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メインに少しでも来たらと宣伝用の掲載です
諸君らは『事実は小説より奇なり』という言葉を聞いたことは有るだろうか? 俺もその言葉を聞いたことは有っても、小説でのみ起こるような摩訶不思議な体験や悲惨な光景を目の当たりにすることは依然としてなかった。
時代が進むと共に今まで創作物でしか見聞きしなかったような悲惨な事件や事故、災害をニュースで知ることもあったが、画面の向こう、何処か別の世界での出来事のように愚かにも感じていた。実際に血や涙を流している人が存在するにも関わらずだ。
閑話休題、俺の幼馴染について語らせて貰おう。今回の話に大きく関わる存在だからだ。まぁ、なんだ。根は悪い奴じゃないんだ……多分。
部屋中に美少女のフィギュアを飾り、百合と言うのか? 女子同士の恋愛や情交を描いた漫画や小説を多く収集していても、其れは個人の嗜好の範囲内、俺は差別するつもりは毛頭ない。俺に何度も勧めてきさえしなければな!
奴とは家が隣で親どころか祖父母の頃からの友人関係。当然俺達も親と共に互いの家を行き来して遊んだものだ。うん。あの頃は奴も部屋から出ていた。そう、あの頃は、ということは今は出ていない。引き籠りなんだ。
言っておくが甘えているだけだと決して言う気はない。引き籠るには引き籠るだけの理由が有るだろうし、其れからどうするかが問題だからだ。奴の場合、クラスメイトに告白して玉砕したのが理由だ。見た目が悪いのかと落ち込んでいたが、まぁ贔屓目に見なくても悪い見た目ではない、とだけは言っておいてやった。実際、美少……悪寒がしたのでこれ以上は口にさせないでほしい。
「ならば、何故振られたか? 相手の趣味嗜好性癖がお前とは違ったのだろうが……流石に女性専用車両で告白するのはどうかと思うぞ?」
「いや、読んだ漫画ではあの方法で……それにほかの車両に呼び出すにしても、男は嫌いだし近付きたくもないんだ。あっ、君は別だよ? 父さんとお爺ちゃんも」
「誰が電車内で告白自体は問題ないと言った? お前の頭に詰まっているのはカニミソか?」
この会話を聞いた時点で分かるだろうが大馬鹿者だ。昔から世話を焼かされ、此奴の世話係だと周囲から認識されたのは業腹ものだな。流石にこの理由から高校は別だったのは幸いだが。小学生の頃からクラス委員長を任されて来ているのに、高校でまで馬鹿の相手などさせられてたまるものか。
同じ高校に誘われたが、馬鹿か、とだけ言っておいた。何故通えると思うのだ。
さて、そんな理由で引き籠った幼馴染……名前を遥と言うのだが、夏休みのある日、不意に俺に頼み事をしてきた。ライブに行きたいから同行してほしい、とのことだ。馬鹿だが妙なところで頭が働く遥は株で儲けているらしく、ネットオークションで既に二枚のチケットを手に入れたからとな。
……ああ、お人よしと笑わば笑え。仕方ないから興味もないバンドのライブに同行してやったさ。外に出た時点で震えて手を伸ばして来たので仕方なく握ってやったが、世話の焼ける奴だ。その道中、乗っていたバスに隕石が衝突して俺達は死んだ……のだったが。
「やあ! 今日も天気だね、子猫ちゃん達!」
神様転生、というジャンルが有るらしい。俺は読んだことはないが話には聞いたので知識は有る。もっとも、俺達が会った神と名乗る存在は次元の違う存在で、一方的に娯楽で転生させると言って来たがな。まぁ神話を紐解けば神などそういった存在だろう。
向かった世界は遥の奴に勧められたが合わなかった少年漫画の世界。在り来たりな現代退魔物だ。実は悪魔だか妖怪だかみたいな問題が実在し、ある日巻き込まれて異能力に目覚めた高校生が多くのヒロインに囲まれながら急成長を遂げて行くという凡庸な内容だ。尚、ヒロインの百合百合しいシーンが好きだが主人公は居ないほうが良い、など本末転倒な話をされたが、主人公が居なければ話が成立しないだろうに……。
なお、特典は勝手に頭の中を読んで決められた。
朝、クラス委員長(またしてもさせられた。しかも俺を除く全員の投票でだ)の仕事で向かった職員室からクラスに戻った俺の目の前で馬鹿がまたしてもクラスメイトの中でも人気が高い三人を口説いていた。
おい、呆れ顔なのに気付け。人が良いから本音を口にできないだけで嫌がっているんだぞ。
「おい、いい加減にしろよ。毎朝毎朝」
「なんだい? これは私と彼女達のスキンシップだ。関係ない男が入って来るのはやめてくれたまえ」
いや、彼女達と主人公(と聞いた)が話をしているのに割り込んだのはお前だからな? 頭痛を感じながらも俺は遥の後ろに気配を殺して歩み寄り、襟首を掴んで引き離した。
「むぅ、君も毎朝邪魔をするな。……嫉妬かい? モブ達と君は違うと思ったのだが」
「気色の悪いことを言うな。……馬鹿が邪魔したな」
「何時も大変ね、委員長」
「ありがとー、いいんちょー」
「ご苦労様です、委員長」
「苦労するな、委員長」
こうして不満そうな馬鹿を力付くで連れて行っても誰も気にも留めない、いや、毎日ご苦労だとか有り難うだとか言われる始末。ヒロイン三人(平凡・小柄・文系)と主人公も最後に俺が止めるのが日常と認識していた。……この世界でも俺は遥の幼馴染……として認識されている。俺達がこの世界に来た時、すでに高校入学前だった。前世とこの世界での記憶を持った状態でな。
ああ、見た目は二人とも同じだ。まったく別の容姿になるのは気持ち悪くて嫌だったらしい。遥が望んだ特典の一つだ。家族も変更点は有れど前世のまま。其れだけでなく病気で死んだ祖父母を病気でなく元気な状態にしているところからすると前世になんの未練もないわけでもないのだろう。それは良い。俺も其処は有難いのだが……。
一つ聞かせてくれ。俺の幼馴染が踏台転生者で辛いのだがどうすべきだろうか?
二次小説とやらで踏台転生者の存在を知っているのなら、自分の行動もそれと何故分からない? もしや思考を操作されているのかとさえ思ったが、指摘しても自分と奴らとでは決定的な違いがあると笑うばかり。いや、確かに決定的と言えば決定的だが……。
振られた理由、その決定的な部分だと思うぞ? 引き籠った理由だから口にはしないが……。
そうそう、この世界がどういった世界かは言ったな。そう、化け物や異能力が存在する世界。遥は知り得る限りの最強の特典を能力として貰った。使いこなす才能や外出や戦いに耐えられる精神力と共にな。
俺は戦いたくはなかったが、戦わなければならないと言われ、無事に全うできる生涯と共に『平均的な能力』を貰った。無事に生き残れるならば、目立つ力は前線に出されるのがこういった世界の常だろうからな。
「酷いな、君も。何のために男が居る高校に入ったと思っているんだい? 彼女達と触れ合うためさ!」
「態々ポーズを付けて叫ぶな、馬鹿者。……それより今夜だが任務だ」
此奴が願った家族の変更点。それは主人公も所属する、化け物と戦うための組織が有るんだが、其処の関係者なんだ。家族に怖がられるのが嫌だったのだろう。臆病なんだ。其れが分かって居るから戦いに耐えられる精神や、前世の家族をコピーして、など願ったのだろうな。連れてきて、じゃないところには感心してやる。
「只今帰りました、父さん」
「うむ。では早速今日の特訓といこう。お前は誰よりも特訓が必要だ。どのような場面でも活躍できるが故にな」
さて、この世界の異能力について解説しよう。ほぼ全員が何らかの能力を秘めて居るが目覚めさせずに終わるのが普通だ。才能有る者が生存本能によって固有の能力を目覚めさせる。『空間凍結』や『炎放出』、遥の奴は神話や伝承に存在する武具防具を呼び出し十全に扱う能力を貰っていたな。
尚、能力にはレベルがあり、元々のレベルの差で同じような能力でも差があるし、目覚めた才有る者の中でも特に才能有る者が死に物狂いの特訓をして上がるかどうか、らしい。十段階で実戦部隊の平均はⅢ。主人公は『炎神』、同じレベルの炎系能力よりも強力な炎を操る上に最初から実戦部隊レベルのⅢらしい。なお、全五巻の中、短期間でレベルⅩにまで上がるらしい。遥は生まれ付きレベルⅩだ。
……俺か? 俺は平均的と言っただろう? レベルⅢだよ。……『万能』、のな。あの神、誰が全ての能力を平均的に使えるようにと願った!? 全部の能力が使えるから格上とも相性の良い能力で戦えるし、おかげで支部の教官になっていた父から期待されるだの、新人である主人公や馬鹿のお守りをするに十分と組織から思われるだの沢山だ!
全五巻と書いたが、俺達の冒険はこれからだ、とか、行方不明の主人公の父親がラスボスで今から対決!、だのといったエンドでも、俺はまだ生き残ってるぜ主人公、と悪役が復活フラグを立てるという終わり方でもない。打ち切りだがフラグは全て回収した大団円エンドだ。
なんやかんやあって悪に落ちた能力持ちが色々過去を持つ部下を集め自然発生する化け物を支配して様々な方法で世界を滅亡させようとしたが、幹部を主人公が倒したり、ヒロインになったり、実は幹部の一人が主人公の兄で主人公を庇って死んだり、味方が相打ちになったり、とかで解決した。最後は唐突に表れた大いなる存在が主人公に力を貸し、ビックリな力で実は悪霊だったラスボスの魂を浄化したが凄かったな。
ああ、辛かった。遥が主人公の足を引っ張って追い落とそうとしてしたり、ヒロインとフラグを立てようとして知っているはずの無いことをなぜ知っていると怪しまれたり、自分がオリ主なんだってキレたり。
全部鎮圧して問題は最小に抑えたがなっ!
そして巨悪は倒したがまだ雑魚は存在するので組織は残るのだが、遥の奴は組織を辞めた。能力は高いが性格に難があるし、其処まで強力な力だから問題児なところには目を瞑るしかない程に必要な敵は居ないからと、な。
この日、大勢に囲まれて遥は幸せそうに笑っている。色々とトラブルを起こした主人公やヒロイン達に祝福されながらな。
「私、綺麗かな?」
「ああ、相も変わらずな」
結婚式当日、俺は《《花嫁姿》》の《《彼女》》に笑い掛ける。どうやら同性愛者で男嫌いの遥だが、俺に対しては本当に別だったようだ。これからも苦労しそうだが、今までの延長線だと思えばどうにかなる。何せ前世からの付き合いだからな。
振られたからと自棄酒に付き合わされ、酒の勢いでねじ伏せられた、とか、急にベタベタ甘えてくるようになって不気味がったら怒りのままに押し倒された、とかは記憶にない。まぁ、嫌いではないし、ズルズルと関係を重ねるよりはと俺から結婚を申し込んだわけだ。
「あっ、どうぞどうぞ」
結婚の挨拶をしにいった時の反応が軽かった......。うん、予想はしていたが軽かった......。
「式が終わったらホテルに直行しよう。......今夜は寝かせないよ? 君の要望と私の要望、交互に楽しもうじゃないか」
一つ聞かせてくれ。踏台転生者だった幼馴染が嫁になったら愛しすぎて辛いのだがどうすべきだろうか?
……爆発しろ? いや、自爆系の能力は存在しないらしく使えないんだ。しかし、何故爆発なんだ?
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