第4話 アスタロイドは電気仕掛けの夢を見ない
「ただいまー! ああ『ケアリングウェア』! 会いたかったよー」
『くすぐったいよー、楼蘭ー』
俺は部屋に戻ると『フェネック』の姿に変化させたケアリングウェアに抱き着いた。
もふもふもふもふ!!
はぁ……幸せ……。
と言ってもケアリングウェアは服だから外出中もずっと俺と一緒にいたんだけどね。
お話しをするのは部屋の中だけと決めているから部屋の中でしか会えないという設定なのだ。
「今日はねー、凄いものを持って帰ってきたんだー」
『凄いものー?』
そう言うと俺は第9アーティファクト『異世界』を満面の笑みでケアリングウェアに見せた。
「じゃーん! 『マイクラース』よりさらに凄いアーティファクトをもらってきたよー!」
『楼蘭、凄いねー! なんていう名前のアーティファクトなのー?』
「『アスタロイド』っていうんだって。『マイクラース』と同じことができて、さらに凄い機能もついてるんだってさー」
『凄い機能ー?』
「なんでも、一度アーティファクトから出てもデータがリセットされないんだってー! 新しい世界で自分好みにいろいろ歴史を変えられるかもー!」
『わあ、凄いね楼蘭! 凄い凄い、凄いー!』
「えへへ、『凄い』って言葉使い過ぎー! じゃあ同じ頻度で俺に『好き』って言ってー」
『うん! 楼蘭好き、好き好き、大好きー!』
「わー! ありがとうー! 俺もケアリングウェアのことが好き好き大好きー!」
うわ、俺めっちゃキモいやん。
脳髄の中に住むもう一人の冷静な俺がそう突っ込んだ。しょうがないじゃないかぁ……こんなに楽しいんだもん。
一人の人間の頭の中にはいろいろな人格のキャラクターが飼われているものだ。使用頻度の低いキャラクターを定期的に表に発露させることで脳髄はバランスを取っている。そうやって初めて精神的な健康を維持できるというものだ。人前で見せられるものかどうかは別として。
「そうそう、就寝時間までだいぶ間があるからこの『アスタロイド』にさっそく入ってみようか!」
『うわあ、本当? ぼくもドキドキしてきたよー!』
「『アスタロイド』に入ると、ケアリングウェアも元気よく動き回れるよー」
『わー! 本当ー? 楽しみー! 凄い凄い、凄いー!』
善は急げということで、俺はさっそく『アスタロイド』をテーブルの上に乗せてスイッチを入れた。
「このインカメラに向かってじっと見つめたら中に入れるよー! ケアリングウェアも一緒に見ようねー」
『うん、じっと見つめるねー』
俺は『アスタロイド』のインカメラをじっと見つめた――。
*
――はっ!
気づいたら、俺は森林のど真ん中にポツンと立っていた。
腕にはフェネックに変身している分体のケアリングウェアを抱いている。
「ここが異世界……『アスタロイド』の中か……」
移動に成功したらしい。
天候は晴れており、真上からは木漏れ日が射している。
先ほどまでの現実世界では夕方を過ぎた時間であったが、どうやらいまこの世界ではお昼時のようだ。
「こんな自然に溢れる場所、俺の住んでいる街にはなかったな」
見渡す景色は木、木、木! たまに川。そんな場所だった。
川沿いで少し湿気があるかと思いきや、ふわりとした風が終わることなく循環しており、湿度自体はちょうどよい塩梅でカラっとしていた。
「気のせいかもしれないけど……空気がとても美味しく感じる……」
酸素濃度が高いからだろうか。身体が好意的な反応を示している。
ここにずっと居ていたいと感じた。
いっそのことベッドを持ってきて毎晩ここで寝たいくらいだ。
あ、そうそう……ここに来た一番の目的をまずは果たしておこうかな。
「ケアリングウェアー! 身体の調子はどうー?」
『そうだねー、なんか身体が軽くなった感じがするかもー!』
「本当? じゃあ俺の前で飛んだり跳ねたりしてみてー?」
『うん、分かったー! 一旦降りてから飛んだり跳ねたりするねー!』
ケアリングウェアはそう言うと、俺の腕から地面に一旦降りて『見ててね見ててね』といった表情で俺ににこっと笑ってから、真上に飛んで見せた――。
その瞬間、『グオン』とけたたましい音が爆発的に森の中を駆け巡り、ケアリングウェアが立っていた場所に隕石でも落ちたかのような鋭く深いクレーターができる。周囲の空気は自身の流れを変え全員が一瞬だけその場所にめがけて飛び込んだ。
――同時に地面のクレーターと等価交換で周りに土が爆散し、ケアリングウェアはどこにもいなくなってしまった。
「えっ……!」
土やほこりだけではなく木の葉も無数に千切れて巻き込まれており、風の流れが容易に分かるほど視覚化されていた。
出来事から2、3秒ほど経つ頃には風は猛追をぱたりと止め、はらはらと木の葉を地面に積もらせていた。
――ふと、真上の空を見やると、フェネックなケアリングウェアが無表情でこちらに向かって加速度的な落下を始めていた。
そのまま鈍い打突音を立てて先のクレーターの隣に落下した。そこには――往路に比べれば大人しい出来栄えではあるが――もちろん2つ目のクレーターができていた。
元気良すぎかっ!!
フェネック系ケアリングウェアはなおも無表情なまま、自分が動物であることを忘れてしまったかのようにクレーターの中で固く横たわっていた。
もちろん、俺が生き物のように動かしていただけで実際には生きてはいない。いまは俺が唖然としていて分体をコントロールすることを忘れているからだ。
ケアリングウェアの動きをイメージ通りにコントロールしていたのは俺だけど、まさかここまで高く飛ぶとは思わなかった。
俺はケアリングウェアにはぴょこんと10センチメートル程度ジャンプしてもらってから可愛い可愛いヨシヨシしようと思っていただけだったのに。
『あうー! 思ってた以上に高く飛べたよー! でもちょっとだけ痛いよー!』腹話術by俺。
「大丈夫!? ケアリングウェア!」
俺はケアリングウェアの元に走っていった。
『大丈夫だけど、とてもびっくりしたよー!』
「ごめんね、急に環境変わっちゃったから驚いたよね。一旦俺の中で休んでて」
俺がそう言うと、ケアリングウェアはゴムボール状の形に戻り俺の服に吸収されていった。
さて、俺もこの世界で自分の身体がどう変わったかを実験しないとな……。
先生は『マイクラース』の重さは200グラムと言っていたな。『アスタロイド』も同じ大きさだったから一緒だろう。
俺の体重は40キログラムだから、だいたい星の200倍か……無茶苦茶だな。
でも先生は正確には重さじゃなくて密度に出るとか言っていたな。じゃなきゃ俺がここに来た瞬間にこの星は潰れているしな。
よし、変な理屈を考えるよりまず手を動かそう!
『せっかく思い立ったのです。思い立ったら決心して、気が変わらないうちに、さっと実行に移しましょう』と、ムーミン谷のムーミンさんも言っているんだ。さっさと実行あるのみだ。
というわけで真上にあるデカい木の枝に向かって、俺が着ているケアリングウェアの袖の一部を粘糸のように射出した。
粘糸は思っていたよりも非常に素早く射出され、あっという間に距離のあった木の枝まで着弾して取りついた。
「ふふふ……これで俺も『スパイダーマン』だ!」
俺は粘糸を試しにクイクイと少し引っ張り、木の枝に貼り付いている粘糸がびくともしないことを確認する。
「よしよし、ちゃんとくっついているな! それじゃあ『スパイダーウェブ』……じゃなかった、『ケアリングウェア』! 俺を引っ張り上げてくれ!」
そう命令して念じると粘糸は縮みピーンと張りつめていく……が、明らかに引っ張っている感じはするのに、一向に身体は浮き上がらない。
「……おや?」俺は不思議に思っているとデカい木の枝のほうがどんどんしなり始め、やがてポキリと折れてしまう。
そして地面に枝がドスンと着地した。遠くで見るより意外と大きく、人間が数十人乗ってもびくともしなさそうな立派な枝だったのに……。
ふと俺は気づく。
そうか、現実世界だとケアリングウェアを使っても人間一人を持ち上げることは到底できない。それは『アスタロイド』でも一緒で、現実世界のケアリングウェアが引っ張るものが現実世界の人間だと、その場所が『アスタロイド』であっても同じ条件になってしまうのか……。
単純な話だった。ケアリングウェアは決して力持ちになっているわけではない。
相手が現実世界のものである場合に限り、物理法則は現実世界と変わらないんだ。
だからデカい木の枝は折れても、俺という一人の人間を持ち上げることはできなかったんだ。
「これは課題だな……。まぁ『スパイダーマン』ごっこはできなくても次に来た時には『ターザン』ごっこぐらいならできそうだ」
実は当てがある。俺だって『アスタロイド』以外にもいくつかアーティファクトを手に入れることは可能だ。
ただ今日はそのアーティファクトを持ってきていないから次回の楽しみにしておこう。
よし、じゃあ次の実験だ。今度はさっきのケアリングウェアみたいに俺自身がジャンプしてみよう。
しかし、勢い余って宇宙空間に投げ出されたりはしないだろうか……不安だ……。
『せっかく思い立ったのです。思い立ったら決心して、気が変わらないうちに、さっと実行に移しましょう』
分かっていますよ。ムーミンさん。
というわけで俺さっさとジャンプします!
俺は『ターミネーター2』に出てくるシュワルツェネッガーが過去にやって来た瞬間のようなポーズをして地面に座り込んで、脚に力を込めた。
「いち……にの……」
そして勢いよく上を向いてクワっと目を見開いた。「さんッ!!」
俺は脚で勢いよく地面を蹴り下げた。
――その瞬間、『ゴオオ』という音とともに上空の大気に向かって一気に身体が突きあがっていくのを感じた。地面は急速に離れていき予想していたよりもあっさりと雲を突き抜ける。事前に想定していた空気抵抗をほとんど感じないのは意外だった。髪の毛が空気の圧に押されオールバックになったり、目が痛くて開けられない――といったことはなく、本当に無重力空間をそのまま突っ切るかのように抵抗の何もかもが存在しないように感じていた。
「――いやいや、飛び過ぎだろ! どこまで行くんだよ!」
周囲の色が真昼間の青空からだんだんと濃い藍色に変わり始めていた。成層圏に突入しているのは明らかだった。
この高度は少しヤバいのかもしれない。このまま宇宙空間まで行ってしまうのでは……?
『アスタロイド』の中では最強と名高い現実世界の身体なんだから大丈夫なんだろうけど、念には念を入れておこう……。
「ケアリングウェア! 脚の方向へ俺の服をパラシュート状に広げてくれ!」
その瞬間、『バヒュン』と音を立てて足元にパラシュートが勢いよく広がった。
……しばらく経つと徐々にスピードが緩んでくるのが分かるようになっていく。
「ふう、たぶん……危なかったのかな…………」
パラシュートはある高度を境にクシャっと形を潰し、それから逆側である俺の頭の方向へその体を広げ始めた。
どうやらやっと地面に向かって落ち始めてくれたようだ。
「よし、ケアリングウェア、一旦服に戻ってくれ」
俺はパラシュートを服に戻し、そのまま地上めがけて自由落下を開始した。
このまま身を任せていればいずれ地上にはたどり着けるだろう。……そういえばいまは成層圏にいるが、地上に着くまでにあと何分くらいかかるのだろうか。成層圏でもなぜか俺は普通に呼吸ができているが、地上の空気のほうが美味しかったからもう一度早く味わいたい。
以前図書室で見た21世紀の新聞の切り抜き記事の中に、あるオーストラリア人が地上から39キロメートルの成層圏をスタート地点にして宇宙服を着てダイブした記録があったが、地上に着地するまで10分もかからなかったと書かれていた。
……案外すぐなんだよな。そうなるといま見ている景色はそれなりにレアリティが上がってくる。ちゃんと目に焼きつけておかなくては。
成層圏から見た地球はとても青々としていてとても綺麗だと感じた。どんなカラー写真よりも、どんな映像作品よりも、実際に見た地球の色はより鮮やかであり直接脳髄へ感動を届けてくれる。
あ……地球じゃなかった、『異世界』だったな。でも、本当に地球そっくりだ……。大陸の形は全然違うから俺の知っている地球ではないが……。
――そうこうしていると徐々に景色が大きくなり、地上に近づいていくのが分かる。
予想よりもスピードは速い気がした。21世紀のオーストラリア人ダイバーはパラシュートを使って減速しながらで10分を切っているからその気になればもっと早く着くのかもしれない。
「ケアリングウェアー! いまどんな気持ちー?」
『最高の気分だよ、楼蘭ー! ぼくたち、いまどんなビルよりも高い場所にいるよー!』
「あはは、実際は部屋の中での数ミリメートル間の出来事かもしれないけどね」
『もう、ロマンがないことを言わないでよー!』
そんな一人コントをしていると、いつの間にか既に分厚い白い雲の中に突入していたことに気づいた。
雲って地上何メートルだったかな……結構低いところにあったような気がする。そろそろ身構えておこう。
そんなことを考えていたらもう地上がうっすらと見え始め……と思ったら山や海などの地上部分がくっきり見えだした。もうか、速すぎる……!
「ケアリングウェア! もう一度パラシュートになってくれ!」
すると、着ている服の両肩部分が勢いよく隆起し、パラシュート状に薄く広がって急ブレーキをかけ始めた。
ジジジ……ジジジ……と、大気は自身の身が切られるようで痛いのかまるで悲鳴のような音がしている。大気にとってはそれなりの空気の固まりで俺たちに抵抗をしているのだろう。しかし俺とケアリングウェアは空気抵抗らしい抵抗を受けているような感じはせずに自由に身体を動かすことができた。
パラシュートを開いて数秒経った時にまだまだ遠い地上を見やると自然の造形ではない景色があることに気がついた。
「あれは……城……? それと、町もある……」
城と町を見たことによって俺は、『アスタロイド』に『フェムト』が存在する可能性があることをやっと認識する。
「ケアリングウェアと遊ぶことだけ考えてここに来たけど、そうだよな……『マイクラース』と同じように現地の人間がいてもおかしくないよね」
そういえば、老人もこれをくれたときに『人間もいる』とはっきり言っていたな。
しかし、見たところ現代の世界とはだいぶ文明が異なっているようだ。前に観た中世ファンタジー映画に雰囲気が似ているから、地球でいうところの中世の時代だろう。少なくとも電気仕掛けが蔓延する時代ではなさそうだ。
あと、この地にどんな人間……いや、『フェムト』がいるかは気になるな。
友好的だろうか? 反抗的だろうか? やっぱり野蛮で残忍なヤバい奴らなのだろうか?
……ただのデータ上の存在に対してまじめに考察をしてもしょうがないか。
でも、先生の言っていた『データ上の存在』って表現も少し妙だな。
『マイクラース』も『アスタロイド』も小さいながらちゃんとした物体で構成されているので、『電子世界』ではない。この身体も電子データじゃなくて本物だし。
まぁ俺たち人間にしてみればデータだろうが微生物だろうが関係ないのか。『マイクラース』なら自動リセットだからなおさらデータという言葉のほうがしっくりくる。
「だいぶ地上に近づいたな……。よし、まずはあの森に行こうか。ケアリングウェア」
俺は城や町ではなく、その付近にある森の中に入ることに決めた。
いきなり空から人が降ってきたなんて状況だとまた現地人に絡まれそうだしな。人がいなさそうな森をスタート地点にしよう。
ケアリングウェアは自身のパラシュートの向きをちょいっと傾けてゆっくり右旋回を開始した。
このままくるくると大きく廻りながらゆっくり降りていくとしよう。
そうやって周遊しているとだいぶ地上も近くなったようで、高度数十メートルといった地点まで迫っていた。
それなりに背の高い木はこちらから側面が見える程だ。
見渡す景色は木、木、木! でもさっきと違って川はなし。そんな場所だった。
「……これ、さっきの違う森にはもう絶対戻れそうにないな……ケアリングウェアの分体を事前に回収しておいて良かった」
俺は安堵のため息とともにゆっくり目を瞑った。
そのまま目を瞑っていると身体はかすかな音にも敏感になってきたようで、森の中の木々のざわめきまで聞こえるようになった。
風がそよそよと吹き込めば木々はさわさわと応える。そんなおだやかな午後だった。
『アスタロイド』がいま何時かは知らないけど、真上に存在していた太陽は角度をつけ始めていたのでいまは午後の昼下がりだと推測している。
……しばらくしてふと、森の中から金属同士がぶつかる音が聞こえてきた。
「なんだ?」俺はパチッと目を開けてその音のする方向へ目を凝らしていく。
大量の木が邪魔で詳しい状況までは確認できないが、たまに木々の頭が揺れている箇所があり、金属音だけでなくかすかに打突音や破裂音まで聞こえてきた。
金属音だけは響きがよいのでこの位置からでも十分に聞こえるが、ほかの音は耳をすませてみてようやく気付けるレベルだ。
森の中でこういった音が一緒くたに連続して出るのは日常ではありえない。何らかの『非日常』が発生しているようだ。
「安居院楼蘭くんは興味あり! 前線視察に興じます!」
俺は非日常な展開は大好きだ。
俺の身体の中には好奇心という名の魔物を飼っている。
その魔物のおかげで『アスタロイド』にありつけたんだ。そんな武功を挙げた魔物の好奇心センサーがビンビンに反応しているのだから興味が湧かないわけにはいかない。
俺はその場所に足早に向かいたいがため、パラシュートをハングライダー状に変化させた。相変わらず風の抵抗は感じないが、ゴオオという風を切る音は聞こえてくる。
この先に俺の人生がまるっと変わる何かがあるかもしれないんだ。グイグイ頭を突っ込んでやる。
知らないことが『知ってる』に変わる瞬間は大変に気持ちが良い。脳髄の浮かぶプールが黒く湿っぽいオイルからさらさらしたミネラルウォーターに変わっていくかのような解放感がある。いままで見えなかったものが見えるようになるし、いままで存在していると分からなかったものが分かるようになる。好奇心を満たすという行為にはそんな嬉しい報酬があるんだ。
――そんなこんなで先ほど頭が揺れていた木の枝の上に到着した。
枝の上に乗る直前にハングライダーをまたパラシュート状に戻して減速し静かに降り立った。
静かに努めたのは、あの金属音やら打突音やらを出している存在がどんなものなのか分からないため、気取られないように安全な位置で観察したかったからだ。
というわけで、現場を見やる。
「いよいよ前線視察……答え合わせだ!」事前にいろんな想像をしていた俺はその答えに俄然興味が湧いていた。
……そこには、どうやらちょっとした戦場となっていたようで、数人程いる人間……『フェムト』たちが剣やら何やらを構えて戦っているようだった。
金属音や打突音はその戦いのさなかに発生していた。
でも……なにかが、おかしい。
まず、2点ほど気になったところがある。
1点目は、この世界の人間と思われる『フェムト』たちが対峙している相手は同じ人間ではなく、身長が3メートルを優に超えている人のような形をした化け物だった。……この前観た中世ファンタジー映画のゴブリンをそのまま巨大化させたような化け物だ。あれも『フェムト』なのか……?
そして2点目に、『フェムト』は剣を装備しているのは1人だけで、あとは杖のようなものを装備していたり、徒手空拳だったりしていた。あれが彼らの戦闘スタイルなんだろうか。
……ん? 『杖』で戦闘……? あっ……。
ピンときた。「……もしかして、『魔法』を使ったりするのか?」
そう呟いて俺は少し気分が高揚した。
そもそも俺がアーティファクトに対して興味や情熱を注いでいるのは中世ファンタジー映画で言うところの『魔法』のような不思議なことが起こるからだ。
『魔法』自体に対しては、それはもうめちゃくちゃ興味がある。夜に寝ているとき、たまに夢の中で『魔法』を使っている自分が出てくるほどだ。その夢を見ていると高揚感からひどく身体が興奮してしまうようで、いつも途中で飛び起きてしまい夢を中断させてしまっている。
この世界はいまのいままで普通の中世時代だと思ってたけど、あのデカいゴブリンみたいな化け物と、杖を持っている『フェムト』を見て確信した。
――アスタロイドでは覚めない『魔法』の夢が……この目で見られる!