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第6話 炎と森のカーニバル

 エルの言っていた通り、その『赤い液体』は触れるものをどんどん燃やしていく。

 そして、それは『ハイオーク』の死体にまで届いた――。

 液体は死体に次々と火を付け徐々にその全身を燃やしていった。


「同胞たちよ……我が送ろう。古き身体を捨て冥府の窓を叩け……。そして、つい(・・)の世界でまた相まみえようぞ……」

 『バルログ』は空を見上げ、左手で作ったこぶしを心臓の位置に置いてそう言った。


「――凍え砕けろや! 『上級氷撃魔法(ザミエルザーチ)』!」

 突然、風を切るかのようにラチャの叫び声が聞こえた。


 ――次の瞬間、『バルログ』の周囲10メートルほどの空間が一気に白く染め上がり、硬い金属が擦れ合うような爆発音が聞こえた。

 その爆発には特徴があり、拡散するような外側への方向ではなく『逆』に、内側へ飛び込んでくるものだった。

 どこからともなく現れた無数のいびつな形をした巨大なロックアイスの全てが『バルログ』めがけて凝固する。

 そして魔法が終わった後の爆心地は、固く圧縮された氷の固まりが高さ2メートル程度でポツンと存在しているだけだった。


 『バルログ』は直前まで空を見上げて目を瞑っていた。

 とても防御や回避ができるような状態には見えなかったし、あまりにも一瞬の攻撃だった。――これはさすがに倒せたのではないか?


「やったで! エル! ウチが使える数少ない『上級魔法』や……。これはどう見ても倒せたやろ!」

「いや、ラチャ……。まだ『赤い液体』が消えていない」明るい口調で喋るラチャとは対照的に、エルの返答はとても暗いものだった。「あの大剣は術者の血と魔力を触媒に赤い液体を吐き出す魔道具だ。だから『バルログ』が死ねばあれは消えるはずなんだ!」


「あの状態でまだ生きているというの……?」

「しぶとい奴だニャ!」

「ラチャ、『上級魔法』はあと何回使えるんだ!?」

「あと1回だけなら使えるで……。ただしディアナから魔力供給を受ける必要がある。そうやって初めて放てる2発目が最後。3発目はさすがに無理や。エル、それでいけそうか?」

「賭けるしかない……あと、オレに考えがある」


 エルたちの声は聞こえるが、相変わらずこちらからは姿が見えない。

 赤い液体を避けてさらに奥へ移動しているようだ。

 そういえば、なぜ声がよく聞こえるんだろう……これも現実世界の身体を持っている俺の力か。言うなれば千里耳かな。どうせなら千里眼も欲しかった……。


 ――と、そう思っていると妙な音が聞こえた。カリッという音だ。その音のする方向を見ると『バルログ』を封じ込めていた氷の固まりにヒビが入り始めている。

 ヒビが入る度にカリカリカリと音が大きくなり、やがて卵から雛が孵るかのように天井部分に穴が開き、『バルログ』の身体の一部分のようなものが見え始めた……。


「ヤバい! やっぱりあいつ生きてたんや! すまんディアナ、魔力供給を急いでや! このままやとみんな死んでまうで!」

「いま最高出力で供給してるよ! このままのペースならあとどれくらいで使えそう!?」

「ああ……あと、もうちょいや…………もうちょいなんや…………」


 ラチャたちが慌ただしくしている間に、『バルログ』はガリガリと周りの氷を破壊し続けている。

 やがて、大剣を持っている右腕が自由に動かせるようになると、その大剣を軽そうに一振りして『バルログ』は自身の前方にある氷を完全に破壊してみせた。


「クソ……! もう出てきよったわ……!」


 『バルログ』は前方に少し歩き出すと首をコキコキと鳴らしていた。歩き出した前方は俺のいる方向ではないためこちらから顔は見えない。

 ……そして、数秒立ち止まったと思えば、ゆっくりとラチャたちがいる方向に振り向き始めた……。…………俺のいる場所からも見えたそこには、涙を流して泣いている『バルログ』の顔があった……。


「お……なんやその顔は。お前泣いてるんか? ウチの上級魔法が効いたんやな……!」

 ラチャは勝気な台詞を言ってはいるが、声はややうわずっていた。


「効いた……だと? 勘違いをするな……。我は貴様の魔法に一切のダメージを受けていない。……氷撃魔法を受ける少し前から死んだ同胞たちと会話をしていたのだ。氷に閉じ込められている間にも我はずっと同胞たちと会話し、(いた)んでいた……」

「会話ぁ? ……死んだ奴と、会話なんかできるわけないやろ…………」

「死者だろうと何だろうとその魂と強い結びつきがあれば可能だ……。貴様にはいないようだがな……」

「アホさらせ! 気分悪い奴やな……! ウチの上級魔法が効かないワケないやろ! ……もうええで、ディアナ。魔力は十分にもらったわ!」


 ……どうやらラチャはもう一度魔法を使うようだ。

 先ほどよりも強力な一撃なのだろうか、使う前から森中が震えている……。


「愚かな……。か細い魔力をいくらかき集めても我に一切のダメージを与えることはできない……」

 『バルログ』はゆっくりと左手を上げて手のひらを木々の中にいるであろうラチャのほうに向けた。


「言ったな……! じゃあ受けて見せろや! ……焼き千切れろ!! 『上級雷撃魔法(グラマヴォーイ)』!!」


 ――その瞬間、大量のフラッシュを向けられたかのように視界が真っ白になり、一瞬遅れてから破れるような轟音が森中に響き渡った。

 魔法はすぐには終わらず、バリバリとがなり立てる轟音を出しながらラチャのいる方向から『バルログ』めがけて連続した雷が次々に照射されていく。

 まるで遠くの夜空で落ちるような太く大きな雷が目の前で何度も再現されているようだった。そしてそれらはどんどん力強く、間隔が短くなっていく……!


 ……しばらくして、さっきまでの攻撃魔法よりも遥かに長い時間をかけた雷の魔法がようやく終わったようだ……。

 かなり長かった。1分くらいだろうか……?


 ふと、『バルログ』のほうを見やると、まだ雷の魔法の白煙が残っているようで姿がまだ完全には確認できない状態だった。


「……間違いなくウチの人生の中で最大の攻撃魔法やった……。いくらなんでもこれで倒せたやろ……!」

 ラチャはハァハァと息も絶え絶えな様子で、心身ともに限界まで出し切ったようだった。

 やがて、白煙が薄くなり敵の姿が確認できるようになった……。


「…………アホな……まだ……アカンのか……?」

 ――『バルログ』はなおも先ほどと同じように左手のひらを向けて平然と立っていた。

 ……ラチャの魔法は『バルログ』の涙を乾かせた程度で、肝心の身体には一切のダメージを与えることはできていないようだった……。


「やはり、か細い……。貴様の『人生の中で最大』がそれか……? ずいぶんと浅い人生だ……あまりにも惰弱(だじゃく)な生き物だ……!」

 そう呟くと、その顔に憎悪を焼き付けたような表情を貼り付け、侮蔑をきわめた目でラチャを見下ろした。


「もういい……。いま、ここで死ね――」


 ――『バルログ』がラチャに向かって歩き出したその瞬間、頭上から現れる影があった。

 その影は『バルログ』の左肩に向かって飛び降りたかと思うと、足で最初に着地しようとせず、両手に持っていた剣に全体重をかけてそのまま左肩へ覆い被さる……!

 ――エルだ!


 『ザクッ』という音が大きく響いて、エルの剣は『バルログ』の左肩に深々と突き刺さった。

 突き刺した剣に遅れて、エルの両足は対象の左肩にゆっくりと着地した。

 ラチャの攻撃魔法に傷一つ付くことがなかった『バルログ』の身体は、その左肩に剣による刺傷を許した恰好だ。

 そして3分の2ほど刺さってある剣と皮膚の境目からは胃潰瘍の患者が吐血したかのような黒褐色の血液がたらたらと流れ出ていた。


 エルは『これでどうだ』と言わんばかりの表情で、いまなおも剣に力を込めている……しかし…………。


「ほう、悪辣(あくらつ)な男だ……。仲間の攻撃魔法が失敗すると見越して事前に木へと登っていたか……」

 『バルログ』はエルに顔を向け平然とした口調で語りかけた。まるで自身の左肩に痛みを感じていないかのように。


「馬鹿な……! ……剣は肺にまで届いているんだぞ! なんともないのか……? それに、剣が……抜けない……!」

 エルは両手で剣を動かそうとしているようだが、いつの間にか刺さっている剣は前後左右どころか上下にもピクリと動かなくなっている……。

 その左肩にはまるで全身から筋肉を集めているかのように波打った筋繊維が隆起しており、剣の周りを固く絞り込んでいた。

 流れ出ていた血液もいまはピタリと止まっている。


「狙いは良い。我の死角から飛び移り、肩部のうち骨の無い僧帽筋(そうぼうきん)上部に剣を刺し込んで内臓を狙ったのは正解だ。だが……」そう言うと『バルログ』は不敵な笑みをわずかに浮かべ、顔の向きをゆっくり正面に戻し始めた。「相手が我でなければな……!」


 その直後、『ガズンッ』という音が鳴り響いた――『バルログ』が左手の甲でエルの身体を吹き飛ばす音だ。

 左肩に刺さってある剣はそのままに、エルの身体は後方の地面へと叩き落とされた。

 叩き落とされたあとのエルは、すぐに力なく起き上がると、脱力した表情で『バルログ』を見つめる。


「左肩を刺されているにも関わらず、左手で裏拳を入れるなんて……。肩から剣を刺され内臓を損傷しているにも関わらず、ものともしていないとは……。は……はは……強すぎる……」


 エルは後方に倒れたため、背中を向けていた『バルログ』であったが、エルが喋り終わったあとにゆっくりとエルの方向へと身体を向け始めた。

「……我に少しでもダメージを与えられたと期待したか? 悪いな……貴様の攻撃には露程もダメージを受けていない……我は身体の傷を内外問わずに全て修復できる……」


 『バルログ』はそう言うと、エルの方向に向けたままの顔を勢いよく左肩の方向にスイングした。

 左肩にあるエルの剣は『バルログ』の側頭部に生えているヤギのような巻き角に接触した瞬間、突き刺さった半身を残したままカランと軽い音を立ててガラスの棒のように折れ飛んだ。


「なに! アダマンチウム製の剣だぞ! それすら簡単に折るとは……!」

 脱力した表情を残したまま、エルは自身の剣が簡単に折れたことに驚きを隠せないようだった。


 ……アダマンチウム製って、『ウルヴァリン』の爪と同じ素材か?

 『ウルヴァリン』の爪があんなに簡単に折れるわけねーよ。どうせ偽物だろ?


「我が身体に傷をつけたのは『タングオブファイア』以外では初めてだ。この肩にある剣の半身はこの国の人間どもを皆殺しにするまでこのままにしておいてやろう……。同胞たちの苦しみ、痛み、嘆きをわずかにでもこの身に……臥薪嘗胆(がしんしょうたん)の思いで復讐を果たすためにな……」


 エルはそんな魔物の言う台詞を聞いたあと、もう諦めてしまったかのようにがっくりと肩を落とし、据わった首も力なく落として静かにうなだれていた。

 ……そんな状態が数秒続いて、誰もが万策を尽きたように諦めた状態でも……やがて、一つだけ騒々しく場違いな声色が聞こえてきた。『奇声』とも言うべきか、文字通り奇妙な声を出しながらエルと同じコースで降り立つ影が出現した――


「ウニャニャニャニャーーーー!!」

 ラニだ! いや、絶対にお前じゃ無理だろ。


 『バルログ』はそんな声の持ち主たるラニには一瞥もくれず左手を上空に掲げ、その手を使ってノールックでラニの袈裟を流れるように掴んだ。そのまま勢いを殺さず肩を支点に弧を描きながらまるでソフトボールを投げるかのようにラニを前方にあるエルの近くの木へと投げつけた。


 ラニは木に背中を勢いよくぶつけ、「ウニャア……」と呟きながらずるずると地面に向かって服を木の側面に引っかけながら落ちていく。

 これで4人全員が戦闘不能か……。ディアナはラチャに魔力を供給していることでしか戦闘に参加できていなかったから徹頭徹尾サポート系なんだろう。いまさら後ろに回って十字架ナイフの暗殺攻撃! ……はできないだろうしな。

 ラチャは魔力切れ、エルはもう見る限り戦意を喪失しているしラニも同じだ。

 ……この『中世ファンタジー映画』はここで幕引きかな。本当の『映画』とは違って、オチがしっかりしていて観客を楽しませる『脚本』があるわけではないようだ。

 ここまでの演出は良くできていて面白くはあったが……。敵と味方の戦力差が圧倒的な作品ほどげんなりするものはない。どうやって逆転するのだろう、というワクワク感が生まれるためにはちょうどいいパワーバランスというものが必要だからだ。


 そんな圧倒的な力を持っている『バルログ』は恨み節の表情を顔に貼り付け、エルをずっと睨んでいた。


「聞いたぞ……同胞たちから。貴様が一番多くの同胞の命を奪ったとな……。我は決して貴様を許さん……」

 『バルログ』はエルのほうへつかつかと歩き出すと、地面に落ちてあった小石を足で蹴り、『バシッ』とエルの額に直撃させた。

「――――っ!」

 エルは声にならない悲鳴をあげて、苦痛の表情を浮かべた。

 当たった石は小さなものであるし割と常識的なスピードであったように感じたが、それでもエルは異常に痛がっている。

 この現象も魔力付与されたとか何かの不思議パワーで実現しているのだろうか。

 

 仰向けに倒れ込む形になったエルの腹に『バルログ』はゆっくりと足を乗せた。普通に踏むと簡単に潰してしまうからだろうか、ただふわりと乗せるだけに留まっていた。

「……一滴、魔大剣の赤い雫をくれてやる。徐々に焼かれる身体を見て己の罪深さを悔いるがいい」


 『バルログ』はそう言い終わると、右手にずっと持っていた燃えている大剣をゆっくりとエルの胸部に傾け、一滴だけ赤い液体を垂らした。

 エルが装備している金属の鎧に『ポトッ』と落ちた、その一滴の赤い液体は金属の上に落ちたにもかかわらずゴオゴオと静かに燃え始め、徐々に、徐々に……その範囲を拡大していった……。

 それを確認すると『バルログ』はエルへの視線を外さないまま数メートル後方へと下がっていく。


「……なんて、熱いんだ……! オレは……ここで死ぬのか……?」

いまわのきわ(・・・・・・)に己の罪深さを悔いるがいい……」


 金属が酸化反応を示しているのか、燃えているエルの鎧から火花が散り始めた。

 ……すると、ラチャたちがいた木々のほうから誰かが飛び出してきた。


「いやあああ! エル! 死なないで! お願い! 許してええ!」――ディアナだ。

「駄目だ、ここで死ね。貴様らの罪を許す理由はどこにもありはしない……。罪が消えることは永遠にないのだ。せめて死で償え……!」


 まあ、そりゃそうだろうな。この魔物にとっては人間に仲間を皆殺しにされた故の正当なる復讐だ。許す理由はないだろう。


 ……この映画にタイトルをつけるとしたら『炎と森のカーニバル』といったところかな。

 最初に放った燃える赤い液体はなおも森中を駆け巡っていて木々を次々と焼いている。

 昼間であるにも関わらず――煙が太陽の光を遮り赤い炎が大きな光源となっているからであろうか――森中がまるで夕焼けのような色で染められている。


 そうそう、このままだとこの『バルログ』が主人公で、人間相手に無双する映画になりそうだが、人間の活躍しない映画は観客に受けるんだろうか?

 もし観客がオークたちだったとするなら大ウケ間違いなしなんだろうけどな。

 『バルログ』はオークたちのために立ち上がっているんだ。ただ無秩序に人間と戦っているわけではない。


 ……そうやってこの世界を映画にたとえてしまうと、俺がいまいるこの状況にはある名前がつけられる。それは『第四の壁』。俺はいまその狭間にいる。


 『第四の壁』とは映画と現実世界の間にあるスクリーンそのもののことで、普通の人間はそれを乗り越えてフィクションの世界に行くことは永遠にできない。

 しかし、ここ『アスタロイド』は魔法もあれば魔物もいる中世ファンタジー映画のような世界であるにも関わらず、アーティファクトとして物理的に構成されている存在であるためにやろうと思えば俺は普通に彼らに干渉することができるだろう。

 いま、俺がなかなか助けに入ろうとしないのは映画のように流れるこの展開に自分という存在を押し込んでフィクションをつまらない作品にしたくないからだ。

 だって、圧倒的につまらないだろう? 現実世界の人間は。

 たしかに俺は『フェムト』と比べると破壊的で支配的な力があって、おそらくこの事態を自分の思う通りにどうにでも転がせられるだろう。俺の身体はこの星の『200倍』の質量を持っているからだ。

 だが、その力が強ければ強いほど、究極的には『脚本家』そのものになる。他の人が作った面白い映画を観たいのに、自分で映画を作って観るのが自分だけ……それって楽しいのか?


「エル、エル……あ……ああ……」

「この男をじっくり焼き溶かしたあとは、残った貴様ら3人の番だ。いまのうちに自らの省察(せいさつ)に努めるがいい……」


 ……だったら観客としてキャラクターのトークを聞いていたほうが気楽だ。

 いきなり一般の観客が乱入して、スクリーンの中のキャラクターと小粋なトークができるだろうか?

 絶対につまらないだろう。現実世界の人間はつまらないんだ。

 だからこそ観客は変な気を回す必要がない。映画がつまらなければつまらないって言って帰ればいい。とても気楽なもんだ。それがあるべき姿だし、それがエンターテイメントだ。


「いやあああ! 誰か、誰か助けてええ!! 誰か、誰か誰か誰か……! あぁ、ああああ……」

「無駄だ……この森には貴様らを助けられる存在などいない。ここで1人ずつ孤独に死ね……!」


 ……俺なら……助けられるんだけどね……。


 もうあの4人ではこの状況の打開は無理だろう。

 奇跡は起こりそうもない。

 展開が読めてきた……。

 ストーリーは既に煮詰まっている。

 この作品は、もうつまらない……観客席から立ってここから出よう……。

 ……だからこそ…………。


 俺は座っていた観客席――木の枝を両手で弾くと、エルとディアナがいる方向めがけて飛び降りた。


 『ドンッ』とずしりとした重い音を立てて俺は地面へと着地した。

 俺はこの星の『200倍』の質量があるから大事になると思っていたが、思いのほか人間っぽく常識的な着地ができるようだ。


「…………君は……?」


 憔悴しきっていたはずのエルは目を大きく見開いて、そう俺に話しかけた。

 あなためっちゃ身体燃えてますよ。


「あー、やばかったかな……つい飛び出しちまった……」俺は両手を上げ首をかしげてエルに微笑んで見せた。「だってこんなストーリー展開じゃ、観客の大多数がオークでもない限りウケないだろ。観客の中にいる人間代表としては抗議の一つでもしたくなるぜ」


 『映画』のキャラクターと意思疎通をする。俺の妄想ネタにはよくあることだが、実際にやってみると案外普通だな。さて……。


「おい、あんたが『バルログ』だな? つまんねえ無双ものやってんじゃねえぞ、もうちょっと駆け引きを大事にしろよ!」

 俺は『バルログ』に振り返りビシっと指をさして言い放った。


「なんだ、貴様は……」はい、そうです。私が貴様です。


 中世ファンタジー映画『炎と森のカーニバル』は、俺という『第四の壁』を突破した『観客』の登場によって上映を中断することになった。

 これからの展開は俺が考えて俺がコントロールしなければならない。俺はとうとう『脚本家』になってしまった。

 さあ、どう進めていけば正解なんだろう? ……そこんとこは自分でもよく分からん。


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