その13
流星との因縁に終止符を打ったアレス。ワンちゃんモフモフファイトの賞金も手に入り、後は王都に戻りいつものふしだらな日常を謳歌するだけであった、のだが。
「ふっふふ~ん」
一夜明けたその日の昼下がり、見るからにご機嫌なアレスの姿は意外にも、旧フェノー砦の前にあった。手には紆余曲折を経てゲットした砦の封印を解く札が握られている。
「にしても意外ね~」
いつものラフな格好に戻ったビスタは頭の後ろで手を組みながら言う。
「あんたがまさか自分から砦に行くとか言い出すなんて。てっきりこのまま帰ってあることないこと大きく盛った武勇伝を町中に言いふらすものとばかり思っていたわ」
「このままにしておく訳にもいかないからな~」
「アレスパイセンマジ尊敬っす!」
ビスタは元より、すっかり意気投合していたレディアも付いてきていた。危険だからとビスタは止めていたのだが、強引に押し切った形だ。
「うち一生付いていきやす! シスター辞めて勇者道極めるっす!」
「まーた始まったわね、レディアの移り気」
「ほう、そう言ってくれるか。実は君のことは前々から見込みがあると思っていたのだよ、特に胸元。これが片付いたら俺の弟子にしてやろう」
「あざっす!」
ビスタはやれやれと肩をすくめつつも、柔らかな表情を浮かべながら彼らを見ていた。
「でも少し見直したわ。あんた、いいとこあるじゃない。この前の王様の手紙のおかげかしら」
「は? お前は何を言っているんだ?」
「ほら、腕輪ハメられた時に王様からあんたのことを思って~みたいな手紙貰ったじゃん?」
「だから何だ?」
「それがあんたの心に突き刺さって、こうして砦の魔物を倒しに来たんでしょ?」
「はぁ~?」
的外れなことをのたまう彼女に、アレスは怪訝な表情を向けた。
「この期に及んでお前は何も分かっていないようだな」
「ちょっと、分かっていないって何よ!」
アレスは門へと近づいていく。ぼんやりと封印の魔法陣が浮かんでいた扉だったが、札を貼り付けると魔法陣は消え去り、重苦しい音を立てながら独りでに開き出した。
「砦の魔物なんてついでだバーカ! 奴とは別にもう一人決着を付けないといけない人物がいるんだよ~い!」
鼻をだらしなく伸ばし切ったアレスはスキップしながら砦へと入っていった。その後を、もう一人? と首を傾げたビスタとレディアも小走りに追っていく。
旧フェノー砦。かつての敵国リヤンの監視と国土防衛のための前線基地として作られた砦だ。箱型の建物の四隅に円柱を付けたような外装で、昔は屋上やその円柱上からリヤンを監視していたと言う。そのリヤンも先の魔物大戦により壊滅。戦後はルフェールに吸収され今ではここも無用の産物となっている。
閉鎖されてまだそんなに時間が経ってないせいか中は結構小奇麗で、とてもではないが危険な魔物が封印されているとは思えない空間である。非常食と思われる樽が至るところに見られ、壁や棚に掛けられている武器にも錆や劣化は見られず今も現役で使えそうだ。部屋の数は多いが会議室や食堂、トイレ、浴室などを除けばそのほとんどが二段ベッドが二つ並ぶだけの狭い寝室だった。アレス達はそんなつまらない部屋でも一つ一つ確認していく。
「いないわねー。本当にいるのかしら? もしかして封印されている間に餓死しちゃったんじゃないの?」
「そんじょそこらの野生動物と一緒にするな。それに探しているのは魔物じゃねぇよ」
「あんたの言うもう一人を探しているって訳?」
「そうに決まってんだろ。大体こんな大仰な砦に封印した魔物が、狭い部屋の小さいベッドでスヤスヤ寝息を立てている訳ねぇじゃんよ」
「アレスパイセン~、階段ありやしたよ~」
一階を粗方探し終えたアレス達は、同様に上の階も捜索していく。三階建ての内部を全て探し終えれば、残るは屋上のみ。梯子の先、蓋をするように天井に取り付けられた扉を開くと、ふわっと新鮮な空気が頬を撫でる。
「さーてようやくご対面の時間がやって来たようだっ、と」
屋上に参上したアレスの視線の先には、ヒンヤリとした風を一身に受け黒髪をはためかせる女性の姿があった。




