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勇者の息子 ~異世界転移と魔王の復活~  作者: 地脇ニク男ドル子
勇者の息子は女に甘い
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その5

「いいか、この線だからな!」

 入室早々、アレスは我が物顔で仕切り始めた。


「この線からこっちが俺達の領地、そっちがお前! ただしルドンナちゃんはフリーパスだ!」

「いや、それじゃ僕が部屋から出られないんだけど……」

「窓があるだろ!」

「え、えぇ~……」

 この無理難題には流星並びに女性陣も苦笑いだった。


「こいつの言うことは気にしなくていいから。普通に跨いじゃって構わないわよ」

「戦争だ! 跨いだら戦争だからな! 国土侵犯で武力行使に出る!」

「ごめんね、せっかく相部屋してくれたのにこんな面倒くさい奴が一緒で」

「お前はどっちの味方なんだ!」

「そりゃもちろん現勇者様に決まってるでしょ。あんたなんかと違って謙虚で物腰穏やかで」

「ならちょうどいい! 貴様も敵兵だ! ここで成敗してくれる!」

「望むところよ! また負かしてやるんだから! 今のうちになっさけない負け惜しみでも考えておくことね!」

「だーかーらー! 俺は負けていなーい!」

 聖剣を再び交わし始めた二人。てんやわんやを乗り越えて来たのにまだまだ元気そうで何よりである。

「何だか賑やかになりそうだね」

「私はちょっと、賑やかなのは苦手、です」

 二人の喧嘩を片や微笑ましく、片や困惑した様子で見つめる流星とルドンナだった。


「この後どうしようか? 宴にはまだ少し時間が掛かるって言うし」

「でしたら先にお風呂へ行きますか? 入れる時間は今しかなさそうですし」

「そうだね。気になったんだけど、ここってお風呂はどうなっているんだろう?」

「宿にはないみたいですよ。近くの大衆浴場を使うみたいです」

「大衆浴場かぁ、参ったな。ゆっくり出来そうにないかも」

 と言いつつも、入るには入るようだ。二人はアレス達の横を平然と通って部屋を後にした。

「ぐぬぬ……ん?」

「っとと、いきなり剣を引っ込めるんじゃないわよ」

 二人が退室した後しばらく、剣を一旦引いたアレスはぐるりと室内を見渡していた。


「二人は何処へ行った?」

「さぁ? さっきあたし達の横を通るのは見えたけど」

「国土侵犯じゃぁぁぁぁぁい! 戦争じゃぁぁぁぁぁい!」

「あ、ちょっとどこ行くのよ!」

 勝手に宣戦布告し、アレスは聖剣片手に部屋を飛び出した。行き先はとりあえず酒臭いカウンターだ。

「聞きたいことがある」

 従業員に二人の行き先を問うと、あっさりと口を割ってくれた。

「ちっ、逃がしたか。風呂とは考えやがったな」

 風呂の中では当然転生返しを手放すことになる。レーヌの加護下になければ、アレスに勝ち目などありやしない。恐らく流星もルドンナもそこまで考えてはいないだろうが、アレスにとっては非常に計算高く思えていた。


「よろしければアレス様も如何です?」

「今宵は忙しくなるんでな。明日にでも入る」

「それは残念です。この小さな村唯一の名所、リヴェール川を望める露天風呂は夜間限定解放なのですが」

「気が変わった! 風呂に入ってくる!」

 返していた踵を更に返す。その目には例の、邪なことを考えた時の光を宿していた。

「アレス様、大衆浴場の場所は知っておられるのですか?」

「ろってん~、ろってん~、楽しいろってん~!」

 従業員の声など聞こえちゃいない。アレスの頭の中は露天風呂で一杯なのだから。スキップしながら宿を出ると、大衆浴場ではなく村の外のリヴェール川を目指した。


「女の子が川を望む時、川もまた女の子を望んでいるのだ! 俺は今から川になる!」


 清らかな川の音に、バカみたいな叫びが雑ざり合う。下心とは本当に、人にとんでもない行動力を与えるものである。空では星々が綺麗な輝きを見せている。村ではもう宴が始まっていることだろう。そんな折に、女の子が風呂に入っている保障などないと言うのに。


「あらあら、こんなところで何をしているのかしらね~」

 準備体操を行うアレスの後方から一つ、人影が差した。

「川を下って露天風呂を覗こうと思ってね。今は入念に準備体操中よ」

「そこまでして露天風呂を覗こうだなんて。一体誰の裸体をお望みなのかしら?」

「俺の知り合いに小さいながらも、ムッチムッチでバインバインな子がいてね。その子がまだ入っていればいいなぁ、って思っていたんだけど」

 最後に首を左右に鳴らすとアレスはゆっくりと振り向いた。


「どうやら叶わなそうだよ、ルドンナちゃん」


 妖艶な雰囲気を漂わせながら佇むルドンナの方へと。

「いやしかし、ずいぶんと大胆なイメチェンだね」

 黒を基調とした丈の長い一枚着。胸元のガードは依然として固い割に、足元に入る大胆な切れ込みがアレスにとって心憎い。トレードマークだった頭巾は脱ぎ去っており、代わりにサラサラの黒い長髪がベールのようにルドンナの存在を盛り立てている。

「いい、実にいい! その足とか最高! あ~、踏まれてぇ!」

「貴方はこの状況でも変わらないのね。ある意味で尊敬するわ」

「あれ? もしかして好感度上がっちゃった?」

「まさか。この変態」

 蔑むような薄ら笑いを浮かべながらの発言に、アレスの好感度メーターは完全に振り切っていた。


「もう一回! もう一回言って欲しい! 背中がゾックゾクする!」

「欲張りさんね~。この、変態」

「罵倒の言葉への興奮と、俺が言わせているっつう征服感がミックスしたこの感覚、もう最っ高!」

「満足そうで何よりよ。さて、そろそろ本題に入りましょうか」

 ルドンナが右手を広げると、その上には一冊の本が現れた。

「その本は俺とのデート計画が書かれた本かな?」

「そうだといいわね」

 どうやらもうこの手の会話には乗ってくれないようだった。ルドンナの罵倒をリピート出来ないことを心の中で惜しみつつも、仕方なくアレスも少々真面目に話を進めていくことにした。


「俺のことは宿を出たところから?」

「ええ、そうよ。勇者に近づかれたら面倒だからね。なのに貴方ったら」

 ルドンナはこれまで喋って来た中で、一番大きく口元を吊り上げた。

「勇者に近づくどころかこうして、のこのこと村の外に出てくれちゃって」

「俺の中ではあいつへの復讐よりも、女の子の順位の方が上でな」

「本当にお馬鹿さん。でも、私としては都合がいいわ」

 話している間にも本は自動的にパラパラとめくれ、間もなくピタリと停止。それに伴うように、ルドンナの両隣には魔法陣が出現した瞬間した。


「今ここで始末出来るんだもの」

 

 魔法陣からは続々とツノネズミが湧いて出てきた。一直線にアレスに向かって突進を始める。

 その一匹一匹の軌道を見切り、順次転生返しで叩き切る。周囲にはネズミの体液と真っ二つになった体が。穏やかな草原地帯と川を汚していく。このネズミの波はさほど長くは続かず、最後の一匹を倒し終えると静寂な夜が再来した。


「ここら周辺での異常繁殖ってのは、もしかして君のせいかい?」

 剣を一度振り、周囲にネズミの血を飛び散らせながら尋ねる。

「そうね、ペットちゃんを解き放ったのは私。十匹くらいかしら」

「やっぱり」

「でもここまで繁殖するとは思わなかったわ。きっと私のペットちゃんとは違って、ここのツノネズミはひ弱なのね」

 第二陣がやって来る。二匹の長い魔物は魔法陣から飛び出るなり、地面へと潜行し始めた。

「地面に潜るタイプの魔物は見たことがないな」

「この大陸にはいない子よ。せっかくだし繁殖させようかしら」

「ご冗談を。うちの軟弱兵士の手には余る」

 魔物は地中の奥深くに潜んでいるようで、周囲には土の盛り上がりが見られない。アレスは剣を地に突き刺すと、珍しく精神を集中させていく。剣に伝わる微弱な振動を元に、魔物のおおよその位置を掴もうとしているのだ。最初は微弱で特定が難しかったものの、大きくなってきてからは別。十、九、八、とカウントを進めていき、ゼロになった瞬間剣を引き抜き真後ろを振り向いた。


「そこっ!」

 アレスの読み通り、地中からは大きなミミズのような細長い魔物が飛び出してきた。しかし難なく一閃すると、続いてもう一匹の処理へ。こちらも既に位置の特定は済んでいる。瞬時に体を前に向けると、ちょうどそのタイミングで魔物の片割れが土埃を舞い立て顔を出していた。挟み撃ちにするつもりだったのだろうが、アレスの方が一枚上手である。それぞれ二つに分断されたミミズはうねうねと地面をのた打ち回り、やがてピクリとも動かなくなった。


「手加減してくれているのかい? もっとたくさんの魔物を呼べばいいのに」

「召喚術にも色々と制約と言うものがあるのよ。貴方の方こそ、何で私を攻めてこないの? 召喚の大元を絶たないと、永遠に終わらないわよ」

「俺には絶対に曲げない信念が三つある。その一、売られた喧嘩は絶対買う。その二、やられたら何が何でもやり返す。その三、女の子には手を出さない」

「あら、優しいのね」

「よく言われる。っと、ちょっと待って」

 三度魔法陣が出現したところを、アレスは手で制してタイムを掛けた。


「あまりお喋りの長い男性は好みじゃないわ」

「まぁまぁそう言わずに。一つだけ提案、いやこの戦いのルールを明確にしたい」

「ふーん、まぁいいわよ。続けて」

「この戦いでは君が俺を殺せば勝ちだ。俺の場合は、そうだな。時間一杯まで君の召喚術を凌いで生き残れば勝ちとしよう。そうなると、だ」

 アレスは言いながら人差し指を一本立てた。

「一つの不平等が生じる。何か分かるかい?」

「さぁ? 特にこれと言った不平等は思い浮かばないわね」

「俺は命が掛かっている。一つしかないとても貴重なものだ。一方でルドンナちゃんはと言うと?」

「……貴方の言いたいことは分かったし、これから何を言おうとしているのかもおおよその見当がついたわ。そのうえで敢えて聞いてあげる」

 どうしたいのかしら? と、彼女は冷たい声で尋ねかけた。待ってましたとばかりに、アレスは鼻息荒く宣言する。


「ズバリだ! 俺が勝ったらおっぱいを揉ませてもらおうか!」


 わしわしと手を動かすアレスに、流石のルドンナもクスクスと可笑しそうに声を出していた。

「面白い子ね。ああ、好感度は上がってないわよ」

 先に釘を刺され、アレスは言葉に詰まってしまう。

「いいわ。勝てたらご褒美をあげる」

「マジで!? よっしゃ! 何か急にやる気が出て来た!」

 お預けされていた第三陣がようやくお披露目される。無骨な鎧、手には鋭い剣と頑強そうな盾。一見して、ただの兵士が三人である。


「ふふふ、その子達、中身は空っぽだから安心して切りつけて頂戴」

「ま、そうだろうな」

 この期に及んでただの兵を召喚する訳もなく。鎧達はアレスに向かって襲い掛かってきた。一旦飛び退きある程度の距離を取ると、じっくりと観察を始める。一対多数なら各個撃破が定石、どうやって鎧同士を分断すべきか。戦略を練っていたものの、彼は頭を使う作業は苦手だ。流れの中で何とかなるさ、と楽観的に構え鎧達へ立ち向かっていった。


「とりあえず一発!」

 一体の鎧に目掛け剣を振り下ろすも、盾で弾かれ甲高い音が鳴るだけであった。鎧の反撃は身をさっと引いて回避。その間にも残りの二体は彼を取り囲むよう、三角形に配置されていた。背後の気配にも気を配りつつ、まずは目の前の鎧一体を処理することにアレスは集中する。

 次は鎧の方から接近、剣を振り下ろしてきた。その斬撃を受け止め、相手の一撃の重さをしっかり腕で確認する。中身がないせいなのだろう、大した一撃ではない。剣の振りも一般兵よりやや遅いくらい。見た目に反して意外と力はなく、見た目通りにズブい。これさえ分かってしまえば力でごり押し出来る。重く鋭い一撃を、何度も鎧に向かって叩きつけていく。相手は盾で防戦一方だった。

 その劣勢状況を見かねたのか、後方の一体が襲い掛かる。アレスは前方の盾を蹴りつけ反転。空気を切るかの如く、力強い振りにて襲い掛かる剣を弾き飛ばすことに成功した。更に次に来るであろうもう片方の鎧には視線で牽制、少し距離を置いた。鎧の包囲から脱したはいいが、蹴り飛ばした鎧はのそりと立ち上がり戦線復帰。剣のない鎧は盾だけで戦いを続行するつもりのようだ。


「思っていたよりやるわね、所詮は名ばかり勇者だと思って甘く見ていたわ」

「ガキの頃から親父によく魔物狩りに連れまわされたもんでね。親父が死んでからも魔物狩りや訓練は続けたな。女の子にかっこいいとこ見せつけるために、だけど」

「目的は不純でもその強さは立派よ。欠片も惚れないけど」

「そりゃ残念」

 と、気丈に返答するアレスだが、心の声は違った。


「あいつら弱点とか見当たらないんだけど! くそう、俺のおっぱいが!」

 そう、相手の鎧の倒し方が全く分からず焦り気味だったのだ。中に人はいない、武器を飛ばしたところで戦意喪失もしない、転生返し程度の細身の剣では鎧を真っ二つにすることも難しい。まさにアレスにとっては難敵とも言える存在だった。

「こうなりゃ逃げるか? いやしかし、おっぱいチャンスをみすみす棒に振る訳には……」

「あーてすてす、聞こえるかー、変態勇者」

 命と下心を天秤にかけていたアレスに聞こえて来たのは、女神レーヌの声だった。

「苦戦しているお前に、ありがた~い助言をしてやるから、ありがた~く聞くのじゃぞ」

「前置きはいいから早くしろ」

「あら、次の子が欲しいのね。胸裏詠唱も終わったところだし、遠慮なく召喚させて……」

「違う違う。ルドンナちゃんに言った訳じゃなくて」

「あらそうなの? でも残念、もう召喚が始まっちゃったわ」

 ルドンナを中心とした地面に展開されていく一際大きな魔法陣。そこから徐々に姿を現していく魔物は、今までのザコとは明らかに見た目も雰囲気も、そして大きさも違っていた。

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