよっ!”、などと宣っています。
「お前は俺をどんな目で見ているんだ?」
本当にどんな目で見られているんですね? 委員長は誠実で真面目で面倒見が良い好意的な人です。
「そうだぜ? 彼は命令で夜伽をさせたりはしない。命令されたら私に言ってくれたまえ。どうせなら三人で……」
この人は本当にグイグイと来ますね。もしかして邪魔しています? いえ、意識して邪魔している様子はないのですが……。
「この馬鹿は極力スルーしろ。俺が頼みたいのはエリアーデの護衛だ。住み込みでな」
「……はっ。この小鈴、主殿のご命令ならば」
苦汁を噛み締めた顔で頭を下げて跪きますが、その頭に委員長の手が優しく置かれます。
「悪いな。お前の事はこの短期間で信頼している。だからお前のメンテナンスや修理が可能なエリアーデを死なす訳にはいかないんだ」
「あ、主殿ぉ~!!」
感涙しながら委員長に飛び掛かる小鈴。二人の間に神野さんが割り込んで正面から鷲掴みにした。
「ひきゃぁああああああっ!?」
「うーん。良い声。やっぱり君は……あっ」
響き渡った悲鳴を満足そうに聞きながら手に残った感触を堪能する神野さん。その脳天に辞書が振り下ろされました。「うんうん。何も問題ないんだねっ! 流石は私の作った存在なんだよっ!」
専用のレーダーで小鈴の体を検査した私は何一つ問題がないという当然の結果に満足する。ロボとと言っても人工臓器に人工筋肉、犬の魂を改造した人造魂魄など、天才である私でなければ実現不可な絵空事の存在が確かに目の前に居る。
「終わったか。なら邪魔だから早く其処を退け。台から降りられぬではないか」
……なのに、なのにどうして主のインプットが委員長君なんだねっ!? もったいぶってないで早く私が起動させていれば私の忠実な部下が完成してあれやこれやと研究が捗った筈なんだよ。今も私に鬱陶しそうな視線を向けているし、本当に運命はままならないものだよね……。
「しかし意外なんだよ。まさか夜伽と聞いただけで動揺するんなんてさ」
「貴様はやはり阿呆だな。私は女としてではなく、忍びとして主殿の傍にお仕えしている。お望みなら兎も角、草の者が自ら身を捧げたいなどと口にするなど恥と知れっ!」
うーん。委員長君を誘惑させて色々とサンプルを得る為に性交を可能にしたし、誘惑の成功率を上げる為に知識のインプットと肉体年齢の操作を与えたんだけど、性格設定を間違ったかな? 今は十六くらいの設定だけど、その気になれば±十歳の変化が可能だから成功率は高いはずなんだけどね。
「あっ、遥ちゃんだよ」
「ひっ!?」
こんな場所に居る筈がないのに彼女の名前を聞いた途端に小鈴は胸を守るように抱き締めて飛び跳ねる。冷や汗をダラダラ流し小刻みに体が震えているけどどれだけトラウマなんだいっ!? 天井に足の指の力だけで張り付いて怯えながらキョロキョロしている姿は少し愉快だったよ。居ないと分かった瞬間に私の腕を捻り上げたけどね。
「凄く痛いんだよっ!?」
「当たり前だ、痛くしなければ無駄だと分からないのか、大馬鹿者が」
「その大馬鹿者に作られたのは君なんだよっ!? それに私が創造主なんだから神として崇めるべきでなんだよっ!?」
「はっ!」
鼻で笑ったよ、このロボットっ!
「大馬鹿者でも奇跡的に私の様な存在を作り出せる。それに貴様が神? 人が神になれるものか。主殿を実験に使いたいなどと企む貴様に払う敬意など皆無に決まっておろう」
随分と辛辣なんだねっ!? でも、君は知らないんだね。君の目で捉えた物と耳で捉えた音は送信されて私のパソコンに記録されていることをねっ! さて、後でこっそり観察なんだよ。
「ふふふふ。忍びたる者、こうして主君のお傍に陰ながら居続けるもの」
画面を付けると天井に張り付いて委員長君の部屋を見下ろす映像が流れる。……ストーカーではないんだね、うん。きっと犬が飼い主の外出について行きたくて悲しそうな声で鳴いたり、忠義がおかしい方向に振り切れているとかそっちなんだよ。
「ふぅ。今日も疲れ……」
風呂上がりの委員長君が寝るのか部屋に入ってきて、天井を見るなり固まる。頭痛を堪えるかのようにこめかみに指先を当て、何を思ったのかカーテンと窓を開けると小鈴の真下にやって来て両腕を伸ばす。これはハグっ!? まさか既にヤッてたのかねっ!?
「ほら、来い」
「は、はいっ!」
これは間違いないんだよっ! 小鈴は委員長君の胸目掛けて飛び付き、私は固唾を飲んで展開を見守る。・性癖なども研究の参考になるからねっ!
「はい、キャッチ」
……あれ? 脇に手を当てて小鈴を抱きとめた彼はそのまま体を回転させて……見てた私が酔いだした瞬間、委員長君は窓目掛けて小鈴を放り投げた。
「&リリースっ! 寝室に忍び込むなと何度言わせるっ!」
「主殿ぉ~っ!!」
過ぎに空中で一回転し、屋根に飛び乗った小鈴は窓から入ろうとするが鍵を掛けられカーテンを閉められる。あっ、泣き出した。
「……グスっ」
膝を抱えて涙ぐむ小鈴。その背後から窓が開く音がして委員長君が指先で肩を叩いて振り向かせると入れとジェスチャーで示す。やれやれ、随分と甘いんだよ。
「主殿っ!」
咄嗟に抱き着こうとしたのを身を翻して躱した委員長君は背後から肩を掴んで動きを止め、そのまま押すようにして部屋から追い出した。
「出ていけ」
「お、お待ちくださいっ! 拙者は忍びとして主君のお傍に……ひぇっ!?」
背後から聞こえてきた足音に気付いたのだろうね。小鈴が恐る恐る振り向くと風呂上りの遥ちゃんがパジャマ姿で立っていたんだよ。うん、同性の私から見ても凄い色気だよ。こんなのが近くにいるなら下手な色仕掛けは通用しないんだろうね。
「恥ずかしがらなくても良いさ。私に身を委ねなよ、小鈴。あっ、懐かしい物が出てきたんだけど遊ぼうぜ」
遥ちゃんが差し出したのは旧型の携帯ゲーム機。しかも二台。同じ色だけど、片方はどうしたんだろうね?
「別に構わないが……泣くなよ? 壊れたと思って新しいのを買ったら電池の向きが逆だった時や負けた時にピーピー泣いてたからな、お前は」
「う、五月蠅いよ! 何時の話だよ、全くさ……」
ふてくされた彼女の顔なんて珍しいんだね。家では気が抜けるということか……良い情報が手に入ったんだよ。そんな風に思いながらも私は小鈴の視線に注目する。ゲーム機と委員長君に向けているし、一緒に遊びたいけど忍びの誇りが許さないんだね。まあ、彼に恋する乙女でもないし、その辺は本人の問題なんだよ。
「じゃあ俺の部屋でやろう。おい、お前も遊ぶか? っというか参加しろ。俺と組んでこの馬鹿を倒すぞ」
「ふぇ? で、ですが忍びが主君と共に遊戯に興じるなど不敬では……」
……あー、少し駄目だよ、君。願望と責務を天秤に掛けて願望を選べない者は何も手に入らない。この世は好き勝手した者の勝ちなんだよ。実際、断るときの小鈴の声には元気が無いんだね。
「別に俺が良いと言っている。俺は自分のが有るから遥のを……触るのも嫌か。よし。俺のを使え」
「は、はい! 御意に御座います!」
声が弾んでいるし、多分尻尾代わりのポニーテールは盛大に振られているんだね。今度、感情や思考を計測する風にしてみるんだね。先程追い出される時と同様に方に手を置かれて小鈴は室内に戻る。最後に遥ちゃんが入って当然のようにベッドに座っている委員長君の背後に寝転がった。体を斜めにしているし、アレじゃあ小鈴が彼の隣に座れないじゃないか。
「……拙者は床で」
椅子があるのに敢えて床に座る小鈴。ただし場所は委員長君の足の隣に座りベッドに背を預けてだったよ。少しでも近くにいたいんだね。視線は膝の上に注がれてるけど。
「……そう言えば主殿。本体が三台有るのは分かりますが、ソフトが三つ有るのは何故でしょう?」
「遥が俺が持ってたのをやりたがっていたから誕生日にヌイグルミと一緒に中古の箱と説明書無しをやったんだが、俺と遊びたいって同じソフトを親に買って貰ってたんだ」
実に残念だと思うよ。それなら親に別の物を買って貰えば良かったのにね。それが普通の想いだと思うんだよ。だけど遥ちゃんの想いは別だったんだね。
「アレは失敗だったよ。君に無駄な出費をさせて悪かったね。今更だけどお詫びに胸でも揉むかい?」
「揉まん」
自分のではなく相手の損失を悔やむとか意味不明なんだね。天才の私じゃ常じ……変人の思考回路は理解不能だね。
あっ、小鈴が自分の胸と遥ちゃんの胸を見比べて何やら呟いてる。ボリュームアップだね。音って意味で。あの体は私が計算した黄金比率だから弄らないんだよ。
「……普段から奴に揉まれているし、揉み心地が良いのなら是非主殿に堪能して頂くように提案を……いや、無理だ。命じられたならこの身をお捧げしますが……」
真面目ってのも考え物だよ。世の中不真面目不道徳が一番なんだやっぱりねっ!
「あー! まーたー負ーけーたー!」
遥ちゃんは手足をバタバタと動かし喚き立てる。まあ対戦ゲームで二人相手に攻められたら負けるんだね。私なら速攻で作ったチートプログラムを組み込むけど、戦闘力だけの彼女じゃね。
「っていうか能力使っているだろうっ!? 少なくても五個はっ!」
「いや、三個だ。『思考高速化』『高速動作』『器用上昇』」
「卑怯にも程があるっ! もう私は寝るっ! お休みっ!!」
拗ねちゃった遥ちゃんは布団を頭から被る。此処は自分の部屋だからって委員長君が引き剥がそうとするけど、遉はレベルⅩ、凄い力だ。諦めたのか委員長君はベッドから降りて小鈴の横に座り込んだ。
「一緒に追い出すのですか?」
「いや? もう少し相手をしろ。その内機嫌が直るだろう」
「はっ!」
追い出すって時に明らかに期待した声だったけど、窓をチラチラ見てるってことは窓から放り出す気だったんだね。怖い怖い。下手したら私も……。
二人は肩を並べて携帯ゲームに興じる。時々小鈴の鼻歌が聞こえるし、流石は私の作品だね。感情が此処まで発展してるなんてね。
「……おい。俺の命令など聞かなくて良いぞ。いや、お前がそういう風に作られているというのは分かっているし、俺が起動させてしまったのだから放り出しはしないが……」
「ええ、確かにそれはありますが……この短期間で主殿の人柄が分かりました。やや厳しい方ですし、私の行き過ぎた行動には辛辣ですが、それでもお傍に居たいと思います」
「……そうか」
委員長君はそのままゲームの操作を続け、そろそろ時間かと遥ちゃんの顔を覗き込むと熟睡してる。
「主殿、辞書をどうぞ」
「いや、流石にこの程度では……」
小鈴が委員長君に恭しく辞書を差し出すけど委員長は手で制し、乱れた布団を掛け直そうとした手を遥ちゃんが掴んだ。あっ、寝ぼけてるし離さない。
「主殿、辞書を」
「……いや、別に良い。寝てるだけで殴るのもな」
委員長君は溜息を吐くとベッド端に座り込む。どうやら起きるまで傍に居る気のようだね。小鈴は二人の顔を交互に見やり、最後に握られた手に視線を向ける。
「では拙者は待機させて戴きます。主殿、お休みなさいませ」
「ああ、お休み」
小鈴は部屋から出ていき……光学迷彩で姿を消して窓の外から中の様子を窺っていた。
「まったくお前は何時も何時も……俺も寝るとしよう。もうお前が傍で寝ていようが気にしない事にした」
委員長君は呆れたように呟くと遥ちゃんをベッドの隅に移動させて布団を被る。やがて寝息を立てだした頃に部屋に戻った小鈴は布団をきちんとかけ、部屋の明かりを消すと部屋から出て行った。
「……なんであの二人は付き合っていないのでしょうか? 拙者でも理解不能です」
本当にねっ!
「まあ、今回は結構なデータを取れたし、今後の改造計画も完璧なんだね。なはははははっ!!」
今後の事を考えると楽しくなってくる。思わず高笑いをしていた私は背後から忍び寄る陰に気付かなかった。センサーとか仕掛けてあったんだけどね……。
「ほぅ。貴様、私を通して主殿を見張っていたのか……覚悟は出来ているな? 成敗っ!!」
あっ、私終わったんだね。頭上高く振り上げられた辞書を見ながら私はそんな事を思っていた……。
「おい、エトナは何処に行った?」
「旦那の所に行くってさー。それよりその首から下げてるのって……いや、良い。何にも訊かないでおくよ」
「ん? 何も無いなら別に構わないが……本当か? このアクセサリーについて何かないのか?」
「あーあー! 聞ーこーえーなーいー!」
次は七時




