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第8話 正しい星のこわしかた

「……我は夢でも見ているのか……? こんな小さな人間の子供に……為す術がないだと……?」


 そう言って『バルログ』はしばらくの間、放心状態で立ち尽くしたかと思うと……また再び目に闘志を宿し始めた。


「たとえ貴様が我より強かろうとも……我は持てる全てを貴様にぶつけるだけだ……!」


 『バルログ』は再度左手に力を込めて、手からの閃光で地面を照らし始めた。

「おいおい、まだやんのか……呆れるぜ。分かった、今度こそ完全無防備だ。武器も使わないから飽きるまで好きにやってくれ」


 俺は右手に掴んでいたブラックジャックを分体に戻し服に吸収させた。

 その後に俺は手を腰に当てて呆れたような表情を見せながら、相手の左手のひらにまっすぐ正対するようにただ立ち尽くしてみせた。


「ほら、来いよ」

 俺は見下すような笑みを浮かべ、片手で指をクイクイっと引き挑発を重ねた。


 ――『バルログ』は俺の挑発に目もくれず、黙り込んだままなおも地面に閃光を当て続け、再び鉄隕石を地上に露出させ始めていた。

 ……今度は一つじゃない、次々と地面に真っ黒で艶のある鉄隕石が顔を見せ始める。

 パッと見ただけでも既に5つか6つはある。隕石いっぱい落ちすぎだろこの森。


「――はぁあああ!!」


 そんな魔物の叫び声が聞こえると、いくつかの鉄隕石は地面をメキメキと割り出し、20センチメートルから1メートルくらいの固まりとしてどんどん空中に浮かんでいく。

 ……そして、左手のひら高さまで来たものから次々と俺の方向まで勢いよく射出された――。


 『バギッ、バギッ!』

 そんな連続した音を出しながら鉄隕石は続々と俺の身体にぶつかって砂になっていった。

 その度に砂塵が舞い上がっていく……俺の足元には砂の山が後方に向かって放射線状に広がっている。


 前方の地面からは鉄隕石が次から次へと産み出されていく。


 相手は俺が鉄隕石の投石に全くダメージを受けていないのは既に分かりきっているはずだが、それでもこの魔法を緩めるつもりは全くないらしい。

 ――足元の砂の山はどんどん積もっていき、俺の足が少し埋もれ始めていた。


「いつまでやるんだよ……!」


 俺は少し飽き始めていた……。

 ――と、その時!


「はぁあああ!!」

 『バルログ』はそう叫びながら左肩に刺さっていたエルの剣の半身を右手で勢いよく引き抜いて、左手の閃光の投射上に投げ入れた――その瞬間に剣の刃が俺に向かって爆発的なスピードで向かってきた。

 それは俺の目線の高さを維持したまま、俺に刃先を向けてまっすぐに飛び込んでくる――。


 『ガキンッ』――!

 その剣の半身は俺の右目の眼球に直撃した!

 エル曰くアダマンチウム製のその剣は、俺の眼球に向かってバキバキと大仰な音を立てながら慣性に従い最後の尾っぽの部分まで突撃する。――剣は小さな金属片にその身を変えながら先頭から次々と砕け散っていった。

 ……が、やっぱりというか……俺は全く、痛くもかゆくも……何も感じもしなかった。

 俺の眼球は全くの無傷だ。この間にまばたきすらしていない。

 ……まだ『蚊』でも目に飛び込んできたほうが痛かっただろう。


「――なに!? 我の身体を引き裂いた剛剣を……! 眼球で受け止めた……だと…………!」


 『バルログ』はさっきよりもさらに驚いたような表情をしていた。

 何気に後ろにいたエルたちからは俺が眼球で受け止めたシーンは見えなかっただろうから親切に解説してくれて助かる。


「ゴホ……なんだって!? オレのアダマンチウム製の剣を眼球で……? 『バルログ』の魔力も乗っているのに……!? もう凄いなんて言葉で装飾しきれないぞ……! ロウラン……君はいったい……!」


 エルもそろそろ褒め疲れてきたんじゃないか?

 俺も恥ずかし疲れ(・・)てきたよ……。

 相手も驚き疲れているはずだ。

 そんで挑発疲れ(・・)てきた俺も……もうちょっとだけ頑張ってはみるけど、さすがにもう早く終わってほしい。


「もしかしていまのが奥の手だったか? ……大量の鉄隕石でカモフラージュをしていたようだが、不意を突いて意味があるのは『有効な攻撃』だけだ。いまのじゃ決め手に欠け過ぎて話にならないね」


 そろそろ『バルログ』も絶対、心折れてるよね?

 もう終わりにしようよ……。

 脱兎の如く逃げたり、降伏して捕虜になったりと、色々その身を転身させる道筋があるだろ。

 俺は最初から敵に向かってわざわざ逃げるように促しているつもりなんだが……。

 『脚本家』兼、『映画監督』の俺としちゃ心の中で何回カチンコ(・・・・)を鳴らしていたかもう数え切れないぞ。


「う……うぉおおおお!!」


 『バルログ』はやっぱり攻撃を続ける気らしく、こちらに勢いよく向かってきた。

 ……こうなればとことん付き合おう。

 議論と一緒だ。両方とも負けを認めない状態だと絶対に話が終わらない。

 眠くなったりお腹が減ったりして議論を中断する理由ができない限りは……。


 『バルログ』は俺との距離5メートルにまで近づいた瞬間に足元にあった石を蹴り上げた。

 魔力とやらが込められているのか、俺の顔に当たった瞬間に『バキンッ』と金属音がしたが、俺は無傷。

 そのまま俺の目の前まで近づいて、圧倒的な身長差から俺をその足で踏みつけてきたりしたが、俺は無傷。


「ぐ、ぐぁああああ!」

 ――どうやら、俺を頭から踏みつけた時に、俺の首から上の部分で足の甲を突き破ってしまったようだ。

 悲鳴のような声と表情から察するにめちゃくちゃ痛いのだろう。

 ……ちなみに、足の甲を突き破った瞬間、こいつの足の断面図が見えてしまった……。めっちゃキモかった……。


「はぁ……! ……あぁあああああ!!」

 気合いを入れ直すと、その足の傷はすぐに修復した。

 そして今度は攻撃方法を殴打に切り替えて、俺の顔を両手の拳で連続して殴り始めた。


 『バギッ!バギッ!』と殴る度に水の混じったような打突音が聞こえるが、これは俺に当たった瞬間にその拳が砕ける音だ。

 俺を殴っては拳を壊してもう片方の拳で殴る……その間に壊した拳を治してから入れ替えるように殴ってまた治して……。

 そんな不毛な行為を延々と繰り返していた。

 いつまでやるんだよ……。


 俺はとことん付き合うつもりではいたが、同じ攻撃ばかりでは飽きてしまう。

 一旦、仕切り直させよう……。


 俺は大きく息を吸い込み、延々と殴打の行為を繰り返す『バルログ』の身体に向かって『プッ!』と息を吹きかけた。


 ――その瞬間、まるで台風のエネルギーを凝縮して一瞬で全て放出したかのような、ブロック状の空気が相手の身体を押し飛ばした。

「な――ッ!」


 大気の集団が揃って突撃し、巨体を森の向こう側へと吹き飛ばしていく……。

 『バルログ』はその重そうな身体を空中でぐるぐると回転させて吹き飛ばされていった。

 しかし、ものの20メートル程度で着地し、そのまま地面に長いブレーキ痕をつけて静止した。


 『バルログ』はハァハァと息も絶え絶えで片膝をついていた。

 ……ん? よく見ると片手にさっきのデカい大剣を握っている……。

 まさかあの速度で吹き飛んでいる時に地面に落ちていた大剣を回収していたのか。

 なんて器用な奴だ。そこは素直に尊敬する。


「はぁ……はぁ……『タングオブファイア』……! 我が両腕を食い荒らし、更なる血と魔力を求めよ……!」


 『バルログ』は大剣を両手で握り、その大剣を上空に掲げた――。


 すると、大剣の鍔から数十本もの鞭ようなものが飛び出していき、根元は鍔に繋がったままピンと外側へと張り出していく。

 そしてそれぞれの鞭は蛇のような見た目に徐々に変わっていき、大剣を持っている『バルログ』の両手首から両腕の上腕部にかけて次々に巻き付いていく。

 数十匹の蛇はその身体で両腕とも全て埋め尽くしたあと、次々と口から鋭利な牙を剥き出しにして腕の表面を噛み千切り、『バルログ』の血をごくごく飲み始めた。


 ……うーん、このシーンはやっぱりグロい。


「『魔力剪伐(せんばつ)』によって極限化された我が魔力を汲み上げよ……! 魔具としての能力を際涯(さいがい)なく発露し、矮小な人間どもへ供覧せよ……!」


 そう言って大剣からエンジンがかかり始めたかと思った瞬間、刃全体からほとばしるように炎を一気に吐き出し始めた。

 大剣の刃からゴオゴオと燃え上がる炎はまるでガス噴射でもしてるかのごとく全方向へ吐出していた。

 刃からは止めどなくゼリー状の赤い液体がドクドクと生産され続けており、溢れた水のように下に垂れては地面をまぶしく燃やしている。


「……また、あの(はた)迷惑な武器か……」


「うぉおおおお!!!」


 『バルログ』はこちらに向かって横一線に大剣で薙ぎ払った。

 ――刃先から出た大量の赤い液体は、薙ぎ払った時の遠心力に従ってそのまま俺たちのほうに襲いかかってきた。


 これはマズい。俺だけじゃなくてこれだとエルたちにも赤い液体がかかってしまう……。

「『ケアリングウェア』! 分体を飛ばして後ろにいる彼らを守れ!」


 ケアリングウェアは俺の命令通りに衣服からゴムボール状の分体を作って後ろに射出した。

 分体はエルたちの数メートル手前に到着すると、その身体を巨人の姿――『ウィッカーマン』に姿を変えた。


 ……『炎』、『巨人』って連想から、なんとなく『ウィッカーマン』をイメージしてしまった。

 しかし、よく考えたら本来は逆だよな……。

 『ウィッカーマン』は炎から人間を守る側じゃなくて炎で人間を焼き殺す側だし……。


「なんだ……この巨人は……?」

「これもあの子の魔法なんかな?」

「それにしても……人間よりも遥かに大きな巨人を造れるなんて……なんて魔力量なの……!」


 で、そうこうしている間にもう、敵の出した赤い液体が俺の目の前だ――。

 この攻撃も俺の身体に直接かかってもどうということはないだろう。

 ただ、液体をかけられるのはどちらかというと嫌いなほうなので、俺はケアリングウェアの一部を『盾』に変えて身を守った。

 盾というと普通は中世の西洋剣士が使いそうな『バックラー』等をイメージするが、とりあえず俺は攻撃まではするつもりがないので防御力重視で大きな『スクトゥム』の形にさせている。


 『ビチャ……ビチャ……』前方2メートル、俺の身体を覆うようにして空中に静止している3つの盾からは液体のぶつかる音が聞こえてきた。

 もしかしたら盾の一部は燃えてしまうかなとも思っていたが、盾はそのまま何事もなく普通のゼリーのように地面に受け流した。

 そして、地面に落ちた瞬間にそのゼリーは勢いよく燃えだした……。


 分体で作った巨人のほうも同様で、エルたちの代わりに自身の身体いっぱいに赤い液体を受けてはいたが全く燃える様子はなかった。

 そのまま地面に受け流して地面の草をゴオゴオと燃やさせていた。


 『ウィッカーマン』のくせに全然燃えない……めっちゃ燃えそうな見た目をしているので違和感が凄い。

 ……なんにせよ、これで分かった。あの気持ち悪い武器でさえ現実世界の物には全く効かないということが。


「うぉおお!!」

 ――さすがに『バルログ』はもう驚かなくなっていたのか、俺に攻撃が効かないことを見越して既に向かってきていた。

 本気で走ってきているようで、めっちゃ速い。険しい顔には表情筋の筋が浮き出ていて、めっちゃキモい。


 ――俺が用意した盾を避けて一気に目の前まで迫ってきた。

 『バルログ』の身長は5メートルほどあるため、威圧感が生半可ではない。

 昼頃で太陽はほぼ真上に近い場所にあるにも関わらず、身長差があまりにも大きいので俺の身体に対して影を作っていた。


 目の前に到着した瞬間に両手に持っていたその大剣を、まるで斧で薪を割るかのよう俺に向かって振り下ろした――。


 『ガキンッ!!』と、大きな金属音がして大剣は静止した。

 ――俺は左手の人差し指を横に立てて大剣を防いでいた。一度やってみたかったんだ。こういうスーパーヒーローみたいな映画のワンシーンを。

 でも、人差し指で大剣を受け止めた瞬間に、剣にまとわりついていたゼリー状の赤い液体全ては慣性に従って俺の身体を覆うようにして一気に降りかかった……。

 そして俺の身体をほぼ全部びしょびしょにした。

 予想以上に凄い量だ。めちゃくちゃ気持ち悪い。


 当然、俺の身体が燃えることはなかった。そのまま地面に受け流して、初めて燃え上がったのは地面に落ちてからだった。

 でも、ヌルヌルする感触が身体中にまとわりついて本当に気持ち悪い……。これ、洗ってタオルで拭いてもまだ残っているやつだ……。

 俺の自慢の『長い髪』にも満遍なくかけてきやがって……!


「うぉおおおお!!!」

 ――『バルログ』は興奮状態にあるらしく、生身の俺にすら赤い液体が効いていないことに対して戸惑うそぶりをせずに攻撃を続けた。

 何度も続けて剣を振り上げては振り落とし、幾度も幾度も俺を攻撃し続けていた。

 何度かは盾を新たに作って防御していたが、一度身体がずぶ濡れになり俺もやる気がなくなってしまったのか、俺はたまに身体への直撃を許しては更なる赤い液体のおかわりを素直に浴びていた。


 ……ふと、周りを見ると、地面に受け流していた赤い液体が相当量落ちていたせいか、森中の木を全部燃やさんとばかりにどんどん火の手をあげていた。

「アチチ……! ロウラン! すまない、赤い液体を避けてはいたがついに取り囲まれてしまった……!」

「熱いニャー!」


 ……さすがの『ウィッカーマン』でも飛び回る赤い液体から彼らを守り切るには難しいか。

 ケアリングウェアの分体は俺が直接コントロールしなければパターン化された単純な命令しか実行できない。

 そのため、臨機応変に赤い液体を取り避けて彼らの逃げ道を確保するといったソリューション展開はできないようだ。

 でも、直接命令して赤い液体を取り除いてもまたジリ貧で同じことの繰り返しになるな……。

 じゃあまたあれ(・・)をするか。


「お前のその武器、やっぱり面倒くせーな……。それ、もらっておくぞ」

 俺は片手のひらを空中に掲げた。


「いでよ、本!」――『バルログ』から大剣を取り上げるために、俺は分体でA1サイズの超大判の本を作った。

 ……なんで本の形にしたかというと、他に思いつかなかったからだ。

 『物を挟む』で、パッと思い浮かんだのがこれだったのである。


 ちなみに本の表紙には『ネクロノミコン』と書いてある。

 中身については、俺は当然読んだことがないので全ページ白紙にした。


「ほい」俺は『バルログ』が振りかぶった大剣に対して、空中を浮遊しているA1判の本の見開きで受け止めた。

 そして、その状態で本を閉じて大剣を強く挟み込み、そのまま取り上げようとした。


「うぉおお、おおおお!」

 ――本は大剣をぐいぐいと引っ張り続けた。しかし大剣を引っ張れば、そのまま『バルログ』も引っ張られてしまうため中々取り上げることができないようだ……。

 『バルログ』は地面に対してブレーキ痕のごとく、両足のかかとで長い線を作っている。


「言っとくけど、俺はお前から取り上げるまでは『絶対に』大剣を離さないからな。今のうちに素直に手放しとけよ」

「……それはできぬ……! 『タングオブファイア』は我がこの世に生を受けた時より供にある半身だ……! 『絶対に』離すことはできない……!」

「あ、そう……。じゃあ、どっちの『絶対に』が勝つと思う……?」


 俺はさらにケアリングウェアの分体を追加した。

 今度は『猫の手』だ。いま借りたいからね。

 猫の手にはもちろんぷにぷにの肉球があり、もふもふの毛で覆われている。はぁ……癒される……。

 爪はちゃんと爪切りで切ったように短くしてる。俺は爪にはあまり癒されないのだ。


 猫の手だけが空中に浮遊しているとちょっと気持ち悪いので俺のケアリングウェアの本体である服から腕を伸ばすようにして繋がっている。

 でも腕が長くなりすぎてそれはそれで少し気持ち悪いかも。


「ケアリングウェア(猫)、大剣を取り上げたいからちょっとあいつの胸の辺りを押さえてて」

 ケアリングウェアは『バルログ』のみぞおち(・・・・)から鎖骨の辺りまでを猫の手でガシッと押さえつけた。

 ちなみにこの猫の手は1メートルくらいある。


「よし、いまだケアリングウェア(本)! 大剣を取り上げろ!」

 相手の胸部を押さえつけた状態のままA1判の本でぐいぐいと引っ張っていく。

「うぉおおおお、ああああああ!!!」

 『バルログ』は激痛を感じているのだろうか、苦悶の表情を浮かべて叫びながら口から唾を飛ばしている。

 すると次第に『ブチッ……ブチッ……』と何かが千切れる音がする。

 おそらくあの両腕に絡みついている大量の蛇みたいなやつが千切れる音だろう。


「オーケイ! そのまま引っ張り上げろ!」

 『ブチッブチブチッブチブチブチッ……』千切れる音が大きく、頻度も多くなっていく……。

「あぁああああああ!!!」

 『ブチンッ』という大きな音が2回鳴り、『バルログ』から大剣を取り上げることに成功した!


 ……と、ふと取り上げた大剣を見やると、蛇と一緒に腕がくっついていた……。

 どうやら、『ブチブチ』と千切れていたのは蛇のほうじゃなくて腕のほうだったらしい。

 そっちが千切れるのかよ!!


「うぅぅ……うぉおお……!」

 『バルログ』は腕を無くした両肩から大量の黒褐色の血液が流れ出ている。

 心臓の鼓動と呼応するように約1秒ごとに大量の血液を噴射していた。


 取り上げた大剣を見ると大量に生えている蛇が絶叫を上げながら暴れていた。

 全ての蛇は噛んでいた腕を口から離し、両腕を地面へそのまま無遠慮に落としていった。そして蛇はしばらくすると死んだようにしおれていく……。

 すると、森中から『シュワア』と炭酸が抜けるような音が聞こえ、赤い液体と炎は全て消えていった。

 それと同時に俺の身体中にまとわりついていた赤いベタベタも綺麗さっぱり消えて無くなった。


「ふぅ……綺麗さっぱりのパサパサの髪の毛が戻ってきたぜ」

 俺は両手で自分の髪をかき上げて相手に余裕を見せる。『挑発』に『長髪』をかけているのだ。

 ……あ、やべ、くだらねーわ。死にたい。


 『バルログ』は両肩から流れる血がだんだんと止まり始めており、傷を治している最中のようだ。

 少し俯いた姿勢となり身体の修復に努めている。

 ……そろそろ諦めてもらう頃合いかな。


 俺は『ウィッカーマン』以外の分体を全て服に取り込んでから『バルログ』に向かって口を開いた。


「『バルログ』……お前はもしかしたら結構強いほうなのかもしれないが、さらに強い俺がここにいたのが運の尽きだったな……。お前は俺を倒したいだろうが……」俺はそう言って地面を指差し、上目遣いで相手を見て台詞を続けた。「この星、200個破壊できる? 無理でしょ? じゃあ、絶対に俺には勝てない……!」


 この星『アスタロイド』の重さは200グラムで、俺の体重が40キログラムなので実に『200倍』もの質量差がある。

 だから、少なくともこの星を破壊できるような力でないと俺には傷一つつけることはできないだろう。


 すると……『バルログ』は意外にも勝ち気のある声色で「ククク……」と静かに笑い出した。

「……いま、この星を破壊できるか、と言ったか……? ククク……それが可能だと言ったらどうする……?」


 は? おいおい、星に住む1個の生物が星を破壊できるわけないだろう。

 ……しかし、ここは魔法の世界だから割と何でもありなのか……?


「いやいや、無理でしょ? そんなことができるならとっくにお前はやっているはずだ」

「……いまから我が使おうとしている攻撃魔法は……我の持つ全ての魔力、そして全ての生命力を必要とするもの。使えば必ずこの身を滅ぼしてしまうだろう……だからこそ今まで使わなかった……。我はあくまで『第一目標』として貴様を倒し、五体満足のまま人間を滅ぼしたかった……。同胞たちへの弔いをしたかったのだ……」


 そう言うと『バルログ』は身体に力を込めているような険しい表情をし始めると、両肩が風船のように膨らんだ。

 そして『バシュン!』という音ともに『バルログ』の両手は一気に再生した。

 便利な身体だな……。


 どうやら、次がとっておきの本当に最後の攻撃らしい。……一応警戒はしておこう。

 だが俺の『第一目標』はあくまで『バルログ』を殺さずに逃がして帰すことだ。

 ……俺は殺すという行為があまり好きじゃない。『蚊』に血を吸われたって俺はすぐに叩いたりせず、『蚊』が満足して自然と身体から離れるのを待つタイプなんだ……。


「『バルログ』……先に言っておこう。お前に俺を倒すことは絶対にできない。諦めて帰ってくれ……!」

「帰れだと? それは決してできない……貴様ら人間が我の暮らしそのものを破壊したからだ……! 我に必要なのは同胞たちのみ……。我が同胞……『ハイオーク』たちは……()い奴たちであった……。いまの我には2つの道しかない。貴様ら人間を滅ぼす道、さもなくば死への道……! そもそも我には帰る場所などこの世界にはもう無いのだ……。我の帰る場所は、いま同胞たちのいる冥府の世界だけだ」


 『バルログ』は『第一目標』とやらを諦めて、刺し違えてでも俺を倒しきる『第二目標』に切り替えたようだ……。

 俺もバルログを生かして帰すのが『第一目標』だったが、この場を鎮めるための『第二目標』として『バルログ』を倒さなければならないだろう……。


 悲しいよ。一番目の目標をお互いとも決して達成できないなんてさ。

 二番目の目標をぶつけ合ってようやく片方の願いが叶うかもしれない、なんてさ。

 限られた範囲、限られた奴らだけの狭い世界の話なのに、なんで一番目の目標は誰も叶えられないんだろう。

 一番目の目標は自分勝手な、愚かで可愛い『妄想』……。そんな『妄想』は絶対に叶えられないように世の中はできているのかな。


「分かった……そこまで言うのならお前の最後の攻撃魔法とやらを受けよう……。ただし、俺を倒せなかったその時は、お前に死んでもらう……! ……いいな?」

「ああ……。だが、いまから放つ我の攻撃魔法に無傷でいられるかな……? 我が魔力、生命力……その全てを注ぐ『超級魔法』だ……。貴様の言う、『この星を破壊する攻撃』と成り得るのかもしれんぞ……?」


 『バルログ』はそう言うと両腕をクロスさせ、何やら力を込め始めた……。


「『超級魔法』だって……!? 伝説級の魔法じゃないか……!」

「おとぎ話にある、世界を一度滅ぼしたというあの魔法なの……!」

「めっちゃスケールのでかい話になってるやん……!」

「ラニもドキドキしてきたニャ!」


 お前らめっちゃ能天気やん。俺の真剣な台詞ちゃんと聞いてた?


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